Journal Club 201708
腫瘍科で行っているJournal Clubの要約を掲載いたします。内容の詳細につきましては原著論文をご参照ください。
2017.08
猫の扁平上皮癌に対する治療標的としてのプロテインキナーゼCK2
Evaluation of protein kinase CK2 as a therapeutic target for squamous cell carcinoma of cats.
Cannon CM, Trembley JH, Kren BT, et al. Am J Vet Res. 2017;78(8):946-953.
目的:猫の扁平上皮癌(SCC)におけるプロテインキナーゼCK2(CK2)の発現を調べ、in vitroにおいてCK2の発現抑制によるSCC細胞株のアポトーシスと生存率を評価する。
材料:健常猫の口腔粘膜および精巣の生検サンプルと血液サンプル、猫の口腔SCCの生検サンプル、猫SCC細胞株(SCCF1)と乳腺癌細胞株(K12)。
方法:生検サンプルにおいて、免疫組織化学によるCK2αの標識を行った。猫の血液サンプルと猫のがん細胞株におけるCK2αサブユニット遺伝子の配列とCK2α′サブユニット遺伝子の配列はPCRとRT-PCRを用い、サンガー法により決定した。低分子干渉RNA(siRNA)は猫のCK2αとCK2α′に特異的なものを用いた。SCCF1細胞はsiRNAで処理され、72時間後にCK2αとCK2α′の発現の評価を行い、ウエスタンブロット法によるアポトーシスの評価と、MTS試験による生存率の評価を行った。
結果:CK2αは全ての口腔粘膜サンプルにおいて発現し、口腔SCCのサンプルにおいては8検体中7検体において発現していた。SCCF1細胞においてCK2αとCK2α′の発現はsiRNAを用いて抑制され、生存率が減少し、アポトーシスが誘導された。
結論と臨床的意義:今回の研究で、猫のSCCにおける治療ターゲットとしてCK2は有望であると考えられた。猫のSCCに対する有効な治療法はCK2をターゲットとしたRNA干渉であろう。
コメント
CK2が正常組織にも広範囲に認められるタンパクであることから、治療標的とするには副作用の克服が重要となりそうである。
2017.08
犬肥満細胞腫のイマチニブ耐性に関与するKIT二次変異の検出
Identification of a secondary mutation in the KIT kinase domain correlated with imatinib-resistance in a canine mast cell tumor.
Nakano Y, Kobayashi M, Bonkobara M, et al. Vet Immunol Immunopathol. 2017;188:84-88.
イマチニブ耐性はヒトの慢性骨髄性白血病(CML)、消化管間質腫瘍(GIST)、そしてイヌ肥満細胞腫の治療においてメジャーな問題である。今回の研究では、我々はエクソン11にc.1663-1671delを持ち、かつイマチニブに耐性を示すイヌから採取した肥満細胞腫において、 c-KIT のエクソン14での二次変異であるc.2006C > Tを特定した。エクソン14で変異が起こることによって、669領域のスレオニンがイソロイシンに置換される。スレオニンは、ATP結合部の中心部に調節因子として位置し、そしてイマチニブ結合部において重要な役割を果たす。エクソン11と14で起こる変異の機能を詳しく調べるために、形質転換体を作成した。c.1663-1671delを持つ c-KIT によってコードされる変異KITの形質変異体を用いることで、イマチニブによって制御されるリガンド非依存性のリン酸化が示された。それは機能獲得型変異を意味する。さらに、c.1663-1671del や c.2006C > Tの両方をもつ c-KIT によってコードされる変異KITの形質変異体は、リガンド非依存性のリン酸化を起こす原因となり、それはイマチニブのよって制御されないものである。それらの結果から、 c-KIT エクソン14で起こる変異であるc.2006C > Tは、イヌ肥満細胞腫でのイマチニブの耐性の原因となる変異であるということを我々は結論づけた。それらの発見によって、イヌ肥満細胞腫の臨床症例でイマチニブの耐性のメカニズムを初めて明らかにした。
コメント
もともとエクソン14に変異を持つ症例がどのくらいいるのか、イマチニブに耐性を持った症例のうちどれくらいの割合がエクソン14に二次変異を起こしているのか。今後ますますの症例の蓄積が期待される。