Journal Club 202101

腫瘍科で行っているJournal Clubの要約を掲載いたします。内容の詳細につきましては原著論文をご参照ください。

2021.01

ジャックラッセルテリアの胃腺癌の臨床的、組織学的特徴と予後

Clinical and histopathological features and prognosis of gastrointestinal adenocarcinomas in Jack Russell Terriers

Aki Ohmi, Koichi Ohno, James K. Chambers, Kazuyuki Uchida, Taisuke Nakagawa, Hirotaka Tomiyasu ,Hajime Tsujimoto. J Vet Med Sci. 2020;83(2):167-173.

日本では、胃腺腫、胃腺癌と診断されるジャックラッセルテリア(JRTs)の数が増えている。本研究は、JRTsに発生する腺癌の臨床的および組織病理学的特徴と予後についての回顧的な研究である。本研究には胃腸腺癌と診断された7 頭のJRTsと39 頭のその他の犬種が含まれた。JRTsの胃腸腺癌が発生する最も典型的な部位は幽門と直腸であった。病理組織検査では、これらの腺癌は乳頭状または管状の増殖パターンを示し、かつ病変は粘膜上皮に限局し浸潤性は乏しかった。胃腺癌の犬において、JRTsは半数以上が生存していたため生存期間中央値(MST)を決定することはできなかったが、JRTs以外の9頭の犬のMSTは34日だった。大腸に腺癌のある犬においても、JRTs 3頭のMSTは決定できなかったが、JRTs以外の9頭の犬のMSTは1973 日であった。胃腺癌のJRTsとその他の犬種のMSTには有意差が認められた(p=0.0220)。JRTsの胃腸腺癌は臨床的特徴と治療経過、予後において明確な特徴を示すため、他の犬種の胃腸腺癌の管理とは別の外科的および内科的治療計画が考慮されるべきだろう。

コメント

ジャックラッセルテリアの胃腺癌はその他の犬種の胃腺癌と比較して予後が良く、手術や内視鏡による切除を行うメリットがある。この論文では、根治的治療が不可能であっても、再発病変に対する複数回の外科的処置により生存期間の延長やQOLの向上が得られている。対して内科治療による治療効果は十分に検討されていないため、今後の課題と言えるだろう。

2021.01

転移性(stageⅢ)脾臓血管肉腫に対する術後アントラサイクリン系ベースアジュバンド療法 vs メトロノミック化学療法 vs 無治療:イタリア獣医がん学会の多施設後ろ向き研究

Adjuvant anthracycline-based vs metronomic chemotherapy vs no medical treatment for dogs with metastatic splenic hemangiosarcoma: A multi-institutional retrospective study of the Italian Society of Veterinary Oncology

Laura Marconato, Carmit Chalfon, Maria E. Vasconi, Maurizio Annoni, Riccardo Finotello, Gerry Polton, Damiano Stefanello, Paola Mesto, Ombretta Capitani, Chiara Agnoli, Maria Amati, Silvia Sabattini. Vet Comp Oncol. 2019;17(4):537-544.

転移性(stageⅢ)脾臓血管肉腫の治療法の選択肢は限られている。ドキソルビシンをベースとした化学療法が一般的に用いられているが、この治療を支持するデータは報告されていない。本研究の目的は、脾臓摘出術を受けているステージⅢ脾臓血管肉腫の犬の予後に対する、最大耐容量化学療法(MTD)、メトロノミック化学療法(MC)、および補助療法なしの影響を調査することである。
ステージⅢ脾臓血管肉腫の犬のうち、脾臓摘出術を行なったのちMTD化学療法、MCを受けた犬、または補助療法を受けていない犬の医療記録が検索された。無増悪期間(TTP)、生存期間(ST)および毒性を評価した。103匹の犬が対象となり、そのうち23匹がMTDによる補助療法を、38匹がMCを受け、42匹は補助療法を受けなかった。全体でのTTPの中央値と生存期間の中央値(MST)はそれぞれ50日(95%信頼区間(Cl)=39-61)、55日(Cl=43-66)であった。MTDによる補助療法を受けた犬では、MCを受けた犬と比較して有意に長いTTP、MSTを示した。(TTPの中央値:134日vs 52日,P=.025、MST:140日vs 58日,P=.023) 脾臓摘出のみで治療された犬はTTPの中央値が28日、MSTが40日と最も短かった。ただし、治療関連の有害事象(AE)はMTDによる補助療法を受けたグループで有意に頻度が高かった(P=.017)。
転移性脾臓血管肉腫の予後は不良である。MTDはMCと比較してより高い有効性を示したが、毒性はMTDによる補助療法を受けたグループでより高かった。高度に進行した脾臓血管肉腫の犬にMTDによる補助療法を行う場合、治療に関連するAEは、生存期間の延長と慎重にバランスを取る必要がある。

コメント

今回の研究では、アントラサイクリン系をベースにしたMTDがMCよりも延命効果があると示された。ステージⅢ脾臓血管肉腫においては、現在用いられているドキソルビシンをベースとした補助化学療法を行うことが最適と考えられる。しかし、副作用も頻度、グレード共に高いため、これらの症例で治療期間のQOLがどの程度維持されていたのかも、治療方針を左右する要因となるのではないだろうか。