Journal Club 2016
腫瘍科で行っているJournal Clubの要約を掲載いたします。内容の詳細につきましては原著論文をご参照ください。
2016.10.21.
飼育犬による非ホジキンリンパ腫モデルを用いたGS-9219の評価
Assessment of GS-9219 in a pet dog model of non-Hodgkin's lymphoma.
Vail DM, Thamm DH, Reiser H, Ray AS, Wolfgang GH, Watkins WJ, Babusis D, Henne IN, Hawkins MJ, Kurzman ID, Jeraj R, Vanderhoek M, Plaza S, Anderson C, Wessel MA, Robat C, Lawrence J, Tumas DB. Clin Cancer Res. 2009 May 15;15(10):3503-10.
目的:GS-9219は、ヌクレオチドアナログである9-(2-ホスホニルメトキシエチル)グアニン(PMEG)のプロドラッグで、PMEGやリン酸化代謝物が悪性リンパ腫のような細胞増殖活性の高いリンパ球に選択的細胞毒性を呈する。GS-9219の自然発生性の犬の非ホジキンリンパ腫における薬物動態、安全性、活性を評価した。
研究デザイン:proof-of-conceptの獲得のために、GS-9219のphaseⅠ/Ⅱ試験が非ホジキンリンパ腫に罹患した飼育犬(n=38)を対象に異なる用量・投与スケジュールを用いて実施された。一部の犬ではFLT-PET/CTを用いて治療の前後にさらなる評価を実施した。
結果:プロドラッグの血漿中半減期は短かったが、細胞傷害性のPMEGの二リン酸化代謝物は末梢血単核細胞中において高濃度で長期間検出され、PMEGは血漿中では検出されなかった。用量制限毒性は一般に制御可能で可逆性であり、皮膚病、好中球減少症、消化器症状が含まれた。抗腫瘍効果は79%の犬で認められ、前治療歴のない犬や化学療法抵抗性の非ホジキンリンパ腫でも認められた。寛解期間の中央値は、非ホジキンリンパ腫に対する他の単剤治療よりも優れていた。治療前に認められた高いFLTの集積は治療後に有意に減少した。
結論:GS-9219一般に十分忍容性があり、病態モデルとなる飼育犬の自然発生性非ホジキンリンパ腫に対して有意な活性を呈し、この結果は人における臨床評価を支持するものである。
コメント
犬のNHLに対する化学療法はCHOPベースプロトコールが現在まで標準治療となっているが、既存の薬剤の組み合わせでは治療成績の改善には限界があると思われる。人のNHLでは分子標的薬リツキシマブの登場により治療成績は向上したものの、一定の割合で薬剤抵抗性の患者が認められており現在様々な新規抗がん剤の開発が試みられている。
本研究では犬のリンパ腫に対する初期治療あるいはレスキュー治療として、新規抗がん剤のGS-9219のみを投与しその安全性や有効性を評価している。本研究ではPhaseⅠ/Ⅱ試験を同時に実施しているため、様々なレジメンを使用した症例を対象としており寛解期間を他の薬剤と比較することは困難であるが、ヌクレオチドアナログとしては既存の薬剤(Ara-Cなど)より遥かに優れた抗腫瘍活性を持つと思われる。GS-9219に伴う骨髄抑制は軽度であるものの、皮膚病や高ビリルビン血症などがDLTとして認められており既存の薬剤とは副作用の好発部位が異なるようである (本論文中では高ビリルビン血症に関しては言及がなく、その発生機序は不明である。)
本論文以降、GS-9219に関する様々な研究が発表されており今後は既存の薬剤との併用やそれによるリンパ腫の治療成績の向上に期待がかかる。GS-9219 (rabacfosadine, TanoveaTM)は犬のリンパ腫の臨床試験を完了しFDAの承認待ちとなっているが、著者らの最終目標は犬だけではなく人における使用である。獣医領域から医療に対する新規抗がん剤の提唱は画期的な試みであり、比較腫瘍学の観点からも非常に興味深い。獣医療、医療双方におけるGS-9219の今後の展開に期待したい。
2016.10.14.
単一施設での猫の肝細胞癌19頭の臨床的特徴
Clinical Characteristics of Hepatocellular Carcinoma in 19 cats from a Single Institution (1980-2013).
Goussev SA, Center SA, Randolph JF, Kathrani A, Butler BP, McDonough SP. J Am Anim Hosp Assoc. 2016 Jan-Feb;52(1):36-41.
猫の肝細胞癌(HCA)の臨床的特徴はあまり分かっていない。
この回顧的研究において、HCAの猫19頭のシグナルメント、臨床的特徴、臨床病理パラメーター、画像特性、肝臓マスの大きさと肝葉の分布、併発疾患、生存期間を評価した。
HCAは高齢猫における稀な腫瘍であり、体重減少、食欲低下、肝臓トランスアミナーゼ活性の増加としばしば関連している。併発疾患(例えば、甲状腺機能亢進症、炎症性腸疾患、胆管肝炎、銅関連肝障害)が臨床および臨床病理所見で同時に発見されることも多い;HCAの42%は偶発的に確認された。21%の猫しか腹部massが触知されなかったが、ほとんどのmassは超音波画像検査で確認され、47%の病変は4cmより大きかった。腫瘍は右葉と左葉にほぼ同等に分布し、2例では複数葉に存在した。
生前に診断した8頭の猫の生存期間中央値は1.7年(0.6-6.5)であった。HCAの外科的切除を行った6頭の猫の生存期間中央値は2.4年(1.0-6.5)で、この原稿提出時に2頭は生存中である。外科切除後にカルボプラチンで治療した1頭の猫は4年生存した。生前に診断し、外科的切除をしなかった2頭の猫の生存期間はそれぞれ0.6年、1年であった。
コメント
猫の肝細胞癌は比較的珍しい腫瘍であり、これまでに本研究ほど症例を蓄積した報告がなかったため、これらは貴重なデータであると思われる。猫の肝臓における悪性腫瘍は予後不良と考えがちだが、犬と同様、猫の肝細胞癌は外科切除を行うことで長期生存が期待できる可能性がある。肝細胞癌よりも予後の短い胆管癌等との鑑別が重要になり、飼い主へ正確な情報を提供するためにも組織生検の実施が望ましい。診断時の年齢中央値は14歳で、8例は病理解剖時に偶発的に確認されているため、高齢猫の健康診断の一環として定期的に腹部超音波検査を行うことが、早期発見につながるかもしれない。
甲状腺機能亢進症を併発している症例が多いことは興味深いが、肝細胞癌と関連しているかどうかについては、甲状腺機能亢進症の猫を大規模に調査する必要があると思われる。
2016.10.7.
多中心性リンパ腫の犬における連続的な血液凝固能モニタリング
Serial haemostatic monitoring of dogs with multicentric lymphoma.
Kol A, Marks SL, Skorupski KA, Kass PH, Guerrero T, Gosselin RC, Borjesson DL. Vet Comp Oncol. 2015 Sep;13(3):255-66.
リンパ腫は、犬におけるもっとも一般的な造血系悪性腫瘍で、凝固亢進とそれに続く血栓塞栓症に関連する。この研究の目的は、多中心性リンパ腫の犬における凝固機能の変化を連続的に調べることである。トロンボエラストグラフィー、TATの評価に加え、一般的な血液検査、凝固検査を行った。27頭の犬が研究に使われ、そのうちの15頭が寛解状態で研究を終えた。診断時、81%(22/27)のリンパ腫の犬が血液検査で凝固亢進を示した。凝固亢進状態は、治療中や、寛解から1ヶ月後も解決しなかった。化学療法終了後の血餅形成速度上昇は、生存時間の短縮に関連した。多中心リンパ腫の犬の大部分は、化学療法を完了してから4週間は凝固亢進状態となっていた。化学療法を完了した犬における、angle上昇と、K短縮は、生存期間の短縮に関連していた。
コメント
リンパ腫における血栓症・血栓塞栓症はあまり意識されていないように感じる。本研究では、“化学療法完了後の、K短縮、Angle増加は生存期間の短縮に関連した”という結果だったが、これが事実だとすれば、化学療法完了後のTEG測定は、その後の予後指標として有用だといえる。しかし、症例数が少なく、より大規模な研究は必要であろう。抗がん剤により、腫瘍壊死や炎症が生じると考えると、プレドニゾロンやLアスパラギナーゼに限らず、どの抗がん剤も少なからず間接的に凝固因子に影響を与えている可能性がある。人の多発性骨髄腫では、治療薬で血栓症のリスクが上昇することが知られており、治療薬と同時に低分子ヘパリンなどの併用が推奨されている。他のがんにおいても、静脈血栓症が生じた場合は、抗凝固薬を使用し、再発予防の内服が考慮される。犬のリンパ腫で血栓症を生じる症例がどの程度存在するか、詳細は不明であるが、血栓予防を目的として、抗凝固薬を投与するのは、意味のあることかもしれない。
2016.9.23.
