Journal Club 202110
腫瘍科で行っているJournal Clubの要約を掲載いたします。内容の詳細につきましては原著論文をご参照ください。
2021.10
犬の膵外分泌腫瘍におけるトセラニブ(パラディア)の治療効果
Toceranib phosphate (Palladia) for the treatment of canine exocrine pancreatic adenocarcinoma
Margaret L. Musser, Chad M. Johannes. BMC Vet Res. 2021;17:269. DOI:10.1186/s12917-021-02978-8.
<背景>
犬の膵外分泌腫瘍はまれで進行性の高い腫瘍であり、診断が遅れがちである。有効な治療法はなく、全生存期間も短い。人では、チロシンキナーゼ阻害薬の単剤投与、またはゲムシタビンの静脈内投与との併用によりある程度の効果が得られている。犬と人の膵臓癌は臨床的な側面で多くの共通点があり、人の治療方法を模倣することで、犬の予後が改善される可能性がある。本研究の目的は、細胞学的または組織学的に膵外分泌腫瘍と診断された犬において、動物用チロシンキナーゼ阻害薬であるトセラニブの効果を評価することである。
<結果>
トセラニブによる治療を受けた膵臓癌の犬の医療記録を回顧的に検討した。8頭の犬が組み入れされた。トセラニブの忍容性は全ての犬で高かった。6頭は肉眼的病変に対する治療が行われた。4症例では臨床的奏効率(完全奏効、部分奏効、10週間以上持続する維持病変)が画像検査に基づいて評価された。これらの犬のうち、1頭が部分奏効、2頭が維持病変、1頭が進行病変となり、全体的な臨床奏功率は75%であった。また、画像検査で確認できていないが臨床的に安定している症例が1頭いた。トセラニブ特有の全生存期間中央値は89.5日(範囲:14-506日)であった。
<結論>
症例数は限られているものの、この小規模な研究では、犬の膵外分泌腫瘍においてトセラニブが生理活性を有する可能性が示唆された。これらの予備的な結果を裏付け、顕微的病変に対するトセラニブの使用を検討するためには、より大規模な前向き研究が必要である。
コメント
この論文では犬の膵外分泌腫瘍に対してトセラニブが生理活性を有する可能性が示唆された。完全奏功を達成した症例はいないが、肉眼病変を有する6症例の内2例は維持病変で300日以上経過している。増大抑制やQOLの維持を期待して、トセラニブの使用を検討しても良いのではないだろうか。今回の研究では、症例数が少なく生存期間の統計学的な比較はされていない。また、症例のQOLの評価もされていないため、今後より多くの症例数を用いた前向き研究が必要であると考える。
2021.10
ピロキシカム単剤、オメプラゾールまたはファモチジンとの併用で治療された担がん犬における消化管有害事象の発生率と重症度を比較する前向き無作為化プラセボ対照二重盲検臨床試験
A prospective, randomized, placebo-controlled, double-blinded clinical trial comparing the incidence and severity of gastrointestinal adverse events in dogs with cancer treated with piroxicam alone or in combination with omeprazole or famotidine
Marejka H. Shaevitz. George E. Moore. Christopher M. Fulkerson. J Am Vet Med Assoc. 2021;259:385-391. DOI:10.2460/javma.259.4.385
目的:ピロキシカム単剤投与を受けた癌の犬において、オメプラゾールおよびファモチジンの予防的投与が消化管(GI)の有害事象(AE)の発生率および重症度に及ぼす影響を評価すること。
症例:消化器疾患の病歴がなく、細胞学的あるいは組織学的に腫瘍と診断された犬39頭。
