Journal Club 202109
腫瘍科で行っているJournal Clubの要約を掲載いたします。内容の詳細につきましては原著論文をご参照ください。
2021.09
犬における甲状腺癌に続発した甲状腺クリーゼ
Thyroid storm in a dog secondary to thyroid carcinoma
Jennifer E Merkle, Bonnie Boudreaux, Ingeborg Langohr, et al. J Vet Emerg Crit Care. 2021;31:428–431. DOI:10.1111/vec.13051.
<目的>
機能性甲状腺癌に続発した甲状腺クリーゼ(TS)の犬の臨床症状、臨床経過、管理について述べること。
<症例情報>
12歳、去勢済みの雌のゴールデンレトリバーが激しい体重減少、高体温、頻脈を主訴に来院。頸部腹側の腫瘤、顕著な甲状腺ホルモン濃度の上昇が認められた。頸部超音波検査より、頸静脈に浸潤した左甲状腺腫瘍が疑われた。積極的な治療にもかかわらず、臨床的甲状腺クリーゼへと進行した。死後検査結果は、臨床診断を支持するものであった。
<コメント>
著者らの知る限り、これは犬における甲状腺クリーゼの最初の報告である。
コメント
甲状腺クリーゼとは、甲状腺中毒症の原因となる未治療あるいはコントロール不良の甲状腺基礎疾患が存在し、これらに何かの強いストレスが加わった時に、甲状腺ホルモン過剰作用に対する生体の代償機構が破綻し、多臓器不全に陥る病態をいう。甲状腺ホルモンの高値に加え、中枢神経症状、発熱、頻脈、心不全症状、消化器症状を呈する(日本甲状腺学会)。
甲状腺癌は比較的慢性経過を辿る疾患であるが、機能性甲状腺癌であった場合には、急変リスクに関してもインフォームする必要がある。本症例は甲状腺中毒症の疑いで入院治療を開始後、急速に容態が悪化しており、入院ストレスや院内で興奮状態の継続をきっかけとして甲状腺クリーゼに陥った可能性がある。
2021.09
ビーグル犬の侵害受容性引っ込め反射に対するメデトミジン、デクスメデトミジンの影響およびアチパメゾールによる拮抗
Effect of Medetomidine, Dexmedetomidine, and Their Reversal with Atipamezole on the Nociceptive Withdrawal Reflex in Beagles
Joëlle Siegenthaler, Tekla Pleyers, Mathieu Raillard, et al. Animals (Basel). 2020 Jul 21;10(7):1240. DOI:10.3390/ani10071240
<目的>
(1)デクスメデトミジンとメデトミジンの抗侵害刺激反応を比較すること
(2)アチパメゾールによる拮抗作用を調査すること
<方法>
前向き無作為化盲検試験は、8匹のビーグル犬で実施された。メデトミジン(MED)(0.02 mg/kg IV)またはデクスメデトミジン(DEX)(0.01 mg/kg IV)のいずれかが投与され、45分後にアチパメゾール(ATI)(0.1 mg/kg)または等量の生理食塩水(SAL)を筋肉内投与した。投薬内容を変え、10-14日後に2回目のセッションが実施された。鎮痛評価のために10秒ごとに電気刺激が加えられ、鎮静状態の評価は10分ごとに記録されスコア化された。
<結果>
MEDおよびDEXを投与した症例の引っ込め反射の閾値は、7mA(3-11)および6mA(4-9)を示した。これは薬剤投与前のベースラインの5.0(3.7-5.9)および4.4(3.9-4.8)倍であった。
鎮静スコアは、MEDとDEXの間で有意差がなかった。
アチパメゾールは25(15-25)分以内に鎮静作用に拮抗し、5分以内に抗侵害刺激作用を示した。アチパメゾールに続いて、痛みの緩和を維持するために追加の鎮痛薬が必要である。
コメント
現時点でデクスメデトミジンに変更するメリットは高くないと感じた。海外では大型犬が対象となって使用されていることが多いと思われるため、混合麻酔としての使用時の不整脈発生率の低下に繋がれば良いと期待する。アチパメゾール投与に伴い、鎮痛作用は早期に拮抗されるため、覚醒後痛みを伴う処置を実施した場合には他の鎮痛薬を考慮すべきである。
2021.09
犬における肛門嚢腺癌に対する中程度分割照射プロトコールの毒性についての遡及的評価
Retrospective assessment of radiation toxicity from a definitive-intent, moderately hypofractionated image-guided intensity-modulated protocol for anal sac adenocarcinoma in dogs
Maximilian Körner, Chris Staudinger, Valeria Meier, et al. Vet Comp Oncol. 2021 Apr 23. DOI:10.1111/vco.12701. Online ahead of print.
最近のシミュレーション研究によって、画像誘導強度変調放射線治療(IG-IMRT)を実施した場合、骨盤腔内臓器に対する中程度分割根治的照射プロトコール(3.8Gy×12)が許容されると推測された。本研究では、本プロトコールにおける放射線障害が臨床的に許容されると仮定した。ASACと診断され放射線治療を受けた犬(11匹)が遡及的に評価された。11匹のうち6匹は放射線治療前に外科治療を受けていた。治療の前に、症例はPoltonの分類に基づいてステージングされた。〔ステージ1(n=1)、ステージ2(n=1)、ステージ3a(n=6)、ステージ3b(n=3)〕有害事象の評価は、放射線治療終了後1週間後、3週間後、以降3ヶ月毎にVRTOGの基準に従ってスコアリングされた。臨床追跡は定期的なCT検査にて継続された(n=3)。生存している犬の追跡期間中央値は594日(範囲:224日〜972日)であった。治療終了後1週間以内に4匹(36%)がグレード1、8匹(73%)がグレード2の肛門周囲領域の急性毒性を認め、これらはすべて治療後3週間以内には改善またはグレード1に改善した。晩発障害(例:慢性大腸炎/下痢、潰瘍形成、狭窄、脊髄症など)はどの症例にも認められなかった。放射線治療終了後5匹の犬は105日、196日、401日、508日、908日後に安楽死されたが、1匹は進行性病変にも関わらず現在も生存している。無増悪生存期間中央値は908日であった(95%Cl:215-1602日)。このプロトコールが進行したASACに対する治療として用いられた場合の急性および遅発性毒性は許容可能と示された。
コメント
皮膚、肛門粘膜の急性障害は半数以上の症例で認められており、下部消化管の急性障害は半数程度、いずれもgrade1あるいは2で、治療に反応して改善している。また、晩発障害は脱毛や白毛症が半数程度の症例で認められたのみで、過去に報告されている消化管穿孔や狭窄は生じなかった。晩発障害に関しては、フォローアップ期間(中央値:592日)が短いのではないかとの指摘がある。しかし、過去の報告と同程度の観察期間であることから、今回のプロトコールはこれまでものと比較して忍容性が高いと判断できるのではないだろうか。