CD8+CD4+比調整CD19-特異的キメラ抗原受容体改変T細胞療法による非ホジキンリンパ腫の治療
Immunotherapy of non-Hodgkin's lymphoma with a defined ratio of CD8+ and CD4+ CD19-specific chimeric antigen receptor-modified T cells.
Turtle CJ, Hanafi LA, Berger C, Hudecek M, Pender B, Robinson E, Hawkins R, Chaney C, Cherian S, Chen X, Soma L, Wood B, Li D, Heimfeld S, Riddell SR, Maloney DG. Sci Transl Med. 2016 Sep 7;8(355):355ra116.
CD19-特異的キメラ抗原受容体(CAR)改変T細胞は、B細胞悪性病変において抗腫瘍活性を持つが、リンパ球減少療法の違いや個々の患者に投与されたCAR-T細胞が異なるため、毒性と効果を表す因子の特定は困難であった。われわれは特定のT細胞集団より製造し、CD4+とCD8+を1:1に調節したCD19CAR-T細胞を用いた臨床試験を行った。再燃または難治性のB細胞非ホジキン型リンパ腫の32人の患者に、フルダラビン(Flu)ありまたはなしのシクロフォスファミド(Cy)ベースのリンパ球減少化学療法を行った後に、CAR-T細胞を点滴注入した。Flu投与なしのCyベースのリンパ球減少療法を受けた患者よりも(8%完全寛解(CR)、50%奏功率(ORR))、Cy/Fluリンパ球減少化学療法を受けた患者は、CAR-T細胞発現が増加し、持続し、高い反応率を示した(50%CR、72%ORR)。最大耐量でCy/Fluで治療を受けた患者のCR率は64%だった(82%ORR n=11)。Cy/FluはマウスのCARのscFvへの免疫反応の効果を最小限にするため、Fluを用いないCyベースのリンパ球減少治療を受けた患者においてCAR-T細胞の拡大と臨床効果に限界があった。重篤なサイトカイン放出シンドローム(sCRS)とグレード3以上の神経毒性は、すべての患者の13%、28%で認められた。CAR-T細胞点滴注入1日後の血清中バイオマーカーはその後に起こるsCRSや神経毒性と相関があった。ある一定のCD4+CD8+比のCD19CAR-T細胞を用いた免疫療法は、CAR-T細胞の拡大、持続、毒性の因子と相関があることがわかり、リンパ球減少治療の最適化、反応率や無憎悪期間の改善に役立つだろう。
コメント
CAR-T細胞療法は再燃性および難治性の血液がんに有効な可能性がある。問題点としては、CAR-T細胞投与前に化学療法を用いたリンパ球減少療法を行う必要があり、その療法はまだ確立されていない。リンパ球減少療法やCAR-T細胞の投与量によっては重篤な毒性を示してしまう可能性があり、効果および毒性を評価するためにさらなる検討が必要である。また、個別治療になるため大変コストがかかり、その点も改良の必要がある。
CAR-T細胞療法は、ウイルスベクターを用いて遺伝子改変した細胞を体内に戻す方法であり、日本においてはカルタヘナ条約により遺伝組み換え生物の扱いになるため、すぐに獣医療に取り入れるのには難しいが、犬の骨肉腫の腫瘍株を用いたin vitroの試験的な報告はあるため、今後の動向に注目したい。
2016.9.16.
エリスロポエチンは腫瘍の血管新生と灌流を増加させることでカルボプラチンの蓄積と治療効果を改善する
Erythropoietin Improves the Accumulation and Therapeutic Effects of Carboplatin by Enhancing Tumor Vascularization and Perfusion.
Doleschel D, Rix A, Arns S, Palmowski K, Gremse F, Merkle R, Salopiata F, Klingmüller U, Jarsch M, Kiessling F, Lederle W. Theranostics. 2015 May 1;5(8):905-18.
組換えヒトエリスロポエチン (rHuEPO) は、EPO治療を受けた患者の有害作用についての試験や 腫瘍および内皮細胞におけるエリスロポエチン受容体(EpoR)の発見により、化学療法誘発性貧血 (CIA) の治療として議論されている。
セラノスティック近赤外蛍光プローブとしてEpo-Cy5.5を用いて、EpoR発現が異なる腫瘍細胞 (A549よりもH838は8倍高い) の非小細胞肺癌 (NSCLC) 異種移植におけるrHuEpoとカルボプラチンの効果を分析した。
皮下にA549およびH838のNSCLC異種移植を行ったヌードマウスに対して、カルボプラチン単独か、2つの異なる用量のrHuEpoとカルボプラチン併用投与を行った。腫瘍サイズおよび相対血液量 (rBV) は、3D造影超音波(3D-US)で、長時間測定した。腫瘍のEpoRレベルは、蛍光分子トモグラフィー(FMT)/マイクロコンピュータ断層撮影法 (μCT) ハイブリッドイメージングを使用して決定した。我々は、rHuEPOが主に腫瘍内皮に作用することを発見した。両方の異種移植片は、rHuEPOの併用によって大幅に血管密度、直径および灌流血管の量が増加するにしたがって、rHuEPOはEpoRのリン酸化を誘発し、内皮細胞の増殖を刺激した。しかし腫瘍の成長は、カルボプラチン単独処置と比較してrHuEPOの併用で有意に遅かった。これはEpo誘発による血管再構成にて薬物送達が改善し、2倍以上のカルボプラチンの蓄積、腫瘍のアポトーシスが有意に増加したことによって説明される。また、rHuEpoの併用はカルボプラチン処置中に生じる腫瘍の低酸素化やEpoR発現の減少を低下させることが判明した。これらの知見は、至適な用量でのrHuEPO併用は、抗癌剤の蓄積を改善するために有用であることを示唆している。今後、用量および適応症について、セラノスティックEpoRプローブを用いて個別化および最適化されるかもしれない。
コメント
近年、抗癌剤の薬剤送達改善を目的に、腫瘍部の間質を改善する薬剤と併用した研究が行われている。本論文ではEPOによる血管再構成に起因する薬剤送達改善の効果に着眼した。
化学療法は、有害事象としてたびたび貧血を生じさせる。それを改善するために、人医療では、EPO投与や輸血によって対応している。しかし、このEPOはin vitroにおいて腫瘍細胞の増殖を促進させるとの報告があるが、機能EpoR経路はヒト乳癌、非小細胞肺癌、結腸直腸、卵巣腫瘍組織から単離された原発腫瘍細胞からは検出されないとの報告もある。また、EPOによる腫瘍部の血管再構成や灌流の増加は癌の進行や転移を高める可能性がある。実際、人臨床研究でも生存率が縮小するとの報告がある。一方で、がんに罹患したCIA患者に対するEPO使用は生存率が延長するとの報告もある。つまり、常にEPOの使用の制限がされているわけではなく、「NCCNのガイドラインによると化学療法期間中以外はEPOを投与すべきでない」、「CIAの患者は治療中以外を除きESA療法をうけるべきでない」、「CAI患者のQOLが改善させる」との報告もあることから、化学療法時の場合に限りEPO併用は有益性が高いと考えられる。
しかし、小動物分野ではヒトEPOを用いており、その使用に対してリスクや使用可能回数が限られている。また、人医療でもEPOの至適投与量や投与法が確立されていない。そのため、小動物分野ではCIAに対するEPO投与はハードルが高く、安全なプロトコールが確立されるまでの当面の間は貧血が重度で輸血が行えない場合の緊急時での使用に限られると考えられる。しかし、CIAに対してEPOが使用できること、化学療法や放射線療法の治療効果を高められる可能性があるため、必要以上に避ける必要はないと考える。また、CIAの改善によりQOLが高まることから、QOLを重視する考えを持つ患者に対する新たな治療の選択肢にもなり得ると考えられる。
現段階では、EPOを腫瘍に罹患する患者に対して投与することに関して人医療分野でも意見が一致していないことから、今後の人医療分野および獣医療分野における臨床研究結果が報告されることを期待したい。
2016.9.9.
び漫性大細胞型B細胞リンパ腫におけるPD-L1発現亢進の遺伝子的機序
Genetic basis of PD-L1 overexpression in diffuse large B-cell lymphomas.
Georgiou K, Chen L, Berglund M, Ren W, de Miranda NF, Lisboa S, Fangazio M, Zhu S, Hou Y, Wu K, Fang W, Wang X, Meng B, Zhang L, Zeng Y, Bhagat G, Nordenskjöld M, Sundström C, Enblad G, Dalla-Favera R, Zhang H, Teixeira MR, Pasqualucci L, Peng R, Pan-Hammarström Q1. Blood. 2016 Jun 16;127(24):3026-34.