方法:前向き無作為化プラセボ対照二重盲検臨床試験を実施した。全頭にピロキシカム(0.3 mg/kg [0.14 mg/lb]、PO、24時間ごと)とオメプラゾール(1 mg/kg [0.45 mg/lb]、PO、12 時間ごと)、ファモチジン(1 mg/kg、PO、12 時間ごと)、またはプラセボ(ラクトース、PO、12時間ごと)のいずれかを投与した。毎月GI AE の評価を行い、Veterinary Comparative Oncology Group の Common Terminology Criteria for Adverse Events(VCOG-CTCAE)の基準(Ver.1.1)を用いてスコアリングを行った。
結果:プラセボ群と比較して,オメプラゾール群(84.6% vs 36.4%)およびファモチジン群(80.0% vs 36.4%)では,56日目までに多くの犬がGI AE を経験した。GI AE の重症度は、プラセボ群と比較して、オメプラゾール群で高かった。
結論:オメプラゾールは GI AE の頻度や重症度の軽減に寄与せず、ピロキシカム単剤で治療を受けた担がん犬では、GI AE の頻度や重症度が高くなった。プロトンポンプ阻害薬とH2受容体拮抗薬は、担がん犬に対するNSAIDsの予防薬として処方すべきでははない。
コメント
経験的に選択される治療方法が全て正しいわけではないため、エビデンスに基づいた治療を提供できるように、常に知識をアップデートしていくべきである。人医療においてはNSAIDsによる胃/十二指腸潰瘍の予防に高用量(1.5倍)のファモチジンが有用であることが報告されている(Laine L et al.2012)。犬においても高用量CRIによる制酸作用の増強が報告されており(Katherine Hedges et al. 2019)、投与量を増やすことでNSAIDsによるGI AEの発生を予防できるかもしれない。
2021.10
犬の頭蓋内グリオーマに対する定位放射線治療の有効性について:レトロスペクティブ研究(2014年~2017年)
Efficacy of frameless stereotactic radiotherapy for the treatment of presumptive canine intracranial gliomas: A retrospective analysis (2014-2017)
Steven J. Moirano, Curtis W. Dewey, Siobhan Haney, et al. Vet Comp Oncol. 2020;18:528–537. DOI: 10.1111/vco.12573
神経膠腫(グリオーマ)に対する従来の多分割放射線治療の使用については、既によく知られている。最近では、定位放射線治療(SRT)が広く普及し、低分割のプロトコルが可能になった。しかし、犬の頭蓋内グリオーマに対するSRTの有用性はほとんど明らかにされていない。我々は、画像検査によって頭蓋内グリオーマと診断され、SRTによる8~10Gyの3回照射の治療を1コース以上行った21頭の犬を対象にレトロスペクティブ分析を行った。この研究の目的は、犬の頭蓋内グリオーマの治療にSRTを使用した場合の有効性、安全性および予後因子を評価することである。全症例の生存期間中央値MSTは636日であった。SRTプロトコルの1コースを受けた犬のMSTは258日であったが、2コース以上の治療を受けた犬のMSTは865日であった(P = 0.0077 log rank, 0.0139 Wilcoxon)。SRTの1コースを受け、補助化学療法を受けた犬のMSTは658日以上で、化学療法を受けなかった犬(MST:230日)よりも有意に長生きした(P = 0.0414 log rank, 0.0453 Wilcoxon)。最も多く発生した有害事象は、3/21頭の犬に認められたおそらく一過性の脱髄であったが、全症例でコルチコステロイドの投与によって改善した。この研究は、SRTが頭蓋内グリオーマの犬の生存期間を延長するのに有効であり、通院回数と麻酔回数を減らすことができる一方で、従来の分割プロトコルと同様の結果が得られる可能性を示している。さらに、複数回のSRTは安全に行うことができ、生存期間の延長につながると考えられる。
コメント
SRTは従来の放射線治療に比べ照射回数が少なく、患者の負担軽減に大いに繋がることが期待できる。SRTによって病変の縮小が期待できるが、その後再発する症例も多い。本研究では複数回のSRTは安全性が高いと結論付けられているが、晩期障害に関する詳しい記述はない。生存期間の延長が得られるならば、晩発障害のリスクも十分検討する必要がある。