Journal Club 202107
腫瘍科で行っているJournal Clubの要約を掲載いたします。内容の詳細につきましては原著論文をご参照ください。
2021.07
犬の切除不能な肝腫瘍に対する薬剤溶出性ビーズによる化学塞栓療法:前向き臨床試験
Drug-eluting bead chemoembolization for the treatment of nonresectable hepatic carcinoma in dogs: A prospective clinical trial
Cleo P. Rogatko, Chick Weisse, Tobias Schwarz, et al. J Vet Intern Med. 2021;35(3):1487-1495. DOI: 10.1111/jvim.16109
背景:切除不能な肝腫瘍(HC)に対する有効な治療法は限られている。
仮説/目的:薬剤溶出ビーズを用いた肝動脈塞栓術(DEB-TACE)を行った後の成績、合併症、コンピューター断層撮影(CT)による腫瘍反応を報告することである。著者らは重大な合併症はまれであり、短期間のCT評価により、病変は維持、あるいは部分奏効が示されると仮定した。
動物:クライアントが所有する切除不能なHCの犬(n = 16)。
方法:前向き、シングルアーム臨床試験。薬剤溶出性ビーズによる肝動脈塞栓術を、血流閉塞のレベルを変えながら実施した。治療前と治療後約12週間のCT画像を比較した。
結果:薬剤溶出性ビーズによる肝動脈塞栓術はすべての試行で成功した。初期治療後の腫瘍体積反応の変化率は、維持病変(8/13頭、62%)が最も多く、次いで部分寛解(3/13頭、23%)、進行病変(2/13頭、15%)と続き、中央値は74日(範囲39~125日)であった。DEB-TACE後の腫瘍体積の中央値は13%減少(56%減少~77%増加)であった。7/27頭(26%)の治療後に塞栓後症候群のような軽度の合併症が発生した。重大な合併症は3/27頭(11%)で治療後に発生した:肝膿瘍/敗血症(2)、胆嚢炎/死亡(1)の結果、2/27(7%)頭に治療誘発死が発生した。治療後の生存期間の中央値は337日(範囲:22~1061日)だった。体重減少を主訴とした犬は、生存期間中央値(126日、範囲:46~337日)が、体重減少の既往のない犬(582日、範囲22~1061日)よりも有意に短かった。
結論:切除不能なHCに対する薬剤溶出性ビーズによる経動脈的化学塞栓療法は実行可能な治療法であり、本研究サンプルの85%の犬で維持病変または部分奏効が得られた。
コメント
動物の肝動脈塞栓術は、現時点では実施可能な施設が限られている。本研究では切除不可能能な肝臓腫瘍(肝細胞癌)の症例で、1年近くの生存期間(中央値)が得られた。サンプル数が少なく、人との副作用の違いなども含めて追加検討するべき項目があると考えられるが、肝臓腫瘍は無症状で経過し、発見時に手術不適応なサイズに成長していることも多いため、動物医療における需要は大きいかもしれない。ただし、体重減少が認められた症例や、腫瘍サイズが大きい症例では予後が短い傾向にあった。胃を圧迫して食欲不振を引き起こすほどの巨大腫瘍や、すでに肝障害が進行している症例、併発疾患のある症例に対しての実施は慎重に検討すべきである。
2021.07
犬の開創装置(WRD)を使用した低侵襲小腸探索(MISIETB)および腹部標的臓器生検の評価:27例
Evaluation of minimally invasive small intestinal exploration and targeted abdominal organ biopsy with use of a wound retraction device in dogs: 27 cases
Shelly K Shamir, Ameet Singh, Philipp D Mayhew, et al. J Am Vet Med Assoc. 2019;255(1):78-84. doi: 10.2460/javma.255.1.78.
目的:
外科的手法、生検サンプルの品質、および犬の開創装置(WRD)を使用した低侵襲小腸探索および標的腹部臓器生検(MISIETB)の短期的な結果について説明すること。
動物:
2010年1月1日から2017年5月1日までの間に4つの学術獣医病院においてWRDを伴うMISIETBを受けた27匹のクライアント所有の犬。
手順:
医療記録は遡及的にレビューされ、収集されたデータにはシグナルメント、病歴、身体検査や超音波検査、腹腔鏡検査、細胞学的検査および組織学的検査所見、外科手術の適応や手術手技、期間、合併症、そして短期(14日)的な結果が含まれた。
シャピロ-ウィルク検定を使用して連続変数の正規性を評価し、数値変数の記述統計量を算出した。
結果:
腹腔鏡検査は、マルチカニューレを挿入した単一ポート(n=18)、複数のポート(n=5)、または単一の6 mmカニューレ(n=4)を用いてそれぞれ実行された。WRD配置の為の切開の中央値の長さは4cmだった(3~6cm[IQR:25-75%])。得られたすべての生検材料は十分な診断品質を持っていた。組織学的診断で最も多かったのは、リンパ形質細胞性腸炎(n = 14)と腸リンパ腫(5)だった。27匹中25匹(93%)の犬が無事に退院し、3匹(12%)の犬は手術手技とは関係のない術後変化を起こした。
結論と臨床的関連性:
本研究においてWRDを使用したMISIETBが、犬の胃、小腸、膵臓、肝臓、腸間膜リンパ節の診断生検サンプルを取得するための効果的な方法であることが示された。また他の報告では犬の腹部臓器生検のための従来の開腹術とWRDを利用したMISIETBとの前向き比較が報告されている。(J Am Vet Med Assoc 2013;242:1705–1714.)
コメント
低侵襲小腸探索(MISIETB)は動物への負担が少ない生検方法であるものの、適切な症例に実施していない場合には、結局開腹手術への移行が必要となる。従って、総合的な画像診断による適応症例の判断が最重要であると考えられる。この方法で生検が実施されているのは腸管内腔内の粘膜病変に対するパンチ生検などが主体であり、塊状病変についての評価がなされていない。塊状病変に対して全層生検や切除生検を実施し、端々吻合を行なった際の離開率については、改めて検討が必要であると感じる。
超音波ガイド下生検や内視鏡生検等、これまでの腹部組織に対する生検には限界がある。小さく開腹することで質の高い生検材料が得られれば、術前の診断率が高まることが予想される。