Journal Club 202011

腫瘍科で行っているJournal Clubの要約を掲載いたします。内容の詳細につきましては原著論文をご参照ください。

2020.11

急性骨髄性白血病の犬のリンパ球クローナリティ検査陽性率

Dogs with acute myeloid leukemia have clonal rearrangements in t and b cell receptors

Tracy Stokol , Gabrielle A Nickerson , Martha Shuman , Nicole Belcher .Front Vet Sci. 2017 May;4:76.

リンパ球クローナリティー検査はBリンパ球、Tリンパ球のクローン性増殖と非クローン性増殖を区別するのに有用である。犬の急性骨髄性白血病(AML)におけるクローナリティー検査の報告は稀である。本研究の目的は、AMLの犬のリンパ球クローナリティ検査の陽性率を確定することであった。AMLと診断され、検査に必要なDNAを含む十分な検体がある症例は25症例であり、T細胞において陽性 16%(4/25頭)、B細胞において陽性 24%(6/25頭)、T細胞およびB細胞において陽性 24 %(6/25頭)という結果を示した。AMLの犬は高い確率(64 %)でがいずれかのクローナリティー検査に陽性であることがわかった。

コメント

AMLは診療データの蓄積が難しく、未だ治療法が確立されていない。その原因として、そもそもの症例数が少ないこと、診断のための骨髄穿刺を実施する施設が限られること、特殊染色を扱っている検査会社が少ないことが挙げられる。クローナリティ検査は骨髄穿刺よりも実施のハードルが低い印象があるが、今回の報告からはクローナリティ検査でAMLと急性リンパ球性白血病(ALL)を区別することは危険と考えられる。

2020.11

犬の全身麻酔下での再発性高カリウム血症

Recurrent hyperkalemia during general anesthesia in a dog

Carissa W Tong, Anusha Balakrishnan, Rachel Matusow Wynne. Front Vet Sci. 2020 Apr;7:210.

目的:異なる2つの施設で全身麻酔を受けた犬に生じた再発性の高カリウム血症の原因を説明すること
症例概要:11才のロットワイラー(去勢雄)が2つの異なる施設で眼科手術を受け、その度に顕著な高カリウム 血症を呈した。プロポフォール、ミダゾラム、筋弛緩剤、イソフルラン等、似たプロトコールで2回の治療を受けた。最初の麻酔では高カリウム血症と一致する心電図の変化を示したが、2回目の麻酔では心電図に異常は認められなかった。高カリウム血症の明確な原因は明らかでない。いずれの場合も標準治療に反応し、合併症なく退院し、再検査においては正常値を維持している。
討論:人においてはプロポフォールが高カリウム血症と関連することを踏まえると、動物においても同様の関連性があるのかもしれない。しかし、その他の多くの疾患、薬剤も高カリウム血症を引き起こす可能性がある。周術期の高カリウム血症を難治性徐脈の鑑別として認識しておく必要がある。

コメント

犬における麻酔時の高カリウム血症の報告は少数であるが、現時点では糖尿病を患う症例に多いため、内分泌疾患の症例のリスクが高いのかもしれない。
腫瘍科では血行動態に影響を与える手術が多く、低血圧や乏尿に遭遇しやすいが、難治性の低血圧や徐脈の際には心電図の変化を見落とさず、電解質異常を確認するタイミングを逃さないことが重要である。
心電図やモニターに異常が出ないこともあるため、気付かれないまま回復したり、心停止に陥る症例がいる可能性がある。実際にどの程度の発生率があるのか情報の集積が必要である。また、治療や検査の必要性も検討するべきではないか。