Journal Club 201803

腫瘍科で行っているJournal Clubの要約を掲載いたします。内容の詳細につきましては原著論文をご参照ください。

2018.03

腹腔内のリンパ節周囲のエコー源性と転移との関連性

Correlation of cytologic and histopathologic findings with perinodal echogenicity of abdominal lymph nodes in dogs and cats.

Davé AC, Zekas LJ, Auld DM. Vet Radiol Ultrasound. 2017;58(4):463-470.

犬および猫における腹部リンパ節の腫大は、通常超音波検査で調べられる。良性のリンパ節腫大か腫瘍性のものかの決定は患者管理に影響するため、それに関連する特異的な超音波検査所見が示されてきた。しかし両者の所見には有意に重複するものが存在するため、多くの場合細胞学的もしくは組織学的診断が必要とされる。この回顧的横断研究の目的はリンパ節周囲の脂肪のエコー輝度により腹部リンパ節の腫大が良性か腫瘍性か判断できるのかを評価し、高エコー周囲脂肪を有するリンパ節における悪性腫瘍と関連したさらなる超音波検査所見を特定することである。超音波検査により腹部リンパ節の腫大を認め、かつ細胞学的または組織学的診断を有する小動物患者(257匹のイヌと117匹のネコ)を良性群と腫瘍性群に分け、超音波検査所見の割合の差で評価した。最長径(イヌおよびネコ)と異常リンパ節の数(ネコ)は高エコー周囲脂肪を有するリンパ節において悪性腫瘍と関連していた。円形細胞腫瘍の犬のリンパ節は有意に高エコー周囲脂肪を有する可能性が高かった。他の腫瘍に罹患もしくはリンパ節炎の患者のリンパ節は正常または高エコー周囲脂肪を有する可能性は同等であった。反応性リンパ節は両種において高エコー周囲脂肪を有する可能性は有意に低かった。これらの結果は、リンパ節周囲の脂肪のエコー輝度は非特異的所見であるが、高エコー周囲脂肪を有する腹部リンパ節は反応性リンパ節である可能性が低く、これらのリンパ節のサンプリングの実施が望ましいことを示唆する。

コメント

リンパ節周囲のエコー源性については、犬のリンパ腫では一つの判断基準となるかもしれないが、その他の腫瘍では従来から言われているサイズ、形状、リンパ節内のエコー源性などをメインとして判断する方が良さそうである。良性と判断されたリンパ節については原疾患の内訳を知りたかった。

2018.03

猫扁平上皮癌に対する166Ho microbrachytherapyの安全性と効果

Intratumoral injection of radioactive holmium (166Ho) microspheres for treatment of oral squamous cell carcinoma in cats.

van Nimwegen SA, Bakker RC, Kirpensteijin J, et al. Vet Comp Oncol. 2018;16(1):114-124.

背景と目的:"microbrachytherapy" は、放射性ホルミウム-166( 166 Ho)ミクロスフィア(MS)を直接腫瘍内に注入することによっておこなう手術不可能な腫瘍に対する治療オプションとして発展してきた。166 Hoはβ線を放出し、それにより少ない範囲で周囲の組織を取り巻き、高く、生体分解性を有した放射性をもつ吸収線量を腫瘍組織に当てることができる。
材料と方法:166 Ho microbrachytherapyの安全性と効果を、手術不可能な遠隔転移のない口腔内扁平上皮癌をもつ13頭の猫で、プロスペクティブなコホート研究において評価した。
結果:局所の反応率は55%で、ここにはCRもしくはPR(downstaging)それに続く周囲の反応も含んだ。全体の生存中央値は113日で、局所の反応を見せた症例では296日であった。副作用は最小限であった。腫瘍体積は有意に反応の予測となった。
考察:反応率は、腫瘍内の空間的な166 Ho MSの分布を最適にすることによって、さらに向上していくだろう。
まとめ:166 Ho microbrachytherapyは、最小の死亡率での切除不能な腫瘍の侵襲が最小限で、ひとつの放射切除の治療としての可能性をもつ。

コメント

小線源治療により腫瘍への局所効果を得るとともに腫瘍内分布を可視化できるという、166Hoの画期的な治療法を報告した論文。局所注入では腫瘍内での薬剤の均一性が治療効果に大きく影響を及ぼす可能性が高いため、解像度の高い画像が得られればより有効な治療法の一つとなるかもしれない。ただいずれにしても特殊な装置と薬剤が必要なため、国内の獣医療で使用できるようになるのには時間がかかると思われる。

2018.03

犬の頭部腫瘍に対するCTリンパグラフィー

Indirect computed tomography lymphangiography with aqueous contrast for evaluation of sentinel lymph nodes in dogs with tumors of the head.

