Journal Club 201710

腫瘍科で行っているJournal Clubの要約を掲載いたします。内容の詳細につきましては原著論文をご参照ください。

2017.10

口腔扁平上皮癌罹患ネコに対するトセラニブの効果と副作用

Retrospective evaluation of toceranib phosphate (Palladia) in cats with oral squamous cell carcinoma

Wiles V, Hohenhaus A, Lamb K, et al. J Feline Med Surg. 2017;19(2):185-193.

目的:猫口腔扁平上皮癌(FOSCC)におけるトセラニブの有効性と有害事象の調査 方法:2010-2014年に口腔内扁平上皮癌と診断されトセラニブを使用した猫のデータと、トセラニブ、抗がん剤および放射線治療のいずれも行わなかった猫のデータを比較しFOSCCの猫に対するトセラニブの有効性と副作用を調査。NSAIDsを同時使用した症例は今回の研究対象に含まれた。
結果:FOSCCの46匹の猫のうち、Group1がトセラニブを使用した猫23例、そしてGroup2がトセラニブを使用しなかった猫23例とした。Group1の全生物学的奏効率は56.5%であった。トセラニブ投与群の生存期間中央値は123日であり、トセラニブ非投与群の生存中央値45日と比べ有意に長かった(P=0.01)。トセラニブ投与群でSDおよびそれ以上の反応が認められた猫の無増悪生存期間(P<0.0001)と生存期間中央値(P=0.042)はトセラニブ投与群でPDになった猫と比べて有意に長かった。NSAIDsの追加は全ての猫において生存期間を有意に延長させた(P=0.0038)。食欲不振の猫が多かったがこれは病気による影響が大きいかもしれない。今回の研究ではトセラニブは猫で良い耐容性を示した。最も多かった副作用は軽度な消化器毒性であった。
結論と適合性:FOSCCの猫でトセラニブは耐容性が高く、特にNSAIDsと組み合わせることで生存期間が改善するかもしれない。NSAIDs投与は生存期間の改善と関連しているがトセラニブとNSAIDsの相対的なメリットはこの回顧的な研究から決定することは難しい。生存期間は延長したが、長期生存は難しい。トセラニブは耐容性が高く生存期間の改善の可能性もあるため、FOSCCのより長期反応を得るためにトセラニブ単剤およびトセラニブを含む多剤併用療法を用いた反応を見るための前向き研究が必要である。

コメント

トセラニブを含め集学的な治療を実施した群と、NSAIDs以外の治療を行っていない群との比較のため、トセラニブが有効だったかどうかの判断は結論できない。しかし大きな副作用を認めなかったことは、今後ネコでの臨床研究を進める上で重要な知見であろうと思われる。

2017.10

骨肉腫症例へのゾレドロン酸投与後のCXCR4発現と機能の変化

Downregulation of CXCR4 expression and functionality after zoledronate exposure in canine osteosarcoma

Byrum ML, Pondenis HC, Fredrickson RL, et al. J Vet Intern Med. 2016;30(4):1187-1196.

背景:転移の確立および進行は、骨肉腫(OS)と診断された犬にとって生命を制限する要因である。転移のパターンはケモカイン受容体とケモカインとの間の相互作用によって調節される可能性が高く、細胞骨格の組織化および遊走性に関与するこれらのシグナル伝達カスケードは、転移性細胞の輸送様式を変化させる可能性がある。
仮説:ゾレドロネートは、ケモカイン(C-X-Cモチーフ)受容体4(CXCR4)発現および機能のダウンレギュレーションを介してOS細胞の遊走を阻害する。
サンプル:OSを有する20匹の犬からの19の保存された腫瘍標本および血漿
方法:CXCR4の発現を、OS細胞株および自発的腫瘍サンプルにおいて評価した。ゾレドロネートがCXCR4の発現および機能に与える影響を、3つのOS細胞株における応答によって調べた。 19例のOS標本、20例のOS罹患犬で、CXCR4発現の変化と循環CXCR4濃度は、それぞれゾレドロネート治療に応じて特徴付けられた。
結果:全てのイヌOS細胞はCXCR4を発現し、ゾレドロネートは、評価した腫瘍細胞株の33%において、プロテアソーム分解の増加およびヘテロ三量体Gタンパク質のプレニル化の減少により、CXCR4の発現および機能性を27.7%(P < 0.0001)低下させた。 OSを有するイヌでは、ゾレドロネートは、未治療対照(P = 0.03)と比較して、原発腫瘍内でCXCR4発現を40%減少させ、また、OSを有する20頭中18頭においてCXCR4の循環濃度を低下させる。
結論と臨床的重要性:ゾレドロネートはOS細胞のCXCR4発現と機能性を変化させ、CXCR4細胞内シグナル伝達カスケードは転移のパターンに影響するかもしれない。

