Journal Club 202008

腫瘍科で行っているJournal Clubの要約を掲載いたします。内容の詳細につきましては原著論文をご参照ください。

2020.08

犬の関節周囲の組織球性肉腫に対する放射線治療と手術との比較

Outcome comparison between radiation therapy and surgery as primary treatment for dogs with periarticular histiocytic sarcoma: An Italian Society of Veterinary Oncology study.

Marconato L, Sabattini S, Buchholz J, et al. Vet Comp Oncol. 2020 May 12. doi: 10.1111/vco.12609. Online ahead of print.

局所性の組織球性肉腫は四肢関節周囲に発生することがある。原発病変に対する治療として、根治的な外科切除、放射線治療(RT)、もしくは両者の併用が、潜在的な全身への転移の可能性を考慮した抗がん剤とともに実施される。関節周囲の組織球性肉腫(PAHS)に対する外科的アプローチと非外科的アプローチの無増悪期間(TTP)をよりよく特徴付けるために、ヨーロッパにおける罹患犬のを回顧的に調査した。 手術(主に断脚手術)またはRTとその後の化学療法を受けた、新たにPAHSと診断された症例の医療記録が照会された。49例のうち、34例はRTを受け、15例は手術を受けた。全ての症例が術後の化学療法を受けた。グループ間のTTPまたは全生存期間に統計的に有意差は認められなかった。TTPの中央値は、手術群で336日、RT群で217日だった(P = .117)。全生存期間の中央値は、手術群で398日、RT群で240日だった(P = .142)。多変数分析では、腫瘍進行と腫瘍関連死の両方のリスクの増加に有意に関連する変数として、初診時の所属リンパ節転移と遠隔転移が抽出された。RT後の生存率および局所制御率は、断脚手術に匹敵する可能性がある。これらのデータは、獣医師と飼い主間での治療方針の決定に有用な情報を提供するだろう。

コメント

局所性の組織球肉腫とは言え転移により74%が死亡(安楽死含む)していることから、抗がん剤治療は生存期間に大きく影響していると考えられる。今回の症例群は、術後もしくはRT後に抗がん剤治療を開始している症例が多いため、抗がん剤治療の開始時期を早めた方が予後の改善につながるのではないだろうか。

2020.08

スメクタイトによる抗がん剤誘発性下痢の管理

Chemotherapy-induced diarrhoea in dogs and its management with smectite: Results of a monocentric open-label randomized clinical trial.

Fournier Q, Serra JC, Williams C, et al. Vet Comp Oncol. 2020 Jun 20. doi: 10.1111/vco.12631. Online ahead of print.

抗がん剤誘発性下痢(CID)は犬の抗がん剤治療実施時に多く発生する有害事象である。しかしその管理に関する一貫した治療プロトコルは確立されていない。スメクタイトは人の急性下痢に対する治療に広く使用されている天然の医療用粘土である。本研究の目的は犬のCIDに対するスメクタイトの有効性を評価し、CIDに関する疫学的データを収集することであった。下痢の症状により無作為に2つのグループに分類した:①スメクタイト群:CIDの症状が出始めてから0.5g/kg/day を2-3回に分けて経口投与。②コントロール群:初期治療なし。CIDが悪化した場合や、48時間以内にCIDが改善しなかった場合には両群で救済的にメトロニダゾールを投薬した。2017年6月から2019年3月までの期間で60頭の症例を組み入れた。また、抗がん剤は426回投与されていた。CIDの発生率は110/426(25.8%, 95%CI: 21.7%-30.2%)であり、抗がん剤の種類によって発生率に有意差が見られた。メトロニダゾールの救済的投与はスメクタイト群で5/54例(9.3%, 95%CI:3.1%-20.3%)、コントロール群で40/56例(71.4%, 95%CI: 57.5%-82.3%)で実施された。(P <.001)CIDが治癒するまでの時間は、コントロール群(中央値:53時間, IQR:31.5-113.5時間)に比べてスメクタイト群(中央値: 19.5時間, IQR: 13.5~32時間)群で有意に短縮された。本研究結果はCID患者に対する初期治療としてのスメクタイト投与を支持している。

コメント

本研究の結果からは、抗がん剤投与により生じた下痢に対するスメクタイト投与が極めて有効であることが読み取れる。下痢や嘔吐、食欲低下などの副作用が強く出ると抗がん剤を継続できないケースもしばしば認められるため、このような手段は積極的に検討すべきである。また、今回は治療効果について検討されているが、予防的な効果も発揮できるのかどうかは気になるところである。

2020.08

犬の脳腫瘍関連発作に対する放射線治療の効果

Effect of radiotherapy on freedom from seizures in dogs with brain tumors.

Monforte Monteiro SR, Rossmeisl JH, Russell J, et al. J Vet Intern Med. 2020;34(2):821-827.

背景:発作は、脳腫瘍の犬によく見られる症状である。
仮説/目的:犬において、脳腫瘍関連発作の消失期間及び生存期間に対する放射線療法の効果を調査すること。
動物:脳腫瘍関連発作を認める32頭の飼育犬。18頭は内科治療及び放射線治療を受け、14頭は内科治療のみを受けた。
方法:多施設共同後ろ向き研究。2つの治療群について、ベースライン特性(発作症候、MRI所見、治療方法)および発作消失期間が記録された。2群間の発作消失期間はベースライン特性を共変量とし、Coxの比例ハザード分析を用いて比較された(log-rank検定)。
結果:発作消失期間と生存期間は、放射線治療群で有意に延長し(P< .001)、発作消失期間は放射線治療群で平均24ヶ月(95%信頼区間[CI]、14.3-33.8)、対照群で1.7ヶ月(95%CI:0.5-2.9)、生存期間は放射線治療群で平均34.6ヶ月(95%CI:25.2-44.1)、対照群で6.2ヶ月(95%CI、2.6-97)であった。ベースライン特性は、治療開始後の発作消失期間と関連していなかった。放射線治療群では、発作以外の原因により本研究期間中に5頭が安楽死となった。対照群では、全頭で死亡前に発作の再発が確認された。
結論と臨床的重要性:内科治療群と比較し、放射線治療を受けた脳腫瘍の犬において、発作消失期間と生存期間の延長が明らかとなった。てんかん発作の病態生理学的メカニズムと発作制御に対する放射線治療の効果は現在のところ不明である。更なる前向き研究が必要となる。

コメント

脳腫瘍に対して放射線治療を行った際に、腫瘍サイズは変化していないにも関わらず神経症状が改善していく症例に時々遭遇する。本論文は、脳腫瘍の犬の発作消失期間を延長させる放射線治療の可能性を調査した最初の研究である。内科治療単独群と比較し、放射線照射群は発作を大幅に軽減させることができたことは驚きである。侵襲性の高い脳外科に抵抗感のある飼い主は多くいると予想されるが、放射線治療のメリットの一つとして本研究のデータを提示することができるのではないだろうか。ただし、今回の母集団は単発発作症例が多くを占めており、群発症例や重積症例も含めた更なる調査は必要である。再発症例は追跡期間を延ばし、晩発障害についても検討する必要があるだろう。