び漫性大細胞型B細胞リンパ腫(DLBCL)は、もっとも多いそして侵潤性の高いB細胞性リンパ腫のひとつである。DLBCLでみられる特徴のひとつとして、特にイムノグロブリンH鎖の遺伝子座(IGH)の遺伝子転座の後に起こる、がん原遺伝子発現の脱抑制があげられる。全ゲノム配列の解析を行うことによって、DLBCLが再発するときに起こるIGHの転座のパートナーとして、我々はPD-L1/PD-L2の遺伝子座を特定してきた。またPIM1とTP63は、新規のPD-L1/PD-L2との転座のパートナーとして特定した。さらに、浸潤性のDLBCL群を迅速に選択するために蛍光in situハイブリダイゼーションを使った。全体としてサンプルのサブセットは、増加(12%)、増幅(3%)、遺伝子転座(4%)に影響されることがわかった。免疫組織化学とRNA配列のデータから、それらの細胞遺伝学的変化はPD-L2ではなくPD-L1の発現の増加と関連があることが分かった。さらに、DLBCLのnon-germinal center B cell-like (non-GCB)サブタイプでPD-L1/PD-L2の遺伝子座に影響する細胞遺伝学的変化がもっと頻繁に観察された。これらの発見は、DLBCLで起こるPD-L1過剰発現の遺伝的根拠を明らかにした。また、PD-L1―PD-L1/PD-L2経路をターゲットにした治療はDLBCLの患者に、特により浸潤性の強いnon-GCBサブタイプに属する患者にとっては効果があるだろうということを示している。
コメント
今回の研究で、in vitro の実験でのPD-L1の転座と発現増加が、臨床例でも証明されたことから、今後の治療法の開発に役立つデータであると言える。また、PD-L1の遺伝子上に転座のブレイクポイントがあるにもかかわらず、なぜPD-L1蛋白の発現がおこるのかは明確に記載されていないが、おそらく蛋白質の構造を決めるエキソン部分は転座されても残っていたのかもしれない。ただし、この転座後に発現したPD-L1蛋白が実際にT細胞の免疫機能の不応答を誘導するのかどうかは不明である。
この実験のなかで用いたサンプルの3群のうち、中国人群とそれ以外の群のサンプル数に大きな偏りがあり中国人群の数がほかのアメリカ人とスウェーデン人の数よりも圧倒的多い。よって、アメリカ人とスウェーデン人のサンプル数を増やすべきであろう。
また、治療法として「PD-1ーPD-L1/PD-L2を阻害する治療法による効果が期待できる」とある。これについて現在PD-L1とPD-1をそれぞれブロックする薬剤が存在する。しかしPD-1をブロックするとPD-L1とPD-L2両方のシグナルをブロックすることになる。よって、PD-L2の機能が明確になってないことを考えると、PD-L2も同様にブロックしてよいのか疑問が残る。このことから、その3種類のどこをブロックするのが患者にとって最善の方法であるのかを検証するためにも、未だ詳しい機能が明らかになっていないPD-L2の機能を明らかにする必要があるだろう。
2016.9.2.
偶発的に発見された非破裂脾臓腫瘤における悪性腫瘍の発生率と予後
Incidence of malignancy and outcomes for dogs undergoing splenectomy for incidentally detected nonruptured splenic nodules or masses: 105 cases (2009-2013).
Cleveland MJ, Casale S. J Am Vet Med Assoc. 2016 Jun 1;248(11):1267-73.
目的:破裂していない脾臓腫瘤もしくは結節が偶発的に検出され、脾臓摘出術を受けたイヌの悪性腫瘍の発生率と生存率を調査する。
デザイン:レトロスペクティブスタディ
動物:105匹のイヌ
方法:破裂していない脾臓腫瘤もしくは結節が腹腔内出血を伴わずに偶発的に検出された症例を特定するために、2009から2013年の間に獣医教育病院で脾臓摘出術を受けたイヌのカルテを調査した。組織学的に確定診断されたイヌのみ含まれた。シグナルメント、術前の診断に向けた検査、周術期の血液製剤の輸注(輸血)、脾臓腫瘤の直径、組織学的所見、補助療法 、生存期間に関する情報を集め、分析した。
結果:105の症例のうち74(70.5%)は良性の脾臓病変であり、31(29.5%)は悪性腫瘍であり、このうち最も多かったのは血管肉腫であった(18/31[58%])。術前のPCVの増加に伴い死亡のハザードは減少した; 悪性腫瘍という病理組織学的診断と死亡のハザードは有意に関連した。良性の病変のイヌの生存期間中央値 は436日であり、悪性の病変のイヌは110日であった;良性の病変である74症例のうち41症例と、悪性腫瘍の31症例のうち3症例は研究中には生存していた。血管肉腫のイヌの生存期間中央値は132日であった;ただし、これらの18のイヌのうち7症例しか補助的な化学療法を受けていなかった。
結論と臨床的関連: 腹腔内出血を伴わず、偶発的に検出された破裂していない脾臓腫瘤もしくは結節のほとんどは良性であった。結果は、偶発的に脾臓の良性もしくは悪性の病変が検出されたイヌの生存期間は迅速な処置により以前に報告された研究より良好であったことを示唆している。
コメント
破裂していない脾臓腫瘤・結節を早期発見、治療介入することで生存期間が延長する可能性を示したデータとしてオーナーが治療選択をする際に参考にできるため、臨床的に役立つと考えられる。
しかし、今回の研究では破裂していない脾臓腫瘤・結節の症例の生存期間のみを示しており、破裂している脾臓腫瘤・結節の症例の生存期間と厳密には比較できていない。この2つの生存期間が比較できれば、より有用なデータとなるのではないかと考えられる。
研究結果にはいくつかの疑問点が存在し、1つは良性病変と悪性腫瘍の生存期間を示したカプランマイヤー生存曲線において、良性病変のイヌの死亡率が高いことが挙げられる。この原因として、今回の組み入れ症例の年齢の中央値が11歳であり犬種は大型犬が多いため自然死の症例が多かったこと、脾臓摘出が症例の死亡率に影響を及ぼしたこと等が考えられるが、著者たちはこれについて考察をしていない。また、病変の良悪性を予測する因子としてエコー輝度、腫瘤の直径、PCV、TP、FNAの利用等を評価しているが、データ処理の方法を理解するのが困難であり、また考察が十分になされていない点が存在する。
今回の結果、疑問点を踏まえた、脾臓疾患に関するさらなる研究を期待する。
2016.8.26.
Caenorhabditis elegansの嗅覚を用いた高精度包括的がんスクリーニング検査
A highly accurate inclusive cancer screening test using Caenorhabditis elegans scent detection.
Hirotsu T, Sonoda H, Uozumi T, Shinden Y, Mimori K, Maehara Y, Ueda N, Hamakawa M. PLoS One. 2015 Mar 11;10(3):e0118699.
早期発見、早期治療はがんの根治に重要であり、経済的で非侵襲的な新たながんスクリーニングシステムの開発が重要である。以前の犬による匂い検出の報告で、がん特異的な匂い物質の存在が実証された。しかし、医療現場への導入 は、犬のにおい検知は正確性の維持が必要いであるため困難である。本研究では、経済的で痛みがなく、迅速で簡便な新たな高精度がん検出システム Caenorhabitis elegansを利用した、線虫におい検出検査 (NSDT) を開発した。我々は野生型 C.elegansが、人がん細胞分泌物、がん組織、がん患者の尿に対して正の化学走性を示すが、コントロール尿に対しては忌避行動を示し、また、C.elegansの嗅覚神経のがん患者の尿に対する反応は、コントロール尿に対してよりも有意に強かった。一方、Gタンパクα変異体や嗅覚神経破壊体は、がん患者尿に誘引されず、 これは C.elegansが、尿中の匂いを感知していることを示す。我々は242検体をNSDTで検査し、その精度を測定したところ、感度は 95.8%と既存の腫瘍マーカーよりも高かった。さらに特異度も 95.0%であった。より重要なことには、この検査は早期ステージの様々なタイプのがん (ステージ0または1) を診断できることである。結論として、C.elegans嗅覚分析は疾患関連香気を検出するための新たな戦略を提供するかもしれない。
コメント
人における腫瘍マーカーは様々なものが開発されているが、がんの再発の発見や、がんに対する治療効果の判定などの補助的利用が一般的であり、腫瘍マーカーによるがんの早期発見は難しい現状がある。本論文のNSDTは感度、特異度ともに高く、実用化できればがんの早期発見のためのスクリーニング検査として期待出来る。しかし、NSDTの診断に用いられている化学走性アッセイの走性インデックスの算出に関しての明確な基準の記載がないため、どのようにして誘引行動と判断したのかわかりにくい。また、本論文におけるがんの種類も食道癌、胃癌、大腸癌、乳腺癌、膵臓癌、胆管癌、前立腺癌の7種類しかなく、他の悪性腫瘍や良性腫瘍に関する記載も見当たらない。より広範囲のがんに対する検査により、有用ながんスクリーニング検査としての実用化に期待したい。また、犬や猫などの動物の尿においても同様に NSDTが応用できれば、腫瘍マーカーの少ない獣医療においても有用ながんスクリーニング検査となるかもしれない。
2016.8.19.
進行(ステージ3b)肛門嚢腺癌における外科あるいは小分割放射線治療による予後比較
Outcome in dogs with advanced (stage 3b) anal sac gland carcinoma treated with surgery or hypofractionated radiation therapy.
