Journal Club 201801

腫瘍科で行っているJournal Clubの要約を掲載いたします。内容の詳細につきましては原著論文をご参照ください。

2018.01

上皮向性リンパ腫罹患犬の臨床所見と予後

Clinical outcome and prognosis of dogs with histopathological features consistent with epitheliotropic lymphoma: a retrospective study of 148 cases (2003−2015).

Chan CM, Frimberger AE, and Moore AS. Vet Dermatol. 2017 Oct 6. doi: 10.1111/vde.12504. [Epub ahead of print]

背景:上皮向性リンパ腫の犬の治療や転帰に関する情報は限られている。この疾患は典型的には予後不良である。
目的:上皮向性リンパ腫の臨床症状、予後因子および治療の転帰を特徴づけること.
方法:2003~2015年におけるカルテの回顧的検討. 148頭の犬における治療の詳細、腫瘍の反応、生存期間が記録されている.中央生存期間に関する統計学的検討を実施し可能性のある予後因子を評価した.
結果:全生存期間は264日(皮膚病変:130日、粘膜皮膚/粘膜病変: 491日)だった. 多変量解析では皮膚病変(P<0.001)および多発性病変(P<0.001)が生存期間の短縮と関連していた. 皮膚病変の80頭において、化学療法の実施(P<0.001)および孤立性病変(P<0.001)が生存期間の延長と関連していた. 72頭の多発性皮膚病変において、化学療法の実施(P<0.001)、レチノイドによる治療(P=0.001)および完全寛解(P=0.001)が生存期間の延長と関連していた. 粘膜皮膚/粘膜病変の68頭において、若齢(P=0.020)および孤立性病変(P=0.015)が生存期間の延長と関連していた.
結論:犬の上皮向性リンパ腫は皮膚病変と粘膜皮膚/粘膜病変の2つに分類される. 孤立性病変は予後良好である. 多発性病変の犬は化学療法やレチノイドによる治療、これらの治療により完全寛解に至ることが生存期間延長に寄与し有益と思われる. 皮膚病変の犬において単剤の化学療法に反応しない場合には多剤併用療法が考慮される.

コメント

あるようでなかった皮膚型(上皮向性)リンパ腫の予後解析についての回顧的研究。皮膚と粘膜に病巣を形成するものの症例間で予後に差が出ているというのは、経験的に納得できる結果であった。セザリー症候群についての解析がなされていないのが少し残念であった。

2018.01

尿中miRNAのナノワイヤによる回収

Unveiling massive numbers of cancer-related urinary- microRNA candidates via nanowires.

Yasui T, Yanagida T, Ito S, et al. Sci Adv. 2017;3(12):e1701133.

尿中の細胞外小胞(EVs)中のmicroRNAの検出は、単純で非侵襲的な早期の疾患の診断や迅速な医療検査に重要である。しかしながら、尿中の細胞外小胞濃度は非常に薄く(<0.01 体積%)、回収が困難であることから、尿の診断や検査が発展していない。我々は微少流体基盤にナノワイヤをとりつけた装置を提案する。この装置は細胞外小胞の回収を効率よく行うことができ、異なる配列の様々なmiRNA(約1000タイプ)の抽出をその場で行うことができる。それにより従来の超遠心法よりはるかに多く抽出ができる。液体が流れている間、基盤に取り付けたナノワイヤの安定性とナノワイヤ上でEVの静電気による回収がこの装置を成功に導いた2つのキーポイントである。さらに、われわれはこの装置が癌のバイオマーカー検出に有用か調べるため、泌尿器(膀胱、前立腺)の癌の患者だけでなく、泌尿器以外(肺、膵臓、肝臓)の癌の患者からも尿を採取し検査を行った。この装置は尿中バイオマーカーによる早期診断や癌の定期検査を長期目標とする研究の基礎となるであろう。

コメント

尿中のmiRNAを含んだ細胞外小胞を、ナノワイヤにより静電気力を利用して回収・解析した研究。非常に多種類のmiRNAが回収できており、将来的により非侵襲的な診断が可能となるかもしれない。

2018.01

犬の尿路移行上皮癌:レビュー

Management of transitional cell carcinoma of the urinary bladder in dogs: A review.

Fulkerson CM, Knapp DW. Vet J. 2015;205(2):217-225.

移行上皮癌(TCC、尿路上皮がん)は犬で最も多い泌尿器腫瘍であり、全世界で毎年10/1000頭の犬が罹患している。犬のTCCは一般的に高い侵襲性を示す。TCCに関連した尿道閉塞や遠隔転移はTCC罹患犬の50%以上で見られ、臨床症状は罹患犬と飼い主の両方で厄介なものとなる。TCCのリスクファクターには旧式のノミ駆虫薬や園芸用の化学物質の暴露、肥満、雌、品種との関連が示唆されている。これらの知見は、飼い犬のTCC発生に対するリスクを低減させた。TCCの診断は膀胱鏡、外科、カテーテルで採材した生検組織の病理組織学的検査で得られる。経皮的な穿刺による採材は腫瘍細胞を播種させる恐れがあるため禁忌である。TCCは外科的な完全切除が非常に困難な膀胱三角に最も多く発生する。犬のTCCでは薬物療法が主軸となる。犬のTCCは通常完治は困難であるが、複数の薬剤で腫瘍の成長を食い止める。治療を受けたTCC罹患犬の約75%で良好な治療反応がみられ、QOLの向上や数ヶ月〜1年ほどの予後も見込める。有望なTCCの新規治療法が多く報告されており、犬のTCCと人の抗悪性度浸潤性膀胱がんは類似性が指摘されているため、犬のTCCにおける新規治療法の確立により人への応用の可能性も示唆されている。

コメント

犬の移行上皮癌について文献を検索すると、"Knapp DW"という名前が数多く出てくる。専門の研究者に症例を集めてn数を増やすことで、質の高いデータが発表されていくことは大変素晴らしいことと思う。このレビュー以降、今後は分子標的薬やBRAF変異に関する診断治療について、また高精度放射線治療のデータなどが出てくることと思われる。