Journal Club 201806

腫瘍科で行っているJournal Clubの要約を掲載いたします。内容の詳細につきましては原著論文をご参照ください。

2018.06

犬の血腹を起こした由来臓器特定のための"sentinel clot sign"

Evaluation of the computed tomographic "sentinel clot sign" to identify bleeding abdominal organs in dogs with hemoabdomen.

Specchi S, Auriemma E, Morabito S, et al. Vet Radiol Ultrasound. 2017;58(1):18-22.

CTの"sentinel clot sign"は、人体内の出血臓器に隣接するもっとも高い減弱性血腫であると定義されている。この回顧的多施設共同研究の目的は、外科もしくは剖検時に腹腔内出血が確認されたイヌのCT所見から、出血の位置に隣接する"sentinel clot sign"の検出率を決定することであった。2012年から2014年の医療記録から、腹腔内出血があり手術または剖検で原因が確認された犬を抽出した。CT画像からsentinel clot signの存在、sentinel clot sign及び腹腔内出血のHU値また腹腔内への造影剤の漏出の存在について検討された。19例のイヌが含まれた。出血量が少なくsentinel clot signの同定が不可能だった3例は除外した。14/16 (88%) 匂いて、出血臓器の近傍でsentinel clot signが検出された。平均HU値は56(範囲:43-70 HU)であり、腹腔内出血の平均HU値は34(範囲:20-45 HU)であった。進行中の出血は、3例の出血臓器からの腹腔内への造影剤の漏出として同定された。結論として、CTのsentinel clot signは腹腔内出血を呈している犬の出血源を特定するのに役立つかもしれない。

コメント

腹腔内出血を呈する症例において、腫瘍の存在を疑いCTを実施する機会は比較的多い。sentinel clot signを示すCT値と血液を示すCT値には若干重なる部分があるため、末梢血のヘマトクリット値も加味したデータがあればより有用ではないだろうか。画像検査で出血を起こしうる腫瘤が見られない場合には特に重宝するのではないかと思われる。

2018.06

犬肥満細胞腫における、c-kit変異に関連したトセラニブとビンブラスチンとの治療成績の比較

c-Kit mutation and localization status as response predictors in mast cell tumors in dogs treated with predonisone and toceranib or vinblastine.

Weishaar KM, Ehrhart EJ, Avery AC, et al. J Vet Intern Med. 2018;32(1):394-405.

背景:肉眼病変のある肥満細胞腫の治療においてトセラニブのようなKIT阻害薬とビンブラスチンとの前向き比較は行われていない。またc-kit遺伝子変異のない肥満細胞腫の治療においてどちらの治療薬が優れているかも知られていない。
仮説・目的:肉眼病変の肥満細胞腫をもつ犬での治療決定におけるKIT遺伝子変異や染色パターンの有用性を検討。c-kit遺伝子変異を持っている場合はビンブラスチンよりトセラニブでより良い反応を示すと予測した。
動物:肉眼病変肥満細胞腫の犬88匹
方法:前向きランダム試験。トセラニブ(TOC; 2.75mg/kg EOD)またはビンブラスチン(VBL; 2.5mg/m2)weekly×4その後EOW)
結果:60症例がTOC、28症例がVBLであった。c-kit遺伝子変異は、TOCの治療を受けた症例の20%、VBLの治療を受けた症例の30%であった。全反応率はTOCで46%、VBLで30%であった。(オッズ比1.56 [0.62-3.92;P=0.28], PFS中央値はVBLで78日、TOCで95.5日。OSはVBLで241.5日、TOCで159日であった。
まとめと臨床的意義:2群間でPFS、OSともに有意差は認められなかった。この母集団では治療群間でc-kit変異の割合に違いはなかったためc-kit遺伝子変異は治療反応を予測しない。

コメント

トセラニブとビンブラスチンとの有効性を前向き研究として比較した論文。c-kit変異陽性の肥満細胞腫に対してもトセラニブの奏効率は4割程度しかなく、KIT阻害薬としてあまり期待できるものではない。このようなケースでは、使用できる状況であればイマチニブが第一選択薬となるであろう。