Meier V, Polton G, Cancedda S, Roos M, Laganga P, Emmerson T, Bley CR. Vet Comp Oncol. 2016 Jun 9. [Epub ahead of print]
ステージ3bの肛門嚢腺癌(ASGC)は命を脅かし得る。外科的なアプローチはいつも可能なわけではなく、断念することもある。3bの肛門嚢腺癌の犬に対し外科治療を行ったものと、3.8Gy × 8回の放射線原体照射治療(RT)をしたもの(Total30.4Gy、2.5週間)をレトロスペクティブに評価した。患者の特徴、無増悪期間中央値(PFI)と生存期間中央値(MST)が比較された。28症例が含まれ、うち15症例で外科治療、13症例でRTが行われた。診察時、21%が命を脅かす排便障害を呈し、25%が高カルシウム血症を呈した。外科治療を行った症例でのPFIとMSTは159日(95%信頼区間:135−184日)と182日(95%信頼区間:146−218日)であり、いずれもRTを行った症例の347日(95%信頼区間:240−454日)と447日(95%信頼区間:222−672日)よりも有意に低い値であった(P=0.01、P=0.019)。外科治療はRTと同等の症状の初期緩和をもたらした。外科治療をした症例のPFIと生存期間は放射線小分割原体照射で治療した同等の症例群よりも有意に劣っていた。
コメント
ASGCは転移率が高く、進行したASGCに対しては外科治療が適応できないこともある。また、この腫瘍は放射線感受性が高いことが知られているが、進行したものについては放射線障害のリスクが高く、今まで放射線小分割治療の有効性を示す十分な研究は存在しなかった。本論文は、リンパ節への転移が認められる、進行したASGCに対する放射線小分割照射と外科切除の治療効果を比較したものである。本論文では症例数こそ多くないものの、放射線治療において有意に長いMSTとPFIを得ている。また、放射線障害についても軽微である。このことは、今後ASGCに対する放射線治療を飼い主に提示する場合の、根拠の一つとなると考えられる。ただし、画像によるフォローアップが十分に行われていないことから、PFIの評価や治療反応性の評価については疑問が残り、留意が必要である。
2016.7.22.
犬の肛門嚢アポクリン腺癌に対するカルボプラチンの術後補助化学療法の効果
Evaluation of adjuvant carboplatin chemotherapy in the management of surgically excised anal sac apocrine gland adenocarcinoma in dogs.
Wouda RM, Borrego J, Keuler NS, Stein T. Vet Comp Oncol. 2016 Mar;14(1):67-80.
犬の肛門嚢アポクリン腺癌(ASAGAC)で広く受け入れられている標準的な治療はない。多くの場合、外科単独では不十分だが、補助的化学療法の利点は十分に確率されていない。このレトロスペクティブ研究の主な目的は、ASAGACの術後におけるカルボプラチンの効果を評価することである。自然発生のASAGACの犬74頭に外科手術を行った。44頭は術後にカルボプラチンを投与し、30頭は投与しなかった。中央生存率(OS)は703日であった。無増悪期間中央値(TTP)は384日であった。診断時の腫瘍サイズと転移リンパ節のみ、有意な予後因子であった。OSとTTPにおいて、術後カルボプラチンを投与した犬としなかった犬の間に統計学的な有意差はなかった。疾患が進行している状況での化学療法は生存が有意に延長した。この研究は、カルボプラチンの補助的化学療法が十分に認容できることと、ASAGACの犬の管理に意味を持つ可能性があることを示している。
コメント
犬の肛門嚢アポクリン腺癌は、局所侵襲性と高い転移率を特徴とし、集学的治療が必要とされている。しかし、化学療法の効果については十分に研究されていない。この研究では、原発病巣および転移リンパ節の郭清を行った後のカルボプラチンの効果について検討している。著者らは、投与したほうが予後の改善につながるという仮説を立てたが、予後は改善されない結果となった。これについて考えられる理由として、患者の選択にバイアスがあったことが一つ挙げられているが、十分には語られていない。また、病状が進行している状態でのカルボプラチン投与については有意に生存期間が延長しているが、化学療法を行っていない群については、全身状態が悪いために行えなかったというバイアスが考えられるが、その点については考察されていない。いずれにせよ、今回の研究からカルボプラチンによる術後補助化学療法の優位性は証明されず、現時点で積極的に行う根拠とはならないであろう。今後はその理由を探るとともに、外科治療と放射線治療との比較など、他の治療法についても検討していく必要があると考えられる。
2016.7.8.
コルチコステロイド治療を受けた犬猫における経皮的内視鏡下胃瘻造設術(ペグチューブ)の合併症
Complications of Percutaneous Endoscopic Gastrostomy in Dogs and Cats Receiving Corticosteroid Treatment.
Aguiar J, Chang YM, Garden OA. J Vet Intern Med. 2016 May 23. [Epub ahead of print]
背景:コルチコステロイドは、獣医療において炎症性、免疫介在性疾患や神経疾患、腫瘍性疾患の患者において一般的に用いられる治療であり、その患者たちはペグチューブによる経腸栄養の支持が必要とされるかもしれない。
目的:コルチコステロイド療法を受けている犬と猫に使用したペグチューブの合併症を評価する
対象動物:42頭の犬猫(ステロイド使用群:12頭の犬、2頭の猫。コントロール群:26頭の犬と2頭の猫)
材料と方法:2006年1月~2015年3月における診療記録を調査。少なくとも24時間ペグチューブの使用があった症例で、詳細な医療記録データが存在する患者を用いた。患者はペグを使用中にステロイドを用いたグループとステロイドを使用しなかったグループにわけられた。合併症はその程度を軽度、中程度、重度に分類した。また最も重度な合併症の割合について2グループ間で比較された。
結果:一般的な合併症の頻度は2つのグループ間で類似していたが(P= .306)、重度な合併症の発生割合はステロイド使用グループの43%と比較して、ステロイドを使用してないグループは18%であった(P= .054)。
結論と臨床的重要点:ステロイド治療を受け、ペグチューブを検討している犬と猫の飼い主にはペグチューブの使用方法だけでなく、それ以上にペグチューブの合併症の可能性について助言されるべきである。
コメント
癌末期や終末期において、食餌摂取が不可能または不十分な状況によく遭遇する。ペグチューブの設置は、消化管を通じてより生理的な栄養摂取が可能であるためQOLの改善に繋がる。またペグチューブからの薬剤投与も可能なことから、飼い主さんのストレスは軽減され、実際の満足度は非常に高いと日々の診療を通して感じている。
一方、ステロイド治療は消炎効果はもとより、抗浮腫や悪液質改善等を目的とし、緩和治療において重要な位置を占める。
ペグチューブ使用時におけるステロイド併用の合併症については、長期管理において重大な合併症が高まる可能性が今回の報告にて示唆された。そのリスク説明が不十分であるとトラブルを招く可能性があり、また患者にとって重大な不利益をもたらす。臨床獣医師はステロイド投与に十分に注意し、ペグチューブの合併症に常に留意することで、可能な限りトラブルを避けるべきである。その使用法に説明が偏りがちである現状をふまえ、飼い主に合併症についても、理解してもらうことが重要であると考えられる。
2016.7.1.
飼育犬を用いた非ホジキンリンパ腫モデルにおけるGS-9219の評価
Assessment of GS-9219 in a pet dog model of non-Hodgkin's lymphoma.
Vail DM1, Thamm DH, Reiser H, Ray AS, Wolfgang GH, Watkins WJ, Babusis D, Henne IN, Hawkins MJ, Kurzman ID, Jeraj R, Vanderhoek M, Plaza S, Anderson C, Wessel MA, Robat C, Lawrence J, Tumas DB.
Clin Cancer Res. 2009 May 15;15(10):3503-10.
