Journal Club 201812
腫瘍科で行っているJournal Clubの要約を掲載いたします。内容の詳細につきましては原著論文をご参照ください。
2018.12
マンノースによる抗腫瘍効果および抗がん剤の増感効果
Mannose impairs tumour growth and enhances chemotherapy.
Gonzalez PS, O'Prey J, Cardaci S, et al. Nature. 2018;563(7733):719-723.
腫瘍が細胞代謝を変化させることは、現在ではよく知られている。このことによって腫瘍細胞の脆弱性を明らかにできる可能性があり、また、多くの腫瘍ではグルコースの取り込み上昇が見られるため、我々は腫瘍細胞が様々な種類の糖質にどのように応答するのかを調べてきた。本論文では、in vitroの研究において、単糖であるマンノースがいくつかの腫瘍細胞の増殖を遅らせ、複数の主要な化学療法に応答して起こる細胞死を増強することを報告する。さらにこのような影響は、in vivo研究において、マンノース経口投与後のマウスでも認められ、マウスの体重や健康状態には大きな影響がないことがわかった。この機構としては、マンノースはグルコースと同じ輸送体により取り込まれるが、細胞内ではマンノース-6-リン酸として蓄積し、これが解糖系やトリカルボン酸回路、ペントースリン酸経路、グリカン合成でのグルコース代謝の進行を妨げると考えられる。その結果、従来の化学療法と組み合わせてマンノースを投与すると、Bcl-2ファミリーの抗アポトーシスタンパク質のレベルに影響が及び、細胞死に対する反応性が高まる。また、マンノースに対する感受性は、ホスホマンノースイソメラーゼ(PMI)のレベルに依存していることがわかった。PMIレベルの低い細胞は、マンノースに対して感受性だが、PMIレベルの高い細胞はマンノース抵抗性である。しかしRNA干渉によりPMIを大幅に減らすと、こうした細胞を感受性にできる。さらに、組織マイクロアレイを使ってPMIレベルは患者間や腫瘍タイプ間でも大きくばらつくことがわかり、PMIレベルはマンノース投与の成否を示すバイオマーカーとして使える可能性がある。我々は、マンノースの投与は、簡便かつ安全で癌治療における選択的な治療であり、複数タイプの腫瘍に適応できる可能性があると考えている。
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マンノースの腫瘍細胞への効果および化学療法剤との併用効果を調べた論文である。in vivoにおいて、マンノース単独でも化学療法剤と同等の効果があり、さらにマンノースと化学療法の併用がもっとも抗腫瘍効果が高いことが示されたことは興味深い。今後人への臨床応用も期待され、今回の研究が実証されれば、化学療法治療中には腫瘍細胞のPMIレベルを測定し、PMIレベルが低ければ、化学療法剤の効果を高めるために、マンノースのサプリメントの併用が推奨されることになるのかもしれない。
2018.12
猫の口腔内扁平上皮癌に対する新しい化学療法
Investigation of novel chemotherapeutics for feline oral squamous cell carcinoma.
Piegols HJ, Takada M, Parys M, et al. Oncotarget. 2018;9(69):33098-33109.
猫の扁平上皮癌(FOSCC)はマルチモーダルな治療を行っても長期の生存期間が得られない高悪性度の癌である。FOSCCはヒトの頭頸部扁平上皮癌(SCCHN)に類似しており、これもまた難治性の癌である。本研究ではFOSCC細胞株を用いて、FOSCCに対する新規の有効な化学療法薬の特定を目的とした。1952種類の薬剤を用いたハイスループットドラッグスクリーニングによって化学療法剤の特定を行なった。スクリーニングによって特定した2種類の薬剤(アクチノマイシンD,メトトレキサート)と、類似の分子標的機構を有し有効性が示唆されるDinaciclibとFlavopiridolを本研究で用いた。腫瘍の増殖抑制効果をこれらの薬剤とFOSCC細胞株を用いたMTS assayにて評価した。さらに、細胞周期と薬剤の効果の関連をヨウ化プロピジウムDNA標識アッセイにて解析した。それぞれの薬剤投与後のcaspase-3/7活性の変化も検証した。これら薬剤はナノモル濃度で効果を示し、感度は細胞株の種類によって様々だった。アクチノマイシンDを除く全ての薬剤で、細胞周期をG1期で停止することがわかった。DinaciclibとFlavopiridolはアポトーシスを誘導することが示唆された。本研究結果から、選択された薬剤はFOSCCに対する新規化学療法薬となる可能性があることが示唆された。これらの研究によってFOSCCに対する新規治療戦略の開発が進むと同時に人のSCCHN治療の橋渡し研究となる。
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抗がん剤抵抗性の強い猫口腔内扁平上皮癌の細胞株に対し、スクリーニング検査で検出された4種類の抗がん剤の抗腫瘍効果をin vitroで調べた論文。メソトレキサートはブレオマイシンとの併用で臨床使用されているが、顕著な効果が出た印象はない。他の3剤の中ではアクチノマイシンDが腫瘍に対しては有効ではないかと思われ、副作用なく使用できるのであれば今後の臨床応用に期待したい。
2018.12
犬のメラノーマ細胞株に対する高濃度ビタミンCの抗腫瘍効果
Anticancer effects of high-dose ascorbate on canine melanoma cell lines.
Shin H, Nam A, Song KH, et al. Vet Comp Oncol. 2018 Sep 6. doi: 10.1111/vco.12429. [Epub ahead of print]
最近の人間医療では、強力な抗酸化物質としてよく知られているアスコルビン酸が広く使われている。高用量アスコルビン酸の静脈内投与が抗腫瘍効果を発揮することが証明されている。In vitro では効果的な細胞死を、in vivo では腫瘍成長の抑制をもたらした。本研究の目的は、in vitro における犬メラノーマに対する高用量アスコルビン酸の効果を評価することである。4 つの犬メラノーマ細胞株(UCDK9M1, UCDK9M3, UCDK9M4, UCDK9M5)の細胞生存率への影響を調べるためにアスコルビン酸を2 時間0-20mM の範囲で投与した。4 つ全ての犬メラノーマ細胞株は用量依存的に生存率の減少を示した。さらなる調査で、高用量アスコルビン酸はBax タンパク質の活性化を介してアポトーシスを誘発することがわかった。これらの知見は、高用量アスコルビン酸がin vitro において犬メラノーマ細胞株に対して抗腫瘍効果をもつことを示した。臨床応用に関しては、さらにin vivoでの調査をするべきである。
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高濃度ビタミンC療法の制癌作用に対するエビデンスは着実に蓄積しており、QOLの改善といった臨床的にしか評価しえない効果だけでなく、細胞・分子レベルでの作用についても解明が進んでいるようである。がん細胞のレドックス代謝異常が近年注目されていることからも、過酸化水素を発生させる高濃度ビタミンC療法はますます発展していくのではないだろうか。