Journal Club 202007
腫瘍科で行っているJournal Clubの要約を掲載いたします。内容の詳細につきましては原著論文をご参照ください。
2020.07
犬の乳腺腫瘍と肥満との関連
Role of body condition score and adiponectin expression in the progression of canine mammary carcinomas.
Tesi M, Millanta F, Poli A, et al. Vet Med Sci. 2020 Mar 23. doi: 10.1002/vms3.238. Online ahead of print.
肥満は、ヒトの閉経後乳癌を進行させる危険因子として特定されており、雌犬においても不良な予後との関連が疑われている。本研究の目的は、ボディー・コンディション・スコア(BCS)と犬の乳癌(CMC)の予後との関係、およびアディポネクチンの発現と腫瘍の挙動との関係を調査することであった。本研究には、管状、管乳頭状、単純癌または複合癌である73例の雌犬が含まれた。各犬のBCSの評価は9ポイントのBCSシステムを使用して行われ、正常体重(4–5 / 9; n = 42)、過体重(6–7 / 9; n = 19)および肥満(8–9 / 9; n = 12)に分けられた。食事の種類(市販食、手作り食、またはその混合)についても記録された。外科的切除後、組織型、腫瘍サイズ、およびリンパ節の状態が評価され、アディポネクチン発現は免疫組織化学および形態計測分析によって定量化された。CMCの組織型はBCSと相関していなかったが、一方、BCSと組織学的グレードとの間に正の相関(p < .01)が認められた。過体重と肥満の雌の犬を合わせると、正常体重の雌よりも腫瘍特異的生存期間が短い結果が示された(p < .01)。手作り食を与えられた雌犬は、市販食を与えられた犬よりもBCSが高い結果だったが、食事と腫瘍特異的生存との関連は認められなかった。 36例のCMCがアディポネクチン発現陽性(49%)だったが、ホルモン発現とCMCの組織型や悪性度、または予後との間に相関はなかった。結論として、高いBCSはより攻撃的なCMCと関連しているようであり、これらの乳腺腫瘍を持つ雌犬の生存期間に悪影響を及ぼす。
コメント
「太っている犬の乳腺腫瘍は悪性度が高く、予後が悪いのではないか」‥日ごろ何となく感じていた疑問に一つの納得いく回答を得た印象である。特に中型~大型犬種の肥満犬では悪性度が高い感覚を持っているが、今回は犬種との関連は調べられていない。アディポネクチンと組織学的悪性度や予後等との関連は示されなかったため本研究では現象を報告したのみとなったが、今後原因を究明していくことが重要と考えられる。
2020.07
犬の副鼻腔発生の骨肉腫
Outcome and metastatic behavior of canine sinonasal osteosarcoma (2005-2015).
Galloway A, Lana S, Thamm D, et al. J Am Anim Hosp Assoc. 2020;56(2):98-105.
犬の副鼻腔に発生する悪性腫瘍は局所浸潤性が強く、転移病変が死因となることは一般的ではない。副鼻腔由来の骨肉腫(OSA)の転移率は十分に分かっておらず、症例の転帰についてはさまざまに報告されている。本研究の目的は、犬の副鼻腔OSAの転帰と転移について評価することである。2005年1月から2015年12月の間に病理組織学的に副鼻腔OSAと診断された犬の医療記録がレビューされた。任意の治療を受けた症例と治療を受けていない症例が含まれた。局所進行までの期間、転移までの期間および全生存期間を評価した。腫瘍のステージや治療の種類といった結果に影響を与える可能性のある変数を評価した。組み入れ基準を満たした27例の犬が特定された。全体として30.0%の症例が経過中に転移し、転移までの期間の中央値は458日(95%信頼区間[CI] 318-758日)だった。局所進行までの期間の中央値は335日(95%CI 264-544日)だった。全生存期間の中央値は410日だった(95%CI 341-627日)。転移に関しては、副鼻腔OSAは他の副鼻腔腫瘍と同様の挙動を示し、四肢OSAとは異なっていた。治療を受けた症例の転帰は、他の副鼻腔腫瘍症例の転帰と同様であった。
コメント
副鼻腔発生の骨肉腫は中型〜大型犬においてまれに認められる腫瘍であるが、その臨床挙動や転帰については他部位のものとまとめられており不明な点が多かった。本論文の結果からは局所浸潤性の高さが再確認されたが転移率も30%あることから、他の体軸骨格と同等の挙動を示すことが分かった。治療に関しては放射線治療の有効性が示されているが抗がん剤併用の有効性については示されておらず、併用のタイミングやプロトコルについての検証は必要かもしれない。
2020.07
放射線治療を実施した猫鼻腔内癌の臨床的奏効性と転帰は
Clinical response and survival time of cats with carcinoma of the nasal cavity treated with palliative coarse fractionated radiotherapy.
Giuliano A and Dobson J. J Feline Med Surg. 2020 Jan 16. Doi: 10.1177/1098612X19893445 [Online ahead of print].
目的:癌腫は猫の鼻腔内腫瘍の中で2番目に多い腫瘍である。緩和的少分割照射で治療された鼻腔の癌腫の猫の臨床反応と生存を評価する研究はほとんど報告されていない。
方法:少分割照射で治療された、鼻腔内の癌腫と診断された猫28頭をレトロスペクティブに調査。
結果:臨床症状の改善が24 / 26例(92%)で認められた。生存期間中央値(MST)は342日であった。また、修正Adams分類においてステージIVの症例と、顔面変形のある症例では、MSTがそれぞれ152日(P = 0.0013)および67日(P = 0.0002)と有意に減少した。重度の放射線障害は確認されず、脱毛および白毛症が最も一般的な副作用であった。
結論:猫の鼻腔の癌腫に対する少分割照射は臨床症状の改善に効果的である。特に腫瘍の進行が遅い症例において、生存期間を延長させることが可能である。
コメント
猫の鼻腔内癌腫についての報告は少なく、本論文は少分割放射線治療を実施した際の効果と副作用について調べた文献である。多くの症例で症状の改善が認められていることから、放射線治療は緩和治療として有効であると言えるだろう。しかし過去の文献と合わせて考えると、予後因子にはまだ検討の余地があるように思われる。犬で適用される修正Adams分類が猫の予後を予測する上でも有用なのかどうかについてさらなる研究が期待される。また抗がん剤の効果や死因の特定についても個人的には興味があるところである。