Journal Club 202003

腫瘍科で行っているJournal Clubの要約を掲載いたします。内容の詳細につきましては原著論文をご参照ください。

2020.03

猫の根治的下顎切除を実施した8例

Outcomes of eight cats with oral neoplasia treated with radical mandibulectomy.

Boston SE, van Stee LL, Bacon NJ, et al. Vet Surg. 2020;49(1):222-232.

目的:猫の根治的下顎切除後の転帰を報告すること。
研究デザイン:多施設回顧的研究。
動物:8例の猫。
方法:根治的下顎切除をした口腔内腫瘍罹患猫を医療記録から探索。集積データは統計を含め、外科手技、病理組織学的診断、術後管理、転帰。
結果:年齢の範囲は8~17歳。すべての猫で、75~90%の下顎を切除し、フィーディングチューブを設置。7例が扁平上皮癌で1例が巨細胞腫瘍。6例は術後自力採食が可能だった。3例は局所再発(136日、291日で死亡)、腫瘍関連死。6例は再発なく、生存期間はそれぞれ156、465、608、1023日で、2例は術後316、461日であるが生存中。3例の長期生存例は、非腫瘍関連死だった。1例は156日で誤嚥により死亡。全体の見積もり平均生存期間は712日。
結論:根治的下顎手術後、8例中6例が自力採食可能であり、4例が1年以上生存。
臨床的有用性:根治的下顎切除は、猫の広範囲な口腔内腫瘍の治療法として考慮すべき。術後の積極的なサポートケアが長期生存を可能にする。

コメント

これまで、猫の口腔内扁平上皮癌に様々な治療がされてきたが、外科治療単独ではその生存期間中央値は3ヶ月前後と燦々たる結果であった。その後、腫瘍の存在部位と切除範囲が重要な予後因子であることがわかったが、切除範囲拡大に伴う自力摂食率が50%と報告されていた。本報告は、猫の口腔内扁平上皮癌のMassive Typeに対する根治的外科単独治療を実施し、見積もり生存期間が712日と延長が認められた。また自力摂食率75%と改善され、創傷治癒に必要な栄養補給、肝リピドーシスの予防といったFeeding tubeの重要性も示している。しかし症例数が8例と少ない為、今後の症例数の蓄積、結果から下顎の切除範囲によるFeeding Tubeの設置方法の検討も必要と考えられる。

2020.03

猫の尿路移行上皮癌の臨床所見、治療法、転帰は

Lower urinary tract transitional cell carcinoma in cats: Clinical findings, treatments, and outcome in 118 cases.

Griffin MA, Culp WTN, Giuffrida, et al. J Vet Intern Med. 2020;34(1):274-282.

背景:猫の下部尿路移行上皮癌(TCC)は、臨床的に重要な疾患であるが発生が稀である。
目的:猫における下部尿路TCCの特徴、治療、臨床転帰をコホート研究し予後因子を特定する。
動物:下部尿路の悪性上皮性腫瘍に罹患した118例の猫
方法:回顧的研究。カルテより臨床的特徴、治療、転帰を抽出し、統計解析を実施。
結果:年齢中央値:15歳(5-20.8)、症状を呈した期間の中央値:30日(0-730日)。
膀胱三角部での発生が最多(32/118; 27.1%)(膀胱鏡and/or超音波検査で評価)。
73/118頭(61.9%)の症例で治療され、25/118頭(21.2%)の症例で転移が見られた。
無増悪期間中央値:113日(95% CI, 69-153)、生存期間中央値:155日(95% CI, 110-222)。膀胱部分切除を実施した群でしていない群に比べて有意に生存率が向上した(P<0.001)。
膀胱部分切除とNSAIDsの使用は生存期間を有意に延長させた(HR, 0.31; 95%CI 0.17-0.87)(HR, 0.55; 95%CI 0.33-0.93)。
結論と臨床的有用性:猫のTCCでは膀胱部分切除とNSAIDsが有効であることが示唆された。

コメント

猫の移行上皮癌についての報告は犬と比べて少なく、本論文は100例以上の症例を集めた貴重な報告である。猫では膀胱三角での発生ばかりではないため手術適応となることも多いようで、膀胱部分切除は予後延長が期待できることから積極的に検討すべきとされている。しかしそれでも生存期間が1年を満たないという結果であり、死因は明らかではないが再発も相当数いるものと考えると、できる限り広範囲の切除を実施することが重要ではないだろうか。