Journal Club 202106
腫瘍科で行っているJournal Clubの要約を掲載いたします。内容の詳細につきましては原著論文をご参照ください。
2021.06
英国における骨肉腫の素因となる犬種と体の形態:症例対照研究
Dog breeds and body conformations with predisposition to osteosarcoma in the UK: a case-control study
Grace L. Edmunds, Matthew J. Smalley, Sam Beck, Rachel J. Errington, Sara Gould, Helen Winter, Dave C. Brodbel and Dan G. O’Neill. Canine Med Genet. 2021;8;2. DOI.org/10.1186/s40575-021-00100-7
背景:骨肉腫は悪性で疼痛を伴う犬の悪性骨腫瘍である。過去の報告では、体重、長骨の長さ、ロットワイラーを含む特定の犬種における遺伝が、骨肉腫のリスクの上昇に疫学的関連があると示唆されている。ただし、これらの報告は選択バイアスや交絡因子によって制限されることが多く、品種に関連した予防に関してはほとんど考察されていない。本研究は、VPG Histologyに提出された1756頭の四肢および体軸の骨肉腫の犬を含み、VetCompassのデータセット内の一次病院の電子カルテから骨肉腫を持たない905211頭の犬が対照群として比較された。
材料と方法:後ろ向きの症例対照研究。多変量ロジスティック回帰分析により、人口統計学的リスク因子(品種、軟骨異栄養犬種、年齢、性別、避妊去勢の有無、短頭種あるいは長頭種、体重を含む)の全ての部位における骨肉腫との関連性が調査された。
結果:骨肉腫のオッズ比が高いあるいは低いいくつかの品種を同定した。最もリスクの高い犬種はミックス犬と比較して10倍以上のリスクの高いロットワイラーとグレードデン、過去の研究でハイリスク品種に挙げられていなかったオッズ比11.31のローデシアンリッジバック(95%信頼区間 7.37-17.35)であった。骨肉腫のリスクが低い犬種は、ビションフリーゼ、フレンチブルドッグ、キャバリアキングチャールズスパニエルであり、これらの犬種のオッズ比は全て0.3未満であった。体重は骨肉腫のリスクと強く関連しており、40Kgを上回る体重の犬は、10 kg未満の犬と比較して45.44倍(95 %信頼区間 33.74-61.20)のリスクがあることが示された。軟骨異栄養犬種の骨肉腫のオッズ比はそうでない犬種と比較して0.13(95%信頼区間 0.11-0.16)であった。
結論:本研究は、骨肉腫の遺伝的病因を示唆する、強い犬種関連性の骨肉腫リスクを示した。特に体重が重く四肢の長い犬種はリスクが高く、体重が軽く四肢が短い犬種でリスクが低いことは強調された。この結果は犬と人の骨肉腫のリスクアレルを明らかにする遺伝子研究に情報を与え、同様に獣医師とオーナーの間での認識を高め、繁殖慣行や骨肉腫の臨床処置の改善に繋がる可能性がある。
コメント
この研究では症例数が少ない犬種は1つのグループにまとめて評価されている。英国で飼育されている犬種と国内の犬種では分布が異なるため、国内で多く診察する犬種に関しては評価が十分でないように思われる。また、大型犬が好発犬種であることは既に知られているため、リスクの低い大型犬や発生部位による分類、国内においては小型犬のリスクに関しての評価、考察に需要があるのではないだろうか。
2021.06
ドキソルビシンによる化学療法を受けている犬におけるカルベジロールの心臓保護効果の評価:前向き無作為二重盲検プラセボ対照予備研究
Evaluation of cardioprotective effects of carvedilol in dogs receiving doxorubicin chemotherapy: A prospective, randomized, double-blind, placebo controlled pilot study
Eloisa Helena M. Pino, Matheus N. Weber, Luciana O. de Oliveira, Luciane C. Vieira, Keylla H.S. dos Santos, Isabella P. Liu, Henrique M. Gomes, Anelise B. Trindade-Gerardi, Jos ́e C.F. Moreira, Daniel G. Gerardi. Res Vet Sci. 2021 Mar;135:532-541. DOI: 10.1016/j.rvsc.2020.11.007.
