Journal Club 201901
腫瘍科で行っているJournal Clubの要約を掲載いたします。内容の詳細につきましては原著論文をご参照ください。
2019.01
犬の胸腔内・腹腔内出血に対する自己血輸血
Autologous blood transfusion in dogs with thoracic or abdominal hemorrhage: 25 cases (2007-2012).
Higgs VA, Rudloff E, Kirby R, et al. J Vet Emerg Crit Care. 2015;25(6):731-738.
目的:犬における自己血輸血(ABT)の方法と転帰を記述すること。
デザイン:レトロスペクティブ スタディ(2007年1月~2012年7月)
実施場所:民間の二次診療施設
動物:胸部か腹部の出血にABTを実施した犬25頭
方法と結果:病院のデータベースから「autotransfusion」をキーワードに2007年1月から2012年7月まで検索した。データには、シグナルメント、体重、出血の原因、回収の場所と方法、ABT投与量と方法、抗凝固剤の使用、報告された合併症と結果が含まれた。25頭の犬に27回のABTが行われた。出血の原因は、血管外傷(14/25頭:56%)、腫瘍の破裂(8/25頭:32%)、ブロジファクム(=殺鼠剤)中毒に起因する凝固障害(3/25頭:12%)出会った。自己血は腹腔(19/25頭:76%)、胸腔(5/25頭:20%)、胸腔と腹腔(1/25頭:4%)から回収された。抗凝固剤を加えたのは25例中13例(52%)だった。ABT量の中央値は29.3mL/kg(範囲:2.9-406.9mL/kg)で、投与時には210μmの輸血フィルター(21/27例:78%)か18μmのヘモネートフィルター(6/27例:22%)のいずれかを通して注入した。ABTに関連している可能性があると報告された合併症は、低カルシウム血症(4/17:24%)、溶血(5/19:26%)、凝固時間の延長(4/5:80%)だった。これらの合併症は臨床的に最小限と考えられた。血液製剤の追加は25頭のうち17頭(68%)の犬で行われた。17頭(68%)の犬が退院まで生存した。残りの症例の死亡原因は、制御できない出血のための安楽死か心停止だった。
結論:ABTは血管外傷、腫瘍破裂、抗凝固作用をもつ殺鼠剤中毒に続く胸部や腹部の出血を起こした犬の血液量補充の補助剤である。ABTは特に他の血液製剤が入手できないか、もしくは安価ではない場合に、十分な出血制御まで使用することができる。合併症には低カルシウム血症、凝固時間の延長、溶血が含まれる可能性がある。
コメント
輸血体制を整えにくい現在の獣医療では、自己血輸血は緊急時の有効な補助治療かもしれない。本論文では特殊な機器を用いることなく実施されているため、処置後の合併症について十分な配慮がなされていればすぐに実施できるのではないかと思われる。
2019.01
猫の呼吸器症状と胸部CT所見との関連性
Associations between respiratory signs and abnormalities reported in thoracic CT scans of cats.
Lamb CR, Jones ID. J Small Anim Pract. 2016;57(10):561-567.
目的:猫の胸部CTで報告された無症候性異常の有病率を推定し、呼吸器症状とCT所見との関連性を調査する。
方法:一連の猫においてシグナルメント、適応、呼吸器症状、CT所見を後ろ向きに調査。
患者変数、呼吸器症状、CT所見の関連性について多変数回帰法を用いて分析する。
結果:352匹の猫のカルテを確認。胸部構造に影響を及ぼす異常は呼吸器症状の無い猫のうち77%(138/179)で報告された。最も多かった異常所見は肺虚脱(41%)、気管支疾患(24%)、占拠性病変(21%)であった。呼吸困難、咳、頻呼吸は占拠性病変と関連していた。呼吸困難は肺のコンソリデーション、無気肺と関連していた。体重増加は無気肺と年齢の増加は気管支疾患と関連していた。
臨床的意義:呼吸器症状を示さなかった猫の胸部CTで一般的に異常が認められた。最も多い所見は無気肺でありおそらく、鎮静または麻酔の一時的な効果である。臨床症状とCT所見の限定された相関関係と高い割合での臨床症状を示さない異常所見は診断を困難にする。
コメント
実臨床において、猫の肺CTで偶発的に認められる異常所見の対応に悩むことは犬よりも圧倒的に多い。本論文では、呼吸器症状のない症例の80%近くが無症状だがCTに異常所見が認められたという結果が得られている。そしてそれらの多くは肺虚脱(無気肺)や気管支疾患であったということを考えると、積極的な生検や治療介入は必要ないものかもしれない。ただし本研究は横断研究でありその後の病変変化を追っていないため、この結果をもって一概に大丈夫とは言い切れないということには注意が必要である。
2019.01
犬の脾臓血管肉腫に対するメトロノミック維持療法の有用性
The addition of metronomic chemotherapy does not improve outcome for canine splenic haemangiosarcoma.
Alexander CK, Cronin KL, Silver M, et al. J Small Anim Pract. 2018 Sep 12. doi: 10.1111/jsap.12926. [Epub ahead of print]
目的:犬の脾臓血管肉腫に対して、脾臓摘出し最大耐用量の抗がん剤治療を実施した後にメトロノミック化学療法を追加することで転帰が改善するかどうかを評価する。
材料と方法:脾臓摘出後にアトラサイクリン系ベースの抗がん剤治療を実施した脾臓血管肉腫の犬の診療記録を後向きに調査した。39頭の犬に対して脾臓摘出後に最大耐用量のアントラサイクリン系±シクロホスファミドにて化学療法が実施された(Group 1)。 22頭の犬に対して脾臓摘出後に最大耐用量のアントラサイクリン系±シクロホスファミド、およびメトロノミック化学療法にて化学療法が実施された(Group 2)。 これらのグループはそれぞれ最大耐用量のアントラサイクリン系抗がん剤にて治療されたグループと最大耐用量のアントラサイクリン系抗がん剤とシクロホスファミドにて治療されたグループに分割された。
結果:Group 1の無進行生存期間の中央値は165日, 全生存期間の中央値は180日だった。Group 2の無進行生存期間の中央値は180日、全生存期間の中央値は212日だった。両方のグループにおいて最大耐用量のシクロホスファミドによる治療を受けた犬の全生存期間はより短かった。
臨床的意義:脾臓血管肉腫の犬に脾臓摘出し最大耐用量の抗がん剤治療を実施された犬において、メトロノミック化学療法を追加することでの転帰の改善はないように思われる。
コメント
2016年にFinotelloらは、血管肉腫の犬に対して最大耐用量での抗がん剤治療後にメトロノミック療法による維持治療を追加することが生存期間を改善させると報告している(Finotello R et al. Vet Comp Oncol 2017;15:493-503)。これに対して2017年のMatsuyamaらの研究や本研究での結果はFinotelloらの結果に意義を唱える内容である(Matsuyama A et al. J Am Anim Hosp Assoc 2017;53:304-312)。 症例のサンプルサイズや症例選択の手法から、Finotelloらの研究と比較し本研究の結果は信頼するに足る結果であろう。無菌性出血性膀胱炎といった副作用の観点からも、現時点では脾臓血管肉腫に対して脾臓摘出およびアントラサイクリン系の抗がん剤治療といった標準治療に低用量シクロホスファミドを用いたメトロノミック療法を追加することの意義は乏しいと思われる。