目的:GS-9219は、ヌクレオチドアナログである9-(2-ホスホニルメトキシエチル)グアニン(PMEG)のプロドラッグで、PMEGやリン酸化代謝物が悪性リンパ腫のような細胞増殖活性の高いリンパ球に選択的細胞毒性を呈する。GS-9219の自然発生性の犬の非ホジキンリンパ腫における薬物動態、安全性、活性を評価した。
研究デザイン: proof-of-conceptの獲得のために、GS-9219のphaseⅠ/Ⅱ試験が非ホジキンリンパ腫に罹患した飼育犬(n=38)を対象に異なる用量・投与スケジュールを用いて実施された。一部の犬ではFLT-PET/CTを用いて治療の前後にさらなる評価を実施した。
結果:プロドラッグの血漿中半減期は短かったが、細胞傷害性のPMEGの二リン酸化代謝物は末梢血単核細胞中において高濃度で長期間検出され、PMEGは血漿中では検出されなかった。用量制限毒性は一般に制御可能で可逆性であり、皮膚病、好中球減少症、消化器症状が含まれた。抗腫瘍効果は79%の犬で認められ、前治療歴のない犬や化学療法抵抗性の非ホジキンリンパ腫でも認められた。寛解期間の中央値は、非ホジキンリンパ腫に対する他の単剤治療よりも優れていた。治療前に認められた高いFLTの集積は治療後に有意に減少した。
結論:GS-9219は一般に十分忍容性があり、病態モデルとなる飼育犬の自然発生性非ホジキンリンパ腫に対して有意な活性を呈し、この結果は人における臨床評価を支持するものである。
コメント
犬のNHLに対する化学療法はCHOPベースプロトコールが現在まで標準治療となっているが、既存の薬剤の組み合わせでは治療成績の改善には限界があると思われる。人のNHLでは分子標的薬リツキシマブの登場により治療成績は向上したものの、一定の割合で薬剤抵抗性の患者が認められており現在様々な新規抗がん剤の開発が試みられている。
本研究では犬のリンパ腫に対する初期治療あるいはレスキュー治療として、新規抗がん剤のGS-9219のみを投与しその安全性や有効性を評価している。本研究ではPhaseⅠ/Ⅱ試験を同時に実施しているため、様々なレジメンを使用した症例を対象としており寛解期間を他の薬剤と比較することは困難であるが、ヌクレオチドアナログとしては既存の薬剤(Ara-Cなど)より遥かに優れた抗腫瘍活性を持つと思われる。GS-9219に伴う骨髄抑制は軽度であるものの、皮膚病や高ビリルビン血症などがDLTとして認められており既存の薬剤とは副作用の好発部位が異なるようである (本論文中では高ビリルビン血症に関しては言及がなく、その発生機序は不明である。)
本論文以降、GS-9219に関する様々な研究が発表されており今後は既存の薬剤との併用やそれによるリンパ腫の治療成績の向上に期待がかかる。GS-9219 (rabacfosadine, TanoveaTM)は犬のリンパ腫の臨床試験を完了しFDAの承認待ちとなっているが、著者らの最終目標は犬だけではなく人における使用である。獣医領域から医療に対する新規抗がん剤の提唱は画期的な試みであり、比較腫瘍学の観点からも非常に興味深い。獣医療、医療双方におけるGS-9219の今後の展開に期待したい。
2016.6.24.
自然発生腫瘍の犬におけるTK1濃度とCRP濃度
Thymidine Kinase Type 1 and C-Reactive Protein Concentrations in Dogs with Spontaneously Occuring Cancer
Selting KA, Ringold R, Husbands B, Pithua PO.
J Vet Intern Med. 2016 May 23. [Epub ahead of print]
背景:血清中チミジンキナーゼタイプ1(TK1)と犬のCRPを測ることで、腫瘍の犬が検出できるかもしれない。これら2つの値からIndexを求めることで、各々の検査結果単独よりも、正確に診断できる可能性がある。
目的:この研究の目的は、腫瘍に罹患した犬と健康犬における、血清中TK1、cCRP、それらから計算したNeoplasia Index(NI)を比較することである。
動物:腫瘍の犬(253例)と腫瘍に罹患していない犬(156例)
方法:回顧的症例対照研究。腫瘍群は、血液サンプルを提出したのち、腫瘍と確認されたものであり、個々の詳細な情報は回顧的に集められた。健康犬(コントロール群)は犬種を確認し、健康状態は少なくとも6ヶ月後の健康アンケートにより確認された。血清中TK1濃度は、定量化学発光アッセイにより測定し、血清中cCRPは定量ELISAアッセイにて測定した。
結果:腫瘍犬(253例)と健康犬(156例)におけるTK1濃度はそれぞれ中央値7.0 u/L(<0.5から>100まで)と中央値1.8 u/L(0.4から55.3)であった(p<0.001)。cCRP濃度は腫瘍犬で中央値6.0 mg/L(<0.5から>50)、健康犬で中央値1.6 mg/L(0.09から>50)であった(p<0.001)。NIは腫瘍犬で中央値6.4(0—9.9)、健康犬で中央値0.9(0-7.6)であった(p<0.001)。すべての腫瘍症例のNIとTK1のROC AUCは0.8以上であり、リンパ腫と組織球肉腫で最も高かった。
結論と臨床的意義:TK1とcCRP濃度の上昇は、腫瘍が存在する犬においては診断を確定し、または治療の反応のモニタリングに使えるかもしれない。
コメント
血清中のTK1とcCRPとそれらから計算したNeoplasia Indexが、腫瘍診断のバイオマーカーとして有益かどうかを検討した論文であり、実際にアメリカではVeterynary Diagnostic Instituteで測定できる。今回検討した健康犬群は犬種、年齢において腫瘍群と比較すると偏りがあるものの、腫瘍性疾患では有意に数値が上昇することがわかった。ROC AUCはTK1、cCRP、NIを比較するとTK1が高い結果になり、今回の検討ではNeoplasia Indexを計算しても、単独の数値よりは優れたものにはならなかった。また、ROC AUCも、それぞれ0.873、0.818、0.844となり、感度特異度ともにさらに改善する必要があると思われる。リンパ腫や組織球肉腫では、TK1の数値にばらつきが大きいため、組織学的グレードや、予後との関連を調べられるとより有益だと思われる。また、継時的な変化を見ることができるため、今後の治療反応性の結果が待たれるところである。
2016.6.17.
常在細菌は腫瘍微小環境の変化を介してがん治療に影響を与える
Commensal bacteria control cancer response to therapy by modulating the tumor microenvironment.
Iida N, Dzutsev A, Stewart CA, Smith L, Bouladoux N, Weingarten RA, Molina DA, Salcedo R, Back T, Cramer S, Dai RM, Kiu H, Cardone M, Naik S, Patri AK, Wang E, Marincola FM, Frank KM, Belkaid Y, Trinchieri G, Goldszmid RS.
Science. 2013 Nov 22;342(6161):967-70.
腸管細菌は局所または全身の炎症に影響を与えることが知られている。炎症は腫瘍発生や進行、治療に深く関わるが、腸管の片利共生細菌が無菌状態である腫瘍微小環境における炎症に対して影響を与えうるかどうかについてはこれまでわかっていなかった。今回の研究から、腸管細菌叢が破壊されると、CpGオリゴヌクレオチド免疫療法と白金製剤をもちいた化学療法に対する皮下移植腫瘍の治療反応が阻害されることがわかった。抗生物質処理もしくは無菌状態のマウスでは、治療後の腫瘍浸潤骨髄由来細胞の反応が乏しく、ROSやサイトカイン産生量が低いうえに細胞障害が少なく腫瘍壊死領域も少なかった。このことから、適切な腫瘍治療には腸管の片利共生細菌叢が必要で、これが腫瘍微小環境において骨髄由来細胞の機能を調節して治療効果を調節していると考えられた。これらの発見は腫瘍などの疾患治療における腸管細菌叢の重要性を強調するものである。
コメント
本論文では、抗生物質投薬による腸管細菌叢の異常が、免疫療法や通常の抗がん剤をもちいた腫瘍治療成果に影響を与える可能性が実験的に示されている。本論文は特にマウスのみを用いた研究であるため、現状ではヒトやイヌなどの細菌叢や免疫機構の一部が異なる動物において同様の現象が起こりうるかどうか正確には不明である。しかしながら、本論文はこれまで注目されてこなかった腸内細菌と腫瘍治療との関わりを指摘した重要な文献であり、臨床用量の抗生物質投薬においても同様の現象が起こりうるかどうか興味深い点である。本研究を皮切りにして、将来的にさらなる腫瘍免疫制御機構の解明が進むことが望まれる。
2016.6.10.
犬における乳癌摘出時の同時卵巣子宮摘出術の効果: ランダム化比較試験
Effect of Ovariohysterectomy at the Time of Tumor Removal in Dogs with Mammary Carcinomas: A Randomized Controlled Trial
Kristiansen VM, Peña L, Díez Córdova L, Illera JC, Skjerve E, Breen AM, Cofone MA, Langeland M, Teige J, Goldschmidt M, Sørenmo KU. J Vet Intern Med. 2016 Jan-Feb;30(1):230-41.