この予備研究の目的は、ドキソルビシンによる化学療法を受けている犬におけるカルベジロールの心臓保護効果を評価することと、この研究結果と制限事項をもとに今後の研究を提案することだった。13例の犬が2つの実験群にランダムに振り分けられた。カルベジロール投与群は6例、プラセボ群が7例であった。投与群において、カルベジロールはドキソルビシンによる治療が開始した日から0.39 mg/kg ± 0.04 EOD POで開始され、最後の心臓評価時まで継続された。心臓評価はドキソルビシン投与前と各投与後10~15日後に行われた。トロポニンⅠと酸化ストレスは、最初と最後の心臓評価の際に犬から採取された血清を用いて検査された。カルベジロールのβ遮断効果によって、心エコーや心電図にいくつかの変化が生じた(E 波速度、E/IVRT の低下、心拍数の低下、PR、QT 間隔 の延長)。プラセボ群のドプラ検査において僧帽弁血流減速時間(EDT)の有意な増加と胸部誘導の右のS波、左のR波の振幅の増加が認められた。2群間においては EDT、 E/IVRT、A’速度の変化量、心拍数、PR 間隔、胸部誘導 V4/CV6LUのR波で有意差が認められた。結論として、拡張機能および前胸部誘導のいくつかの指標は、対照群よりもカルベジロール投与群でドキソルビシンの影響が少なかった。よって、カルベジロールはドキソルビシンによる治療を受けている腫瘍の犬に有益な効果をもたらす可能性が示唆された。
コメント
本研究では犬においてカルベジロールがドキソルビシンの心筋毒性を抑制する可能性が示唆された。しかし、症例数や観察期間が少なく、ドキソルビシンの投与量も一般的に蓄積性の心筋毒性が生じる量よりも少ない。これらの条件を揃えた前向き研究によりカルベジロールの効果を示す必要がある。カルベジロールは副作用が少なく安価な薬品である点から、効果が証明された場合、ドキソルビシンが選択される犬の腫瘍の治療において非常に有用であると考えられる。
2021.06
犬の四肢骨肉腫の治療における全肺照射の実現性と安全性
Feasibility and safety of whole lung irradiation in the treatment of canine appendicular osteosarcoma
Amanda Brehm, Heather Wilson-Robles, Tesha Miller, Jill Jarvis. Vet Comp Oncol. 2021;1–9. DOI: 10.1111/vco.12702
全肺照射(WLI)は、人の骨肉腫の補助療法として用いられている。この研究の目的は犬の四肢の骨肉腫におけるWLIの実現可能性と安全性を評価することである。この前向き研究には、断脚の後に4回のカルボプラチンの投与が行われた、肉眼的転移が確認されていない12匹の四肢骨肉腫の犬が組み入れられた。全肺を含む照射範囲に、1日1回1.75G(計10回)を照射した。全ての症例に対してWLIは認容性があった。非感染性肺炎や肺線維症の症状を示す犬はいなかった。血液毒性についても評価されたが、放射線治療期間中の血液毒性は軽度であった。再発までの期間の中央値は、WLIで治療された犬と過去の症例を比較したが有意な差はなかった。(WLI:376日 vs 過去の症例:304.5日 (p=0.5461))
今回の研究では、過去の症例と比較して有意な予後が得られたわけではないが、WLIは犬において安全性があると考えられるため、有効性と毒性を特徴付けるために今後さらなる研究が必要である。
コメント
今回の研究ではWLIによる有意な予後の延長が得られておらず、晩期障害に関しても追跡期間が6ヶ月と短いため、有効性、安全性の評価としては不十分に感じられる。骨肉腫は断脚後に転移が死因となる疾患であるため、今回のような肉眼的な転移がない症例に対しての予防的な全肺照射に加え、肺転移がすでに存在する症例に対してのWLIの有効性や忍容性、少数の肺転移を持つ症例に対する局所照射との比較も検討する価値があるのではないか。
2021.06
口腔内扁平上皮癌を外科手術のみで治療した若齢犬の生存期間:獣医腫瘍外科学会 後ろ向き研究
Survival time of juvenile dogs with oral squamous cell carcinoma treated with surgery alone: A Veterinary Society of Surgical Oncology retrospective study
Surabhi Sharma, Sarah E. Boston, Owen T. Skinner, James A. Perry, Frank J. M. Verstraete, Da Bin Lee, Lucinda L. L. Van Stee, Chris Thompson, Matthew Boylan, Talon McKee, Philip J. Bergman. Vet Surg. 2021;50:740–747. DOI: 10.1111/vsu.13625
目的:口腔内扁平上皮癌(OSCC)の外科治療を受けた若齢犬の特徴、病期分類、外科治療および生存期間を報告すること。
研究デザイン:後ろ向き研究。
動物あるいはサンプル集団:外科切除で治療された2歳未満のOSCCの犬25頭。
方法:症例は獣医腫瘍外科学会から収集された。取得されたデータには、性別、犬種、年齢、体重、臨床症状、腫瘍の位置、術前診断と病気分類、マージン評価を伴う病理組織診断、無病期間および死亡日と死因が含まれた。組み入れには最低3ヶ月の観察期間が必要とされた。
結果:18頭が生後12ヶ月未満、7頭が生後24ヶ月未満だった。様々な犬種が見受けられ、平均体重は22.3 ± 14.4 kgであった。術前に転移が確認された犬はいなかった。すべての犬が部分的上顎切除または下顎切除術を受けた。24頭で腫瘍は完全に切除されており、1頭では不完全切除であった。追跡期間中央値は1556日(92日から4234日)であり、転移や再発を呈した症例はいなかった。拡張型心筋症で亡くなった1頭を除き、すべての犬が最後のフォローアップまで生存していた。疾患特異的生存期間の中央値には達しなかった。
結論:若齢犬におけるOSCCの広範囲の外科切除の予後は優れていた。
臨床的意義:若齢犬のOSCCは外科治療のみで効果的に治療することが可能である。
コメント
扁平上皮癌は一般的には浸潤性の高い悪性腫瘍であるが、十分なマージンを確保して外科切除することで根治が見込める。特に幼齢犬では積極的な外科手術を勧めると共に、切除領域を拡大させないための早期発見、早期治療が必要である。