Journal Club 201804

腫瘍科で行っているJournal Clubの要約を掲載いたします。内容の詳細につきましては原著論文をご参照ください。

2018.04

生体内のアスパラギンと乳癌の転移病変との関連

Asparagine bioavailability governs metastasis in a model of breast cancer.

Knott SRV, Wagenblast E, Khan S, et al. Nature. 2018;554(7692):378-381.

我々は以前、異種の乳がんの機能的なモデルを用い、循環する腫瘍細胞を生じる能力の高いクローンの亜集団が、二次的な部位で転移巣を形成する能力がすべて等しいわけではないことを示した。差次的発現スクリーニングとin vitroとin vivoの焦点を合わせたRNA干渉スクリーニングを組み合わせることで、転移性のクローンを見分ける転移のドライバーの候補を明らかにした。これらの中から、患者の原発腫瘍におけるアスパラギン合成酵素の発現が、その後の転移再発に最も強い相関があった。ここに我々は、アスパラギンの生体内での生物利用が転移能に強く影響することを示す。食餌中のアスパラギンの増加またはアスパラギンの合成酵素の発現促進が転移の進行を促進させたのに対して、アスパラギン合成酵素のノックダウンによってアスパラギンを制限し、あるいはL-アスパラギナーゼを投与し、または食餌中のアスパラギンを制限することにより、原発腫瘍の成長に影響することなく転移を減少した。In vitroにおけるアスパラギンの利用可能量を変化させることが浸潤性に強く影響し、これは上皮間葉転換を促進する蛋白への影響と相関が認められた。この結果は、単一のアミノ酸の生体内での生物利用がどのように転移の促進を制御しているのかのメカニズムの少なくとも一つの可能性を示している。

コメント

アスパラギンの生体内での利用と乳癌の転移に着目した論文である。アスパラギン合成酵素の発現調節の臨床応用に期待したい。また、L-アスパラギナーゼの適応も広がる可能性がある。
食餌中のアスパラギンの制限により肺転移が減少したことは新しい発見であるが、アスパラギンは非常に多くの食品中に含まれ、完全に制限するというのは現実問題難しい。
今後は腫瘍の種類や性質によって患者の食事を調整し、がん細胞が特定の栄養素を得られないようにすることで治療の効果を高められるのかもしれない。

2018.04

犬の脾臓血管肉腫に対するサリドマイドの効果

Does thalidomide prolong survival in dogs with splenic haemangiosarcoma?

Bray JP, Orbell G, Cave N, et al. J Small Anim Pract. 2018;59(2):85-91.

目的:犬血管肉腫に対する補助療法としてのサリドマイドの有効性の調査。
材料方法:脾臓摘出を行った脾臓血管肉腫の犬15頭を対象とした。術後回復した後から罹患犬が死亡するまで複数回サリドマイドを投与した。サリドマイド投与前に胸部と腹部CTを撮影し、腫瘍のステージングを行い、その後は3ヶ月おきに評価した。死因は死後の病理解剖にて特定した。
結果:サリドマイド治療を受けた犬のMSTは172日(95%信頼区間:93-250日)だった。5頭(33%)は術後1年以上生存した(458-660日)。ステージ2の症例ではステージ3の症例より長期生存した(MST:303 vs 40日)。15頭中13頭が血管肉腫の転移で死亡した。
臨床的意義:サリドマイド治療は脾臓血管肉腫の犬の生存期間を向上させる可能性があり、術後補助療法として考慮すべきである。

コメント

過去の催奇形性の問題からとかく危険なイメージのあるサリドマイドではあるが、近年その抗腫瘍効果が注目されるようになってきている。本研究の結果からは、Stage 2の犬の血管肉腫に対して生存期間の延長が示唆されているため、対照群を設定した前向き研究に期待したい。

2018.04

犬の皮下腫瘍サイズ測定に対する信頼性と一致性

Inter- and Intra-rater reliability and agreement in determining subcutaneous tumour margins in dogs.

Ranganathan B, Milovancev M, Leeper H, et al. Vet Comp Oncol. 2018 Mar 1. doi: 10.1111/vco.12394. [Epub ahead of print]

この前向き研究の目的は、イヌの局所浸潤性の皮下悪性腫瘍のノギスによる測定の一致性と信頼性を評価することであった。4人の評価者が、鎮静前および鎮静後の3回の無作為化盲検測定試験中に、11人のクライアントのイヌから12の皮下腫瘍(軟組織肉腫7匹および5匹の肥満細胞腫瘍)の最長径を測定した。評価者間および評価者内の信頼性は、級内相関係数(ICC)を用いて評価し、一致度はBland-Altmaの散布図を用いて評価した。評価者間および評価者内の信頼性は良好であり、それぞれ(ICC範囲は0.8694-0.89520)と(ICC範囲は0.9720-0.9966)で優れていた。一致度の計算のために、演繹的に臨床的に関連する一致度として10mmが限界として設定された。 評価者間では15.9~55.6mmの長さで一致せず、評価者内では11.9~28.1mmの長さで一致しなかった。測定試行写真のレビューでは、ノギスの向きが頻繁に変化するということが鎮静前/後の症例の9/12(75%)および8/12(67%)で生じていた。評価者間測定値の標準偏差とノギスの方位変化またはBCSとの間に有意な相関は見られなかった。これらの知見は、獣医師が、腫瘍の肉眼的辺縁を決定する上で一致性が不十分であるかもしれないということを示唆しており、不十分な一致性は腫瘍のステージングや治療への反応の評価や外科的マージン計画においてバイアスと不一致を招くと考えられる。

コメント

体表の腫瘍やリンパ節の測定は確かに難しいことが少なくない。本研究の意義としては、腫瘍切除の際のマージン決定のためだけでなく、予後予測や治療効果判定のためにも重要であろう。