Journal Club 201903
腫瘍科で行っているJournal Clubの要約を掲載いたします。内容の詳細につきましては原著論文をご参照ください。
2019.03
犬血管肉腫の骨格筋転移の検出には全身CTが有効か
Prevalance, distribution, and clinical characteristics of hemangiosarcoma-associated skeletal muscle metastases in 61 dogs: A whole body computed tomographic study.
Carloni A, Terragni R, Morselli-Labate AM, et al. J Vet Intern Med. 2019 Feb 22. doi: 10.1111/jvim.15456. [Epub ahead of print]
背景:骨格筋転移(SMMs)は犬において散発的に報告されている。
仮説・目的:全身CTを実施した血管肉腫の犬におけるSMMsの発生率, 発生部位, 臨床症状を評価する。
動物:組織型に血管肉腫と確定され, 転移部位がコア生検や針吸引生検によって血管肉腫の転移と疑われた犬。
方法:レトロスペクティブ研究。全身CTを実施した内臓あるいは筋肉の血管肉腫と確定診断された犬を本研究に組み入れた。原発腫瘍の最終診断とSMMsは組織学的, 細胞学的あるいはその両方で実施された。シグナルメント, 臨床症状, 原発病変の発生部位, 転移の特徴について回顧された。
結果:61頭の犬が組み入れ基準を満たした。骨格筋転移は15頭(24.6%)で検出され, これらの犬の全て1部位以上に転移を認めた。SMMsの発生率は雄で有意に高かったが, 年齢や避妊・去勢の有無, 犬種, 発生部位, 原発腫瘍の大きさとの関連は認められなかった。15頭中9頭のSMMsは跛行や運動不耐性を認めたが, これらの症状はSMMsのない42頭では認められなかった(P<0.01)。
結論と臨床的意義:本研究のポピュレーションでは血管肉腫の犬のSMMsの発生率は人医療や獣医療における過去の研究と比較して高かった。SMMsは臨床検査や古典的な画像診断モダリティでは見逃されうるため, 全身CTは血管肉腫の犬のステージングにおいて推奨される。
コメント
以前より骨格筋は転移しにくい場所として知られているが, 本研究では全身造影CTを実施することで約25%の症例においてSMMsが検出されていることには驚きである。血管肉腫を好発する犬種における原因不明の跛行はSMMsを鑑別に入れた全身造影CTが有用と思われた。
本研究では血管肉腫においてSMMsが好発する機序や予後因子としての意義についての考察が乏しく, 今後の検討課題と思われる。
2019.03
犬の炎症性乳癌に対するトセラニブ、ピロキシカム、サリドマイド投与と放射線治療は予後を改善させるか
The impact of toceranib, piroxicam and thalidomide with or without hypofractionated radiation therapy on clinical outcome in dogs with inflammatory mammary carcinoma.
Rossi F, Sabattini S, Vascellati M, et al. Vet Comp Oncol. 2018;16(4):497-504.
犬の炎症性乳癌は発症から急速な進行と攻撃的な挙動を特徴とする臨床病理学的な疾患である。 報告されている生存期間中央値は短く、効果的な治療法の選択肢はない。 この前向き非対照臨床試験の目的は、完全な病期分類を受けた組織学的に分類可能な犬の炎症性乳癌において、低分割放射線治療の有無に関わらず、 トセラニブ、サリドマイドおよびピロキシカムの転帰および安全性を調査することである。18例の犬が登録され、そのうち14例が内科治療を受け、4例が低分割放射線治療と内科治療を受けた。 全体として進行までの期間の中央値は34日で、生存期間中央値は109日だった。内科治療を受けた犬では全奏効率は21%であり、臨床的有用率は64%だった。進行までの期間の中央値は28 日、生存期間中央値は59 日だった。 内科治療と放射線治療を受けた犬では、全奏効率と臨床的有用率が100%であり、進行までの期間(158 日)と生存期間(180日)が有意に延長した。全体的に治療は忍容性が高く、軽度の胃腸および皮膚の有害事象を伴った。 この疾患に対する最適な治療法は依然として不明であるが、低分割放射線療法の有無に関わらず、全身性の血管新生阻害剤からなる現在のアプローチは、かなりの割合の犬において臨床的な効果をもたらしたため、さらに検討されるべきである。
コメント
一般的に予後不良と考えられている炎症性乳癌に対して、薬剤強度を増強させたメトロノミック療法に一部放射線治療を併用した症例群を前向き検討している論文。放射線治療を併用しない場合でも奏効率は過去の報告よりも良いようだが、生存期間が延長しているとは言えない。これに放射線治療を併用させると生存期間が延長しているが、遠隔転移のある症例に対する局所治療の併用が予後を改善させるという結果の解釈は難しい。そもそも放射線を行っている症例は4例しかいないためこの論文だけで結論を出すことはできず、この研究で使用された抗がん剤の効果も含め再現性の確認が必要だろう。
2019.03
ACEI投与は肺がんのリスク要因となりうるか(人での研究)
Angiotensin converting enzyme inhibitors and risk of lung cancer: population based cohort study.
