Journal Club 201905

腫瘍科で行っているJournal Clubの要約を掲載いたします。内容の詳細につきましては原著論文をご参照ください。

2019.05

近赤外線免疫療法(NIR-PIT)によりがん細胞を狙い撃つ

Photoinduced ligand release from a silicon phthalocyanine dye conjugated with monoclonal antibodies: a mechanism of cancer cell cytotoxicity after near-infrared photoimmunotherapy.

Sato K, Ando K, Okuyama S, et al. ACS Cent Sci. 2018;4(11):1559-1569.

光化学反応は、反応した分子の物理的な性質を劇的に変える。この研究では、近赤外線(NIR)が、軸上配位子の放出反応を引き起こすことを示した。これは、結合体の形状の変化と水溶液中で集合する性質によりシリコン・フタロシアニン誘導体(IR700)色素の親水性を劇的に変化させる。この光化学反応は近赤外線による光免疫療法(near-infrared photoimmunotherapy,NIR-PIT)による細胞死の主なメカニズムであると考えられる。それは最近発展しているがん分子標的治療である。一度IR700 抗体複合体が標的に結合すると、NIR の光による反応が抗体抗原複合体の構造の物理的変化を引き起こす。これは、細胞膜に対する物理的なストレスにより細胞膜外から内への水の流入の増加を引き起こし、最終的に細胞の崩壊と壊死性(necrotic)細胞死を引き起こす。

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近年大きな注目を集めているこの治療法を開発したのが,米国立がん研究所(NCI)に所属する小林久隆医師だ。現在いよいよ頭頸部扁平上皮癌患者を対象としてPhase 3試験が始まったとのことで,世界中がこの結果を大きな期待とともに待っているものと思われる。

2019.05

微小残存病変(MRD)はB細胞性リンパ腫の再燃を予測できるか

Minimal residual disease in lymph nodes after achievement of complete remission predicts time to relapse in dogs with large B-cell lymphoma.

Chalfon C, Martini V, Comazzi S, et al. Vet Comp Oncol. 2019;17(2):139-146.

抗がん剤治療により臨床的完全寛解(CR)を達成した大細胞性B細胞リンパ腫(LBCL)の犬の多くは最終的に再燃する。しかし,再燃までの期間(TTR)は予測不可能である。この前向き研究の目的は,抗がん剤治療後の大型CD21+細胞のリンパ節(LN)浸潤の影響をフローサイトメトリー(FC)により評価し,TTRに対して予後的意義のあるカットオフ値を求めることであった。治療後にCRに達し,ステージ分類されたLBCLに罹患した犬を組み入れた。FCによる微小残存病変(MRD)解析は,LN吸引により行った。TTRはMRD解析と再発との間で算出した。31症例を組み入れた:4%がステージVで,びまん性LBCLがもっとも一般的な組織型(74%)であった。MRD評価時のLN浸潤に基づき,(a)浸潤細胞なし,(b) ≦0.5%浸潤,(c) >0.5%浸潤の3群に分類した。全体のTTR中央値は154日(31-1974日)であった。22例(71%)は研究期間中に再燃し,9例(29%)はしなかった。ログランク検定により,3群間で有意差が認められた(P=0.042)。(b)群のTTRは中央値に到達せず(195-429日),(a)群のTTR中央値は164日(63-1974日)で,(c)群では118日(31-232日)であった。これらの結果は,臨床的CRのLBCL罹患犬のLN吸引サンプルに対するFCによるMRD評価が,TTRを予測可能であることを示している。また,治療後の0.5%を超える大型CD21+細胞によるLN浸潤は予後不良因子である。

コメント

抗がん剤治療終了から2〜4週間後にリンパ節FNAを行い,フローサイトメトリーを用いたMRDの解析により再発までの期間を比較したという研究。結果的には,解析時に大型リンパ球の割合が高ければ再発までの期間が短くなるという報告だが,そもそも抗がん剤治療終了時にFNAを行っていないため,早期再発群はもともと大型リンパ球の割合が高かったかもしれないという疑いは否定できない。これとは別に,カットオフ値を下回った症例群の2割において長期生存が得られているというデータは興味深い。