Journal Club 201907
腫瘍科で行っているJournal Clubの要約を掲載いたします。内容の詳細につきましては原著論文をご参照ください。
2019.07
患肢温存術後に断脚を余儀なくされた骨肉腫罹患犬の予後は?
Analysis of outcome in dogs that undergo secondary amputation as an end-point for managing complications related to limb salvage surgery for treatment of appendicular osteosarcoma.
Wustefeld-Janssens BG, Seguin B, Erhart NP, et al. Vet Comp Oncol. 2019 Jun 8. doi: 10.1111/vco.12513. [Epub ahead of print]
目的:四肢の骨肉腫(OSA)の治療として患肢温存術を行った後、それによる合併症の管理コントロールが困難となり二次的に断脚を行った犬の予後を研究。
研究デザイン:単施設後ろ向きコホート研究
症例:単施設の原発性骨腫瘍の症例から、組織学的にOSAと診断された中で、骨欠損を再建するためにインプラントを用いた患肢温存術により治療された犬のOSA症例192例。二次的断脚術を受けた犬31症例に対し、患肢温存術のみのコントロール群を80症例選択した(合計111症例)。
結果:二次的断脚術を受けた犬のMST(中央生存期間)は604日であり、対照群(385日)と比較して有意に長い結果を示した(P = 0.05)。二次的断脚術の最も一般的な理由は、局所再発(LR)と手術部位感染(SSI)で、オッズ比はそれぞれ3.6と1.7だった。二次的断脚術を受けた犬は、断脚後より中央値として205日生存し、97%が良好な機能的転帰を示した。
生存期間に正の影響を及ぼした有意な独立因子は、①二次的断脚術、②中等度の手術部位感染、③重度の手術部位感染、④年齢であった。
コメント
四肢骨肉腫に対して,患肢温存手術後に感染が生じた症例では生存期間が延長するのではないかということは以前から示唆されていた。この論文においても,術後中等度〜重度の感染を起こした症例では600日程度のMSTが得られており,一般的な治療で得られるMSTよりも200日程度長いという結果である。では,患肢温存手術後にあえて感染を起こすのが良いか,というアイデアが浮かぶが基礎研究のエビデンスが乏しく倫理的にも問題があるだろう。著者らの考察にあるような,感染に伴うナチュラルキラー細胞や腫瘍関連マクロファージなど免疫系の賦活化が関与しているのであれば,免疫療法との併用が今回の研究と同じような成績の改善をもたらすのではないか,と思われた。
2019.07
ドキソルビシンによる心毒性発現のメカニズム解析
TRPC3-Nox2 complex mediates doxorubicin-induced myocardial atrophy.
Shimauchi T, Numaga-Tomita T, Ito T, et al. JCI Insight. 2017;2(15):e93358.
心筋萎縮は血行力学的負荷増大による心筋の消耗である。ドキソルビシンは抗がん剤として非常に効果的であるが、大部分が解明されていない機構によって心筋萎縮も誘発する。本研究で、私たちはTRPC3(一過性受容体電位チャネル)の抑制がドキソルビシン誘発性心筋萎縮を消失させることをマウスで証明した。ドキソルビシンは低酸素ストレスによるNADPHオキシダーゼ2(Nox2)のアップレギュレーションを通じてげっ歯類の心筋細胞での活性酸素の生成を増加させ、TRPC3と安定した複合体を形成した。TRPC3、C末端におけるミニペプチドの心筋細胞での特有の発現が、TRPC3とNox2のカップリングを抑制し、ドキソルビシン誘発性心筋細胞サイズの減少、左心室機能不全、加えてNox2と酸化ストレスのアップレギュレーションを、低酸素ストレスの減弱なしに抑制した。ドキソルビシン誘発性の心毒性を防ぐ効果的な処置である自発運動はTRPC3の欠乏した心臓で示されているように、TRPC3-Nox2複合体の活性を減少させ、容積負荷誘発性左心室応答を促進させた。これらの結果は、左心室の応答と柔軟性におけるTRPC3の影響を説明し、TRPC3-Nox2複合体に着目した時に、ドキソルビシン誘発性心筋症を防ぐ方法を提供している。
コメント
ドキソルビシンは投与にあたり,血管外漏出による組織壊死と心筋障害という2つの大きなハードルを乗り越えなくてはならない。特に心筋障害は獣医療では避けようのない事象であり,症例に大きな制約を強いている。デクスラゾキサンは人医療において心筋障害を予防するために用いられているが,非常に高価なため,本研究の延長線上にある新薬が実臨床に応用されることに期待したい。