Journal Club 201805

腫瘍科で行っているJournal Clubの要約を掲載いたします。内容の詳細につきましては原著論文をご参照ください。

2018.05

犬の乳腺悪性腫瘍を予測する超音波所見

Ultrasonography methods for predicting malignancy in canine mammary tumors.

Feliciano MAR, Uscategui RAR, Maronezi MC, et al. PLoS One. 2017;12(5):e0178143.

本研究の目的はBモード、ドプラモード、造影超音波検査(CEUS)、音響放出力インパルス(ARFI)における犬の乳腺腫瘤の悪性度の予測に関する有効性の評価とその比較をすることである。前向きコホート研究であり、2014年から2016年までに1つ以上の乳腺にしこりのある雌犬 153頭が組み込まれた。合計300の乳腺腫瘤が超音波検査(Bモード、ドプラモード、CEUS、ARFI)にて評価され、その後、病理組織学的に良性ないし悪性に分類された。各超音波検査パラメータは良性ー悪性腫瘍間でカイ二乗検定もしくはステューデント検定にて比較され、P<0.01を有意差ありとした。有意差が証明された変数についてCut-off値、感度、特異度、精度、AUCがROC曲線によるロジスティック回帰分析により算定された。評価された300の乳腺腫瘤のうち、246が悪性腫瘍、54が良性腫瘍と分類された。Bモードでは感度:67.9%、特異度:67.6%、ドプラモードで収縮期 > 21.2m/s、拡張期 > 4.8m/sをカットオフ値として、感度:79.2%、特異度:70.8%、CEUSでwash out time < 80.5sをカットオフ値として感度:80.2%、特異度:16.7%、ARFIでは剪断波速度(SWV) > 2.57m/sをカットオフ値として感度:94.7%、特異度:97.2%であった。結論として、Bモードおよびドプラモードは良性/悪性の予測を中等度の感度と特異度で助けになる可能性がある。SWVはすでにかなり精確な予測因子になった。したがって、ARFIを腫瘍診療および研究に使用することを強く推奨する。ARFIは迅速、非侵襲性、合併症なく乳腺癌の予想ができるからである。

コメント

犬の乳腺腫瘍は本邦において一般的な腫瘍の一つである。超音波検査はもっとも一般的な診断手技の一つであり、乳腺腫瘍の良悪の鑑別には導入しやすい検査であろう。本研究において、ARFIを用いたSWVは感度、特異度共に高く有効な検査であると示された。エラストグラフィーについては今後普及していく可能性はあるが、検査結果に客観性を持たせるためには技術的に熟練を要するものと考えている。

2018.05

猫の注射部位肉腫の術後放射線治療

Comparison of definitive-intent finely fractionated and palliative-intent coarsely fractionated radiotherapy as adjuvant treatment of feline microscopic injection-site sarcoma.

Rossi F, Marconato L, Sabattini S, et al. J Feline Med Surg. 2018 Feb 1. doi: 10.1177/1098612X18758883. [Epub ahead of print]

目的:2施設でのレトロスペクティブな本研究は、ネコの注射部位肉腫(ISS)の術後顕微鏡病変に対して異なる2つの放射線治療プロトコールで治療を実施し無進行生存期間を評価することを目的とした.
方法:肉眼的病変の外科切除後に通常分割照射(48 or 52.8Gyを4週間かけて12 or 16分割)あるいは少分割照射(36Gyを3週間かけて6分割)にて電子線放射線治療を実施したISSのネコを本研究に組み入れた. カルテを回顧しフォローアップ情報を収集した. 2つの放射線治療プロトコールの比較および多くの臨床的因子の影響を評価するためにカプランマイヤー法およびlog-rankテストを用いた.
結果:59頭のネコが組み入れられた; 38頭は通常分割照射を実施し, 21頭は少分割照射を実施した. PFIは2つのグループ間において有意差は認められなかった. 全PFIは2000日であった(2000 vs 540日, P=0.449). 初発の症例のみに限定した場合, 通常分割照射では少分割照射と比較してPFIの中央値は有意に延長が認められた(1430 vs 540日, P=0.007). 複数回の外科切除を実施したネコにおけるPFIは2つのプロトコール間で差は認められなかった(233 vs 395日, P=0.353).
まとめと意義:術後通常分割照射の実施は初発のISSのネコにおいてベネフィットがあると思われる. 複数回の外科切除を実施したネコでは同様のベネフィットが得られるかは明らかではなく, 我々はこのような症例においては少分割照射の実施も検討してもよいと考える.

コメント

これまでネコの注射部位肉腫における放射線治療のプロトコールについて比較検討した研究はほとんどない. 初回切除症例において放射線治療を実施する場合には, 照射プロトコールは通常分割照射を推奨する根拠となる研究である. 複数回の外科切除を実施した場合, 残存した腫瘍細胞は放射線治療抵抗性となっている可能性があり放射線治療そのものに有用性があるかについては更なる検討が必要と思われた. このような症例においては, 化学療法の併用といったより積極的な治療が必要なのかもしれない.