コメント

本研究の結果からは、ゾレドロネートによるCXCR4発現&機能の低下は、必ずしもすぐに臨床的に有用であるとは限らないと推察される。近年注目の集まるCXCR4は、今後獣医療でも治療標的となっていくことが予想されるため、さらなる基礎研究の蓄積により良い点と悪い点を評価しておくことが重要であろう。

2017.10

高ビリルビン血症改善を目的とした血漿交換療法 (Case Report)

The use of therapeutic plasma exchange to reduce serum bilirubin in a dog with kernicterus

Tovar T, Deitschel S, Guenther C. Vet Emerg Crit Care. 2017;27(4):458-464.

目的:免疫介在性溶血性貧血(IMHA)の犬において、血清総ビリルビン値を下げ、黄疸を治療し、神経学的な機能障害の進行を抑えるために、治療的血漿交換療法を用いた。
症例の概略:5歳の去勢雄のラサアプソはIMHAと診断され、黄疸と急性の神経学的症状を認めた。症例の臨床症状のため、初回の血漿交換は少ない血漿量で行われた。より多くの戦略的血漿交換を行い、血清総ビリルビン値を低下させ、それ以上の神経学的な臨床症状の進行は認められなかった。犬は永久的な神経障害の疑いがあり、さらなる輸血の必要があるため、安楽死となった。剖検により、kernicterus(核黄疸)と診断された。
新しい知見:高ビリルビン血漿に続発した核黄疸は、人での報告はあるが、犬の報告はまれである。治療的血漿交換療法は、人においては何十年も前から行われてきており、神経症状を呈する高ビリルビンの患者において急速に血清ビリルビン値を減少させるが、著者の知る限り、犬における報告はない。

コメント

本症例では黄疸が重度で進行も早く、治療開始後わずか数日で安楽死となっているため、血漿交換療法が有効であったかどうかを判断することはできない。高ビリルビン血症の治療戦略の一つとして確立されるためには、適切な症例群を用いた前向き試験が必要である。

2017.10

皮膚に生じる放射線障害の管理

Management of Radiation Side Effects to the Skin.

Gieger T, Nolan M. Vet Clin North Am Small Pract. 2017;47(6):1165-1180.

放射線治療(Radiation Therapy: RT)は多くの腫瘍の制御において欠かせない存在である。獣医療従事者は発生しうるRTの副反応、および予期される副反応の治療方法や関連するコストに関して助言しなければならない。ほとんどのRTで治療される患者の急性放射線障害は軽度である。しかしながら、慢性的な後遺症や継続的な創傷治癒が必要な状態に至らないようにするために注意深い放射線治療計画や適切な急性障害の管理が必要である。本稿では皮膚に対する急性障害や晩発障害の管理についてレビューする。

コメント

近年、獣医領域において放射線治療を実施する症例が増加しており、治療成績に関しては多数の報告が見られるようになった。しかし、放射線障害のケアに関しての報告は非常に限られている。
放射線皮膚炎は進行した場合には苦痛を伴うものとなり、十分に治癒しなかった場合には晩発障害に至りうることから、人において放射線皮膚炎の看護は治療に匹敵する重要な分野とされている。その管理に関しては人医療において一定のコンセンサスが得られており、獣医領域に外挿できる点も多い。今後は人での知見をベースとし発生部位や動物種に応じた治療を組み立てていく必要があると思われる。
放射線皮膚炎は通常の皮膚炎とは管理する上で異なる点が多く、一般的な外傷処置の中には放射線皮膚炎では禁忌なものもある。放射線治療に従事する獣医師は放射線皮膚炎の管理に関する正しい知識を習得し、ホームドクターおよび飼い主に対して適切な助言をしなければならない。