Hicks BM, Filion KB, Yin H, et al. BMJ. 2018;363:k4209.
Objective:アンギオテンシン阻害薬(ACEIs)の服用群が、アンギオテンシン受容体拮抗薬の服用群に比べて肺がん発症リスクの増加と関連しているかどうかを決定する。
Design:集団ベースのコホート研究
Setting:英国臨床診療調査データリンク
Participants:1995/1/1 から2015/12/31 の間に抗高血圧薬で新たに治療された992061人の患者のコホートが特定され、2016/12/31 まで追跡した。
Main outcome measures:コックス比例ハザードモデルを用いて、アンジオテンシン受容体拮抗薬の使用と比較したACEI の使用の経時変化、全体として、累積使用期間、および開始からの時間に関連する偶発性肺がんの95%信頼区間で補正ハザード比を推定した。
Results:コホートは平均6.4(SD4.7)年間追跡調査され、7952 の肺がん発生が認められた。(粗発生率:一年間あたり1000 人に1.3 人(95%信頼区間:1.2-1.3 人))全体的には、ACEIs 服用群は、アンギオテンシン受容体阻害剤服用群と比べて、肺がんのリスク増加と関係していた(発生率:1000 人当たり1.6 v 1.2 ;ハザード比1.14 , 95%信頼区間:1.01-1.29)。ハザード比は、服用期間が長いほど増加し、5年間の服用後の発生と関連が明らかとなり(ハザード比:1.22 , 95%信頼区間:1.06-1.40)、10年間以上の服用後でピークとなった(ハザード比:1.31 , 95%信頼区間:1.08-1.59)。同じ発見が、開始から経時的にも認められた。
Conclusions:この集団ベースのコホート研究では、ACEIs の服用群は肺がんのリスク増加と関連していた。関連性は、5年間以上ACEIs を服用している患者で有意に認められた。長期的に追跡した追加の研究で、肺癌の発生率におけるこれらの薬の効果を調査する必要がある。
コメント
人では降圧薬を5年間以上服用することは多いと思われるため、ACEIの長期投与により肺がん発症のリスクが増すという結果は重大なこととして考慮すべきである。ACEIの種類についての検討がなされていないが、将来的にはさらなる精査が行われるのかもしれない。犬や猫での使用も多いため前向きコホート研究が必要と思われるが、十分な症例数と観察期間を確保できるかどうかが課題となるだろう。
2019.03
犬の前立腺癌に対する前立腺全摘出術は有効なのか
Total prostatectomy as a treatment for prostatic carcinoma in 25 dogs.
Bennett TC, Matz BM, Henderson RA, et al. Vet Surg. 2018;47(3):637-377.
目的:前立腺癌と組織診断された犬における前立腺全摘出後の術後合併症と臨床転帰を評価する。
研究デザイン:多施設後ろ向きケースシリーズ
方法:2004年から2016年までに前立腺全摘出術を受けた犬のカルテを評価した。シグナルメント、症状、術前の臨床所見、検査結果、画像診断、手術手技、組織診断結果、術後合併症、術後の転移の発生、生存期間について調査した。
結果:25頭の前立腺癌罹患犬に対して前立腺全摘出術を行った。尿路変更術には、14頭で尿道-尿道吻合術、9頭で膀胱尿道吻合術、1頭で尿管結腸吻合術、1頭で膀胱頸部と陰茎部尿道の吻合を行った。全ての犬が生存して退院した。組織検査により15頭が移行上皮癌、8頭が前立腺腺癌、1頭が前立腺嚢胞腺癌、1頭が未分化癌と診断された。術後尿失禁は8 / 23頭で見られた。生存期間中央値は、前立腺内に腫瘍が存在する症例に比べて、前立腺外に腫瘍が浸潤していた症例でより短かった。全生存期間中央値は231日(24-1255日)であり、1年生存率は32%、2年生存率は12%だった。
結論と臨床的意義:過去の前立腺癌の報告と比較すると、前立腺全摘出術と補助療法を組み合わせることで生存期間の延長と合併症率が低下することがわかった。しかし、症例選択が術後転帰に重要な役割を果たしていることに留意すべきである。
コメント
前立腺摘出は、手術難易度の高さや術後合併症の多さから獣医療ではほとんど行われていない手術の一つであろう。この文献は前立腺全摘出を行った症例を多施設で集め、術後合併症や転帰などについて評価している。全生存期間中央値が内科治療と大差ない結果を考えると、積極的に手術が推奨されるものではない。しかし著者らの言う通り、適応症例を見極めることで長期生存(場合によっては根治も期待?)が可能であるならば、選択肢の一つとして考慮すべきかもしれない。