Grimes JA, Secrest SA, Northrup NC, et al. Vet Radiol Ultrasound. 2017;58(5):559-564.

センチネルリンパ節評価は、腫瘍が転移する最初のリンパ節を評価するためにヒト医学において広く使用されている。センチネルリンパ節のバイオプシーで転移が陰性であれば広範なリンパ節郭清を回避できる。腫瘍近位のリンパ節が常にセンチネルリンパ節であるとは限らないため、センチネルリンパ節の同定とサンプリングは、より正確なステージングを可能とし、腫瘍のあるイヌの治療および予後診断にとって重要である。
この前向きパイロット研究の目的は、造影剤を用いた間接CTによるリンパ管造影が、頭部に腫瘤を有する犬のセンチネルリンパ節の同定に有用であるかを調査することである。18匹のイヌにCTリンパ管造影検査を行った。センチネルリンパ節は、16匹(89%)において造影剤注入後3分以内に同定された。気管チューブの結紮および/または患者の自重によるリンパ管の圧迫は、2匹のイヌ(11%)においてセンチネルリンパ節の同定を遅延または防止した。CTリンパ管造影は、頭部に腫瘤を有するイヌのセンチネルリンパ節を迅速に同定するために使用することができる。

コメント

想定しないリンパ節へ悪性腫瘍が転移するケースが時々見受けられ、特に頭部ではリンパ経路が複雑でリンパグラフィーを実施するメリットは大きい。手技が容易かつ短時間で行えるためルーチンに行っても良いのではないかと思われる。転移の有無についての病理検査を行っていないのが残念である。

2018.03

猫の脾臓に対するエコー所見と細胞診所見との関連性

Association between ultrasonographic appearance of splenic parenchyma and cytology in cats.

Bertal M, Norman Carmel E, Diana A, et al. J Feline Med Surg. 2018;20(1):23-29.

目的;猫で脾臓にマスや実質のびまん性虫食い所見がエコーで認められたときに、それが悪性腫瘍の潜在的な判定基準を意味するのかどうか調べる。
方法;エコー所見と脾臓のFNAによる細胞診を実施した猫を、多施設で回顧的に評価。
結果;195匹の猫が基準を満たした。脾臓実質の虫食い所見と細胞診による悪性腫瘍の存在との間に一致は認められなかった。悪性腫瘍を予測する虫食い所見の感度、特異度はそれぞれ13.2%、84.8%であった。1cm以上の脾臓マスの感度、特異度はそれぞれ21.0%、94.7%であった。脾臓実質の大理石模様所見は低周波プローブ(6.6〜10MHz)で検査した症例より高周波プローブ(11〜18MHz)で検査した症例で有意に認められた(それぞれ27.6%、11.1%; P = 0.004)。同様に統計学的には有意差はないが虫食い所見でも同じような傾向が認められた (それぞれ17.1%、8.9%; P = 0.09)。
結論と意義;今回の所見からは猫の脾臓の虫食い像所見は必ずしも細胞診によるリンパ腫や他の悪性腫瘍を反映するものではなかった。エコーで脾臓に1cm以上のマスが存在する場合は猫において悪性腫瘍を示唆している。高周波プローブは大理石模様や虫食い像所見の検出を上昇すると考えられるため脾臓実質を評価する時に考慮する必要がある。

コメント

犬では脾臓のびまん性虫食い所見はリンパ腫の存在を示唆するが、猫では必ずしもそれを意味するわけではないということを示している。論文中のFigureを見る限りでも、犬でよく見る虫食い所見とは異なる画像のように思う。1cmを超える結節病変は悪性腫瘍を疑うものでありこの中には様々な腫瘍が含まれていたため、転移病変である可能性も念頭に入れ全身を精査するべきであろう。