背景:卵巣ホルモンは乳腺腫瘍の発症に重要な役割をもつ。しかし卵巣子宮摘出手術(OHE)による卵巣の除去が乳腺腫瘍の犬の予後を改善できるのかどうかは不明である。
目的:乳腺切除時のOHEが乳腺腫瘍の犬の予後を改善できるかどうかを明らかにすること。そしてホルモン因子がOHEのもたらす効果に影響を与えているのかどうかを評価すること。
対象:乳腺腫瘍をもつ60頭の未避妊の犬
方法:犬を約1:1になるよう腫瘍摘出時にOHEをしたもの(31頭)としないもの(29頭) にランダムに分けた。周術期の血清中のエストラジオール(E2)とプロゲステロンの濃度を測定し、腫瘍の診断は組織学的に行い、腫瘍のエストロゲンとプロゲステロン受容体の状態は免疫組織化学的に決定した。犬の再発や転移は3~4か月ごとに少なくとも二年間はモニターした。単変量サブグループ解析に加え、再発やすべての原因による死亡をエンドポイントとして単変量および多変量解析の生存分析を行った。
結果:単変量解析ではOHEは再発とすべての原因による死亡の危険性を有意に減少させることはなかった。多変量解析でも、OHEは再発危険性(HR)には有意な影響はなかったが、ERとE2との間に相互作用の効果がみられた。サブグループ解析では、E2の上昇またはグレード2の腫瘍をもつ犬において、non-OHEグループと比べOHEグループのHRの減少がみられた。
結論:乳腺腫瘍の犬でOHEによる効果を得やすいのは、グレード2またはER陽性の腫瘍をもつ、あるいは周術期の血清にE2濃度上昇を伴うものであるといえる。
コメント
多変量解析でER,E2の相互作用によるOHEの影響を調べた時、「ER+かつhigh E2であるグループでは、OHEの効果あり」ということを証明する具体的な数値がなかったので、P値を出して検証し直す必要がある。また多変量解析をするにあたって、比較する各群の頭数がそれぞれ30頭以下ととても少ないため、この実験は再現性があるとは断言できない。よって症例数を増やし、より正確性の高いデータを出すべきである。
組織学的診断によって分類された腫瘍のサブグループについて考えると、それぞれの腫瘍自体の進行度・悪性度はじつにさまざまであるので、これらをまとめて解析するとOHEの有無とは別のバイアスがかかることになる。よって起こった腫瘍のサブタイプを代表的なものに絞るなどして、腫瘍自体の性質によるバイアスがかからないようにする必要がある。
またOSの単変量解析は、乳腺腫瘍以外を原因として死亡した個体が半数含まれている群を用いて行ったものであり、正確な乳腺腫瘍とOHEの有無の関係が表されているとは言えない。
しかし乳腺腫瘍とOHEの有無についてこれまで疫学的な調査は行われてきたが、ここまで詳細な研究はなかった。よってこの論文はOHEの具体的な効果を広める良いきっかけになったのではないかと考えられる。これにより更なる研究が進み、乳腺腫瘍の予防法が確立されることを期待する。
2016.6.3.
肥満細胞におけるKITの細胞外ドメインの点変異は自己二量体化による腫瘍原性を示す
A point mutation in the extracellular domain of KIT promotes tumorigenesis of mast cells via ligand-independent auto-dimerization
Amagai Y, Matsuda A, Jung K, Oida K, Jang H, Ishizaka S, Matsuda H, Tanaka A. Sci Rep. 2015 May 12;5:9775.
背景:KIT受容体の膜近傍ドメインやチロシンキナーゼドメインの変異はいくつかのがんの発生に関係し、腫瘍化の促進に関与している。しかし、細胞外ドメインの点突然変異による病態生理学的関与は解明されていない。
目的:肥満細胞の腫瘍化におけるKITの細胞外ドメインの点突然変異による影響を検討した。
方法:イヌの肥満細胞腫由来で、細胞外ドメインにおけるAsn508Ileの変異(N508I)によるKIT変異体をIC-2細胞に導入した。
結果:IC-2N508I細胞はサイトカイン非依存的に増殖し、KITの自己リン酸化が生じることが明らかになった。ヌードマウスの背部にIC-2N508I細胞の皮下投与を行ったところ固形腫瘍が形成されたが、チロシンキナーゼ阻害薬(STI571)により腫瘍の増殖は抑制された。さらに、N508I変異型KITは生理的リガンド非存在下とSCF非存在下で二量体化した。構造モデルから、変異体の疎水性の上昇によりKIT二量体の安定がもたらされたことが分かった。
考察:細胞外ドメインが変異しKITがSTI571感受性自己二量体化することで肥満細胞がリガンド非依存性腫瘍原性を持つことが示唆された。これはKITの細胞外ドメインの変異による腫瘍原性を実証した最初の報告である。
コメント
今回の研究で、細胞外ドメイン変異型KITが自己二量体化し、肥満細胞の腫瘍化に寄与することが明らかになった。従って、二量体形成を阻害する新たな分子標的薬は、チロシンキナーゼ阻害薬耐性の腫瘍の治療に有効であると考えられる。
実験内容に関しては、in vivoでの実験において、リン酸化されたKIT二量体も検出できれば、in vitroとin vivo両者において細胞外ドメイン変異体の自己二量体化が腫瘍化を促進することを、明確に考察できるようになるのではないかと考えられる。
また、非活性型二量体の用量依存的増加は、自己二量体化したKITのチロシンキナーゼドメインにチロシンキナーゼ活性阻害薬が結合したため、検出されたのではないかと予想されるが、ここに関しての考察が曖昧であるため、さらなる実験で理解が深められることを期待したい。
2016.5.27
犬の組織球肉腫における末梢血リンパ球での共刺激分子の評価
Evaluation of Costimulatory Molecules in Peripheral Blood Lymphocytes of Canine Patients with Histiocytic Sarcoma
Tagawa M, Maekawa N, Konnai S, Takagi S. PLoS One. 2016 Feb 22;11(2):e0150030.
組織球肉腫は、急速に進行する致死性の犬の腫瘍疾患である。CD28、CTLA4やPD1を含めた、共刺激分子が組織球肉腫に罹患した犬の末梢血リンパ球で発現しているかどうかははっきりしていない。この研究の目的は、組織球肉腫、ほかの腫瘍に罹患した犬、また健常犬の末梢血リンパ球におけるCD28,CTLA4,PD1分子の発現を評価することを目的としている。組織球肉腫8頭、ほかの腫瘍10頭、健康8頭を含め、計26頭がこの研究に使用された。末梢血リンパ球や血清は、前向きに、それぞれ組織球肉腫、ほかの腫瘍と組織学的に診断された犬、健康犬から得られた。Tリンパ球におけるCTLA4,CD28,PD1の発現は、フローサイトメトリー分析を用いて調べられた。血清サンプルは、血清中IFNγがELISAで測定されるまで-30℃で保存された。CD4+リンパ球における、CTLA4の発現レベルは、健常群に比べて組織球肉腫群で十分に高かった。CD8+リンパ球におけるCTLA4の発現はほかの二つのグループにくらべ、組織球肉腫群で十分に高かった。加えて、CD8+リンパ球のPD1発現はコントロール群に比べ組織球肉腫群において十分に高かった。しかし、CD28とIFNγの発現レベルに有意差は認められなかった。本研究の結果は、組織球肉腫の犬から得られた末梢血における、CD4+リンパ球とCD8+リンパ球双方でのCTLA4発現およびCD8+リンパ球におけるPD1の発現レベルが上昇していることを示した。CTLA4やPD1の異常発現は、組織球肉腫の犬において抗腫瘍免疫が抑制されていることを示しているかもしれない。
コメント
近年免疫療法が注目されつつあるが、本研究は、組織球肉腫の犬において、末梢血リンパ球におけるCTLA4や、PD1の発現を示した論文として重要だと思う。共分子刺激抗体薬は、ヒトの腫瘍で一定の効果が得られており、獣医領域でも今後治療標的となる可能性がある。
しかし、ヒトと犬では、配列も違い、タンパク質の機能が同じとは限らないため、今後CTLA4や、PD1の機能を調べていく必要がある。
本研究は、CD4陽性T細胞と、CD8陽性T細胞で、CTLA4が十分に抑制されていることから、制御性T細胞の増加と、抗腫瘍免疫が組織球肉腫によって抑制されている可能性を述べたが、制御性T細胞の増加については、根拠が乏しく、それをいうならば、制御性T細胞で特異的に発現している表面抗原を調べるべきだった。また、末梢血中リンパ球と、腫瘍組織中リンパ球における、共分子刺激分子やサイトカインの発現濃度の比較を含めて、より詳細な検討が今後なされることを期待する。
2016.5.20.
犬の尿路移行上皮癌に対する第一選択治療として行ったピロキシカムとミトキサントロンおよびカルボプラチンとの併用療法の第三相試験
Randomized Phase III Trial of Piroxicam in Combination with Mitoxantrone or Carboplatin for First-Line Treatment of Urogenital Tract Transitional Cell Carcinoma in Dogs
Allstadt SD, Rodriguez CO Jr, Boostrom B, Rebhun RB, Skorupski KA. J Vet Intern Med. 2015 Jan;29(1):261-7.
