Journal Club 201811

腫瘍科で行っているJournal Clubの要約を掲載いたします。内容の詳細につきましては原著論文をご参照ください。

2018.11

犬の乳腺腫瘍細胞株におけるメトホルミンの抗腫瘍効果

Anti-tumour effect of metformin in canine mammary gland tumour cells.

Saeki K, Watanabe M, Tsuboi M, et al. Vet J. 2015;205(2):297-304.

メトホルミンは、2型糖尿病に用いられる経口血糖降下薬である。その薬理動態はミトコンドリア呼吸複合体Ⅰに関連する。ミトコンドリア呼吸複合体抑制物質は、転移性の犬の乳腺腫瘍(CMGT)の細胞株の増殖を強く阻害する効果がある。メトホルミンは、転移性CMGT細胞に選択的抗腫瘍効果を持っていると仮説をした。この研究の目的は、in vitroで、転移性と非転移性の2つのCMGT細胞株の細胞増殖におけるメトホルミンの効果と、ATPと活性酸素種(ROS)の産生、AMPK-mTOR経路を調査することだ。加えて、トランスクリプトーム分析はメトホルミンによって崩壊した細胞内プロセスを決定することに用いられ、in vivoでの抗腫瘍効果はマウスの異種移植モデルを用いて調査された。
メトホルミンは、in vitroでCMGT細胞の増殖を阻害した。転移性細胞株(CHMp-5b )は高感受性だった。メトホルミン暴露後のATPの枯渇とROSの増加は転移性細胞株と非転移性細胞株(CHMp-13a)で同程度見られた。しかし、その後のAMPKの活性化とmTOR経路の阻害はメトホルミン非感受性の非転移性細胞でのみ有意だった。マイクロアレイ分析では、メトホルミン処理下でCHMp-5bにおける細胞周期の抑制を明らかにした。それはウエスタンブロットと細胞周期分析によってさらに確かめられた。加えて、メトホルミンは異種移植の転移性CMGT細胞株で腫瘍増殖を抑制した。結論、メトホルミンは転移性CMGT細胞株において、AMPKに依存しない細胞周期の抑止による抗腫瘍効果を示した。その作用のメカニズムは、非転移性細胞株で見られたAMPKの活性化やmTORの阻害とは異なっていた。

コメント

メトホルミンの長期投与ががんの発生率や死亡率を低下させるということは以前から知られている。その抗腫瘍効果のメカニズムとして、制御性T細胞の抑制や障害性T細胞の活性化など免疫系に働きかけることが近年報告された。本研究は異なるアプローチから犬の乳腺癌に対する抗腫瘍効果を調べている。細胞株によって得られる反応が異なったため、症例選択も重要になるのではないかと考えられた。