Journal Club 201810
腫瘍科で行っているJournal Clubの要約を掲載いたします。内容の詳細につきましては原著論文をご参照ください。
2018.10
PDHに対する放射線治療による、下垂体サイズの変化と放射線障害
Pituitary size alteration and adverse effects of radiation therapy performed in 9 dogs with pituitary-dependent hypercortisolism.
Sawada H, Mori A, Lee P, et al. Res Vet Sci. 2018;118:19-26.
この研究の目的は、放射線治療(RT)後の頻回のMRI検査、臨床徴候、およびホルモン濃度の変化をモニターすることで、下垂体依存性の高コルチゾール症のイヌにおける下垂体腫瘍に対するRTの治療および/または有害作用を調べることであった。MRIによって診断された副腎皮質刺激ホルモン(ACTH)分泌下垂体腫瘍を有する9頭の犬は、4週間RT(4Gyごとで合計48Gy)を受けた。 RTの前後で、下垂体の高さ/脳の断面積(P / B)値、臨床徴候、基礎血漿ACTH濃度、血清コルチゾール濃度(ACTH刺激前後の刺激試験)およびRTの有害作用を評価した。RT後9頭のイヌのP / B値は有意に低かった。神経症状がみられなかった1頭はRT前後で臨床兆候の変化を認めなかった。RT前に神経症状がみられた8頭のうち、半数が神経症状の完全な寛解を示したが、残りの半分は一時的な改善であった。神経症状の再発のあった4頭において、下垂体腫瘍の再増殖は観察されなかった。しかし、MRI画像より、中等度から重度の下垂体出血が認められた。 RT後9頭中3頭で晩期障害(両側性中耳炎)が観察された。RTは血漿ACTH濃度およびACTH刺激試験前後の血清コルチゾール濃度に有意な変化をもたらさなかった。結論として、RTは下垂体の大きさおよびマスエフェクトを減少させるために有効であるが、血中ホルモン濃度に影響を与えず、高コルチゾール症に対してはRT以外の内科治療を必要とする。RT後の定期的なMRI撮像は、RTの障害の早期検出を可能にする。
コメント
少数例での報告ではあるが、これだけMRIでモニタリングを実施していった報告は過去になく、腫瘍サイズの変化だけでなく下垂体出血などのイベントが分かったことは貴重なデータであった。ただし、もし下垂体出血が約半数の症例で起きておりそれが放射線の晩期障害によるものなのであれば、今後の照射プロトコルには検討の余地があるものと思われる。
2018.10
レプトスピラ症の犬における腹部超音波所見
Prospective evaluation of abdominal ultrasonographic findings in 35 dogs with leptospirosis.
Sonet J, Barthelemy A, Goy-Thollot I, et al. Vet Radiol Ultrasound. 2018;59(1):96-106.
新しい血清型の出現にもかかわらず、レプトスピラ症を有する犬の詳細かつ最新の腹部超音波検査の記載は欠けている。このプロスペクティブで観察的な単一コホート研究の目的は、レプトスピラ症が確認された35匹の犬における腹部超音波所見を示すことである。全ての犬で少なくとも1つの超音波異常が認められた。超音波検査において腎臓の異常所見はすべてのイヌで認められ、腎皮質エコー源性の増加(100%)、髄質エコー源性の増加(86%)、皮髄部のエコー源性の低下(80%)、皮質肥厚(74%)、腎肥大(60%)、腎盂拡張(31%)、髄質のバンド(14%)であった。犬の83%で肝臓の変化が確認され、実質のびまん性低エコー(71%)および肝腫(60%)であった。胆管胆嚢異常は60%の犬に認められ胆泥(46%)、壁肥厚(29%)、粘液嚢腫(26%)、および壁の高エコー(20%)であった。他の腹部異常は腎臓周囲で多く認められ(60%)、腹膜炎(46%)、小腸壁の肥厚(49%)、およびリンパ節腫脹(38%)であった。2匹の犬(6%)は、小腸腸重積症を呈した。血清群と超音波検査所見との間に関連は認められなかった。この研究の結果は、異常な身体的兆候がなくても、レプトスピラ症が疑われる犬に体系的に腹部超音波検査を行うよう臨床医に促すものである。 胆嚢粘液腫の存在は、イヌにおけるレプトスピラ症の警告徴候であり得る。
コメント
レプトスピラ症の国内での遭遇率は通常非常に低いため、地域やワクチン接種の有無にもよるのだろうが、35症例がわずか2年半で診断されていることは特筆すべきである。ただ国内においてもレプトスピラ症は拡大傾向にあるようなので今後注意が必要かもしれない。エコー所見自体がいずれも特異的な所見ではないため、複数の所見が得られた際にレプトスピラ症を疑えるかどうかが、診断のためには重要となるだろう。
2018.10
犬肥満細胞腫の正常サイズであった所属リンパ節の解釈
The impact of extirpation of non-palpable/normal-sized regional lymph nodes on staging of canine cutaneous mast cell tumours: A multicentric retrospective study
Ferrari R, Marconato L, Buracco P, et al. Vet Comp Oncol. 2018 Jun 12. doi: 10.1111/vco.12408 [Epub ahead of print]
犬の皮膚肥満細胞腫(cMCT)における局所リンパ節への転移は生存期間の短縮および遠隔転移への拡散リスクと相関している。本研究ではcMCTの手術管理で触知できないまたは正常なサイズの所属リンパ節の摘出が含まれていた。組織学的な所属リンパ節状態(HN0‐3)と腫瘍の変数との関連を分析した。原発腫瘍を拡大切除し、触知不能、正常サイズの所属リンパ節を摘出した遠隔転移のない単一のcMCTを有数96匹の犬を含めた。HN (HN0 vs HN > 0; HN0‐1 vs HN2‐3) と腫瘍変数(部位、最長径、潰瘍形成、2および3段階での組織学的グレード)を多項式誤差を有する一般化線形モデルによって解析した。HN1は33例(35.5%)、HN1は14例(15%)、HN2は26例(28%)、HN3は20例(21.5%)であった。所属リンパ節の転移(HN> 0)の存在は、3cmを超えるcMCTと有意に関連していた。他の関連性は統計学的に有意ではなかった。触診不能/正常サイズの所属リンパ節のほぼ半分のケースで組織学的に検出可能な転移性疾患を有していた。転移の臨床的疑いがなくても所属リンパ節の摘出は、疾患の正確なステージングを得るために常に行わなければならない。さらなる研究で転移した所属リンパ節の切除によって腫瘍体積の減少のなり得る治療効果を評価すべきである。
コメント
口腔内悪性メラノーマでは腫大していないリンパ節でも転移していることがある、という報告があるが(Williams LE, et al. J Am Vet Med Assoc 2003)、経験的に肥満細胞腫も同様な感覚があった。本研究では正常サイズの約50%で組織学的に転移が確認されたということで、ルーチンに切除していった方が予後を改善させるのかもしれない。その場合センチネルリンパ節を正しく同定しておく必要があり、近年報告が多いリンパグラフィなどが有用な診断手法ではないかと思われる。