背景:移行上皮癌の犬に対するピロキシカムとミトキサントロンおよびカルボプラチン併用療法の応答率については同様の報告されている。しかしながら、これらの薬が反応期間を延長させるかどうかは分かっていない。
目的・仮説:ミトキサントロンとピロキシカム、カルボプラチンとピロキシカムでTCCの無増悪期間が異なるか確認することを目的とした。ミトキサントロンの有効性は、カルボプラチンとは変わらないと仮定した。
動物:50頭の高窒素血症を生じていないTCCの犬
方法:ランダム化非盲目前向き第三相試験。ミトキサントロンかカルボプラチンのどちらかを3週毎に投与、ピロキシカムは6週間後とに投与した。24頭の犬はカルボプラチン、26頭の犬はミトキサントロンを投与した。
結果:反応は群間で異ならなかった。9頭の犬はCRとなった。ミトキサントロン群は、PR:2頭(8%)、SD:18頭(69%)だった。カルボプラチン群は、PR:3頭(13%)、SD:13頭(54%)だった。PFIは、両群で有意な違いはなかった(ミトキサントロン:106日、カルボプラチン73.5日)。前立腺経験のある犬(中央値:109日)は、尿道(中央値:300日)、三角部(中央値:190日)、膀胱尖(645日)にある腫瘍に比べ、有意に生存期間が短かった。
結論:TCCに対する、ピロキシカムとミトキサントロンまたはカルボプラチンの併用は違いがなかった。
コメント
両薬ともに同効果とあるが、CBDCA群とMIT群が厳密に区別されていないため、両群の効果の違いが出ていない可能性がある。しかしながら、MIT⇒CBDCA群、CBDCA⇒MIT群でも予後が変わらないことから、これらの抗癌剤の抗腫瘍効果は筆者の主張を完全には否定出来ない。また、本研究結果は成績が低かったが、主流の治療法であるMIT群に比べてCBDCA群もPFIやSTが同等の成績であることから、TCCの第一選択薬として使用できる選択肢が増えたといえる。
費用は両薬とも同等であるため、血管外漏出のリスクを考えるとCBDCAの方がMITよりも使用のハードルが低いため有用な情報である。
一方、シスプラチンとフィロコキシブ併用とフィロコキシブ単独などの比較において、COX阻害薬単独投与でもTCCに対しても十分な効果が報告されている。そのため、今回の結果は、CBDCAやMITではなくピロキシカムによる影響が強く疑われる。この懸念を打ち払うためにもやはりピロキシカム単独での比較が必要である。
今後、抗癌剤との併用時のNSAIDs変更の効果や他のCOX阻害薬間での効果の比較・検討がされることを期待する。
2016.5.13.
犬の膀胱または尿道移行上皮癌に対する新たな低線量緩和的放射線治療の忍容性 および腫瘍縮小効果
TOLERABILITY AND TUMOR RESPONSE OF A NOVEL LOW-DOSE PALLIATIVE RADIATION THERAPY PROTOCOL IN DOGS WITH TRANSITIONAL CELL CARCINOMA OF THE BLADDER AND URETHRA.
Choy K, Fidel J. Vet Radiol Ultrasound. 2016 May;57(3):341-51.
以前に,犬下部尿路閉塞を引き起こす移行上皮癌に対する放射線治療プロトコル は効果がなく,放射線障害に関連していると報告されている。レトロスペクティ ブかつ横断的な本研究の目的は犬移行上皮癌に対する新たな緩和的放射線照射プ ロトコルの安全性や腫瘍縮小効果を記述することである。本実験に含まれる犬は 膀胱または尿道の移行上皮癌であると細胞学的にまたは組織学的に確認されてお り,2.7Gy 毎日10回照射(月〜金曜日)を受けている。13頭の犬が集め られ,うち6頭が初期治療としての放射線治療を受け,7頭が化学療法後のレス キュー治療として放射線治療を受けている。放射線治療の6週間以内に,7.6% (1/13)が CR,53.8%(7/13)が PR,38.5%(5/13)が SD となり,PD はいなかった。尿道閉塞を呈する3頭は自然排尿が回復した。片 側尿管閉塞の1頭は再検査にて開通した。診断からの生存期間中央値は179日 であった。初回照射時からの生存期間中央値は150日であった。放射線急性障 害は31%(4/13)で起こり,グレード1または2に分類された。有意な晩 発性障害はなかった。予後因子として特定されたものはなかった。膀胱または尿 道移行上皮癌の犬の本研究サンプルにおいて,報告した放射線照射プロトコルは 安全であったと発見した。将来的には,完全尿路閉塞のレスキュー治療としての 有効性の決定のための前向き研究が必要である。
コメント
犬移行上皮癌は,下部尿路閉塞を伴うなど化学療法による改善が困難な例が多い。 しかし現在の所,化学療法に変わる有効な治療法は確立されていない。本論文は, 犬移行上皮癌に対する低線量放射線治療プロトコルの緩和的治療としての有効性
を評価している。生存期間の延長に関しては化学療法には及ばないものの,移行 上皮癌による下部尿路症状の改善,とくに尿路閉塞の改善に対しては効果がみら れており QOL の維持が重要となる移行上皮癌の臨床症状の緩和目的としてであ れば検討できるかもしれない。しかし,照射回数の多さや予想される負担費用の 大きさから臨床現場での利用は難しいと考えられる。 生存期間の延長に関しても,従来の化学療法にかわる治療法として新たな放射線 治療法の出現に期待したい。
2016.5.6.
進行した犬の肛門嚢アポクリン腺癌にする放射線少分割照射治療:77症例(1999−2013)
Treatment of advanced canine anal sac adenocarcinoma with hypofractionated radiation therapy : 77 cases (1999 – 2013)
McQuown B, Keyerleber MA, Rosen K, McEntee MC, Burgess KE. Vet Comp Oncol. 2016 Mar 16. [Epub ahead of print]
現在、進行した、手術不適応の、または転移性の肛門嚢アポクリン腺癌(ASAC)に対する標準的な治療方法は存在しない。このレトロスペクティブな研究の目的は放射線少分割照射治療の役割を77匹の測定可能なASACの犬において評価することである。合計38%の犬が放射線治療によってPRとなった。腫瘍に関連した臨床症状を示す犬において、63%において症状の改善や回復が認められた。悪性の高カルシウム血症を呈する犬において、放射線単独では31%、放射線とプレドニゾロンあるいはビスホスホネートの併用では46%で回復が認められた。生存期間中央値は329日(252—448日)であった。無増悪生存期間は289日(224−469日)であった。放射線治療のプロトコル、化学療法、先行した外科治療やステージによる生存期間の違いはなかった。放射線障害はマイルドであり稀であった。放射線少分割照射はASACの原発病変、局所病変または転移病変に対する治療法として十分許容され、そして適用できる。
コメント
肛門嚢アポクリン腺癌は悪性度が高く、早期に局所リンパ節に転移する。この腫瘍の特徴として放射線感受性が高いことが挙げられ、外科両療法のリスクも高いことから放射線治療が注目されている。本論文は進行した肛門嚢アポクリン腺癌の犬に対して放射線少分割照射による緩和治療を行い、QOLの向上や生存期間の相対的な延長を得たとするものである。しかし、結果を直接比較できる対象が存在しないこと、CBDCAやパラディアといった肛門嚢アポクリン腺癌に効果のあるとされている抗がん剤も併用していること、治療反応率に比べ臨床症状の回復した症例が少ないことから、結果の評価には疑問が残る。
岐阜大学においても肛門嚢アポクリン腺癌に対する放射線治療は行われており、実際に腫瘍の縮小や臨床症状の回復などの効果を得ている。今後この治療法の有効性を正しく評価するためにも、追加の研究が必要であると考えられる。
2016.4.22.
犬の再発リンパ腫に対するメクロレタミン、ビンクリスチン、メルファラン、プレドニゾロン (MOPP) 療法
Mechlorethamine, vincristine, melphalan and prednisone (MOMP) for the treatment of relapsed lymphoma in dogs.
Back AR, Schleis SE, Smrkovski OA, Lee J, Smith AN, Phillips JC. Vet Comp Oncol. 2015 Dec;13(4):398-408.
再燃したリンパ腫の犬、88例を対象にMOMPプロトコル(メクロレタミン、ビンクリスチン、メルファラン、プレドニゾロン)にて治療した。本プロトコルは28日サイクルの治療法である。奏功率(ORR)は51.1%、期間中央値は56日(範囲 7 – 858日)であった。12%の症例で完全寛解(CR)に至り、期間中央値は81日(範囲 42 – 274 日)であり、38.6% の症例で部分寛解(PR)となった。期間中央値は49日 (範囲 7 – 858日)であった。
免疫表現型別の治療成績は T細胞性リンパ腫で奏功率(ORR )55% 期間中央値は60日 (範囲 49 – 858日) であり、一方、B細胞性リンパ腫では奏功率(ORR)57% 期間中央値は 81日 (範囲 7 – 274日) (P = 0.783).全症例の生存期間中央値は183 days (範囲 17 – 974日)であった。54%の症例で主にグレード1の毒性が認められた。
MOMPプロトコルは忍容性が良く、再燃したリンパ腫の治療オプションとなり得る。
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リンパ腫の犬において、初回は長期寛解が得られるが、再燃した場合に2度目の長期寛解が得られることは稀である。そのため、様々なレスキュープロトコルが研究されているが、過去の報告では、奏功率は0〜87%、奏功期間は21〜158日とされており、多くの場合は奏功率:約30〜50%、奏功期間:約60〜80日であり、本論文の治療成績はその範疇を超えるものではない。しかしながら、本論文において、プロカルバジンの代替薬としてメルファランを使用することは妥当である可能性が示された。副作用はいずれもGrade1程度のものであり、敗血症例が認められないことなど忍容性はあると考えられる。レスキュープロトコルにおいて未だ確立された治療法はなく、今後さらなる追究が期待される。
2016.4.15.
猫消化管好酸球性硬化性線維増殖症の猫4頭における超音波画像所見および臨床病理学的所見
Ultrasonographic and clinicopathological features of feline gastrointestinal eosinophilic sclerosing fibroplasia in four cats.
Weissman A, Penninck D, Webster C, Hecht S, Keating J, Craig LE. J Feline Med Surg. 2013 Feb;15(2):148-54.
猫消化管好酸球性硬化性線維増殖症の猫4頭についての記述である。臨床症状は食欲低下、体重減少、嘔吐、下痢であった。血液検査では、軽度の好中球増加症(n=2)と、高タンパク血症を伴う高グロブリン血症(n=2)が認められた。超音波検査では、壁の肥厚を伴う腫瘤と、五層構造の消失が、胃、十二指腸、空腸、結腸で認められた。1症例では、腫瘤切除の3週間後に別の部位での病変を確認した。病理所見としては、コラーゲンの索状増生と炎症細胞、特に好酸球の混合性浸潤が特徴であった。4頭中2頭で細菌が含まれ、多数の壊死領域も認められた。2頭でFGESFと同一変化が肝臓にも認められた。全症例で外科切除を実施した。2頭が出版時(外科後43と24ヵ月経過)も生存中である。FGESFは猫において消化管腫瘤と異なると考えられる。
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FGESFは2009年にCraigらにより新たに提唱された非腫瘍性疾患である。その臨床症状や超音波画像所見、またFNAによる細胞所見は今回の4頭でもみられたように、猫の消化管に形成される他の腫瘍性疾患と類似している点が非常に多い。そのため確定診断は病理検査により、特徴的なコラーゲンの索状配列や好酸球、肥満細胞および線維芽細胞の浸潤をとらえることである。
現在行われている治療法は、外科的な切除とその後の抗生剤とステロイドによる内科治療が有用なようだが、発生部位や数により予後にかなり差がでるものと思われる。また再発や、cat4のように消化管以外にも発生している症例も報告されている。原因や細菌との関連性も不明であり、それらの解明とともに治療法についても今後さらなる検討が必要と考えられる。
2016.4.5.
HER2標的リステリアワクチンは犬骨肉腫に対するPhase I 試験においてHER2特異的免疫反応による治療効果を示した
Immunotherapy with a HER2-Targeting Listeria Induces HER2-Specific Immunity and Demonstrates Potential Therapeutic Effects in a Phase I Trial in Canine Osteosarcoma.
Mason NJ, Gnanandarajah JS, Engiles JB, Gray F, Laughlin D, Gaurnier-Hausser A, Wallecha A, Huebner M, Paterson Y. Clin Cancer Res. 2016 Mar 18. [Epub ahead of print]
目的:マウス腫瘍モデルにおいて,遺伝子組換えリステリアワクチンは腫瘍特異的T細胞性免疫反応を誘導することで,腫瘍を排除するとともに転移を防ぐことが知られている.今回,我々はヒト小児骨肉腫の自然発生腫瘍モデルであるHER2/neu陽性四肢原発骨肉腫に対して,ヒトHER2/neu融合キメラタンパクを発現する高弱毒化遺伝子組換えListeria monocytogenes(ADXS31-164)が安全に腫瘍特異的免疫反応を誘導し,転移を防ぐことができるか調べた.
実験デザイン: 犬の四肢原発骨肉腫に罹患し,断脚もしくはサルベージ(救済)手術と補助化学療法を受けた18症例がPhase I 臨床試験に登録された.これらの症例に対して,ADXS31-164を2×108もしくは5×108, 1×109 ,3.3x109 CFUの用量で3週間ごとに3回静脈内投与した.
結果:投与症例では,軽度かつ一時的な副作用のみ認められた.ADXS31-164は腫瘍に対する末梢性免疫寛容を破綻させ,治療6ヶ月以内に15/18症例においてHER2/neuの細胞内ドメインに対する抗原特異的IFN-γ反応を誘導した.さらに,断脚と化学療法単独の治療を受けたHER2/neu陽性四肢原発骨肉腫の既存対照被検群と比べたところ,ADXS31-164は転移発生率を低下させ,統計的に有意な生存期間の延長と1, 2, 3年生存率の増加を認めた.
結論:今回の結果から,ADXS31-164は犬の四肢原発骨肉腫の微小残存病変に対してHER2/neu特異的免疫反応を誘導することで,転移を抑制し全体生存率を延長する可能性が示された.犬の骨肉腫は,ヒト小児骨肉腫の臨床動態を反映する自然発生腫瘍モデルであることから,本研究はヒト小児骨肉腫や他の成人のHER2/neu陽性腫瘍の研究に向けた重要な橋渡し研究となることが示唆された.
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本論文は,HER2/neuキメラタンパクを発現する高弱毒化遺伝子組換えリステリアワクチンを用いた犬骨肉腫に対する免疫療法の有効性を記載したものである.これまで,骨肉腫に対する治療としてL-MTP-PE (mifamurtide)などの非特異的免疫反応を誘導する免疫療法の開発が試みられてきた.本論文のADXS31-164は,骨肉腫の40%で発現している受容体型チロシンキナーゼであるHER2/neuに対して特異的免疫反応を惹起することで,治療効果の延長を試みたものである.著者らは,ADXS31-164は重篤な副作用伴わずに全体生存率を延長できる可能性を示しており,HER2/neuに対する特異的免疫反応の誘導が腫瘍細胞の排除に繋がったと主張している.本論文では,治療の有効性と用量,安全性に関する評価は十分に行われている.しかし,著者らが述べたHER2に対する特異的免疫反応が誘導されているという主張の根拠のうち,いくつかは通常の骨肉腫症例においても発生しうる病変が含まれている.さらに,CD3に対する免疫染色のみで集簇炎症細胞の評価を行っているため,肺転移病変に存在する炎症が細胞障害性T細胞による抗腫瘍性免疫反応なのか,抑制T細胞による免疫抑制反応なのか不明である.そのため,今回の結果からはHER2/neu特異的免疫反応の誘導が生存期間を延長させたと結論づけがたく,L-MTP-PEのように非特異的免疫反応によって生存期間が延長している可能性も残されている.以上より,ADXS31-164は将来的な骨肉腫に対する免疫療法として有望であると考えられるが,臨床応用のためには治療効果発現の正確なメカニズムの解明が必要であると考えられた.
2016.3.29.
犬と猫における中枢神経系リンパ腫のMRI画像の特徴
MRI features of CNS lymphoma in dogs and cats.
Palus V, Volk HA, Lamb CR, Targett MP, Cherubini GB. Vet Radiol Ultrasound. 2012 Jan-Feb;53(1):44-9.
犬や猫の中枢神経系に発生するリンパ腫(CNSL)は時折遭遇し、診断に苦慮する疾患だが、そのMRI画像検査についての明確な記述はない。本論文では、8頭の犬と4頭の猫におけるCNSリンパ腫のMRI画像について分析、その特徴を述べる。
6頭の犬でテント吻側、2頭の猫でテント尾側に影響する頭蓋内病変を認めた。また脊髄には2頭の犬と2頭の猫で病変を認めた。CNSLの犬猫の各1頭において、頭蓋外に限局性病変やリンパ節腫脹を認めた。病変は脳脊髄の実質外に認めた症例が犬4頭と猫3頭、実質内病変は犬2頭と猫1頭、実質内外は2頭の犬であった。また2頭の犬と2頭の猫における脊髄にも病変を認めた。1頭の犬、と1頭の猫においては頭蓋外へと病変拡大を呈し、またリンパ節腫脹を認めていた。病変は4頭の犬と3頭の猫において脳実質外で認められ、2頭の犬、1頭の猫では脳実質内への発生、両方への発生は2頭の犬でみられた。全ての病変は白質と比較してT2強調で高信号、多くはT1強調で低信号(7/12頭)、多くはフレア画像にて高信号を呈した(5/9頭)。灰白質と比較して、これらの病変はT2強調で等信号(5/12頭)または高信号(7/12頭)、半分の症例でT1強調にて低信号(6/12頭)、フレア画像では多くが等信号(7/9頭)でした。病変の辺縁はT2強調にて不明瞭であり(10/12頭)、フレア画像にて病変周囲は高信号に描出された(7/9頭)。病変の大多数では病変周囲に異常な髄膜を呈し(10/12頭)、症例の半分は造影増強効果が認められた(6/12頭)。また病変圧排効果は全ての病変で明瞭であった。
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犬や猫に発生する脳腫瘍の診断は、病理検査に至るケースはまだ少なく、腫瘍によって治療方針が大きく異なる点を考えると、MRI画像検査は非常に重要な情報となる。今回リンパ腫のMRI画像所見の特徴が検討され、鑑別診断の一助となる情報が得られた。同時に、他の腫瘍と類似する点についても注意するべき重要性がうかがえる。人の同分野においては、定位的脳生検術と共に新しい画像検査の撮影法が開発され、負担の少ない検査の普及が進んでいる。その点、犬猫においては独自に難しい背景が取り巻く中、MRI画像データの蓄積はやはり重要な位置を占める。今後は生検の普及や剖検によるデータの集積につとめ、診断精度の向上を期待したい。