Journal Club 202112

腫瘍科で行っているJournal Clubの要約を掲載いたします。内容の詳細につきましては原著論文をご参照ください。

2021.12

血管浸潤を伴う副腎皮質腫瘍に対する強度変調回転放射線治療

Volumetric-modulated arc stereotactic radiotherapy for canine adrenocortical tumours with vascular invasion

M Dolera , L Malfassi , S Pavesi , et al. J Small Anim Pract. 2016;57:710-717. DOI:10.1111 / jsap.1259

目的:脈管侵襲を伴う犬の副腎腫瘍に対す寡分割定位強度変調回転放射線治療の実現可能性と有効性を評価する。
方法:シングルアームの臨床研究を行った。犬には全身CT、脳と腹部のMRI、内分泌検査を行った。副腎腫瘤はコルチゾール分泌性副腎腫瘍と非分泌性副腎腫瘍に分類した。放射線治療は線形加速器を用いた強度変調回転放射線治療を行った。全生存率はKaplan-Meier法で推定した。全奏効および放射線毒性効果を判定した。
結果:9頭の犬が登録された。3頭はコルチゾール分泌性副腎腫瘍、残りの1頭は非分泌性副腎腫瘍であった。処方された線量は30~45Gyで、3回から5回に分割して連日照射された。全生存期間の中央値は1030日で、腫瘍の直径と体積の全体的な平均減少率はそれぞれ32%と30%であった。コルチゾールを分泌する副腎腫瘍を持つ2頭の犬では、内分泌検査項目が正常化した。放射性毒性は軽度であり、自己限定的であった。フォローアップ期間中に7頭の死亡が記録され、2頭が打ち切られた。
臨床的意義:寡分割定位強度変調回転放射線治療は、血管浸潤を伴う副腎腫瘍に対する実行可能かつ効果的な治療法として考慮すべきである。

コメント

副腎腫瘍の治療の第一選択は外科療法であるが、周術期死亡率が高い(最大60 %)ことが知られている。本研究では副腎腫瘍に対する放射線治療について、外科療法に近い生存期間が得られ、副作用も認容できる可能性が示唆されている。しかしながら、症例数が少なく機能性皮質由来腫瘍以外の内訳が明らかでないため、皮質由来腫瘍と髄質由来腫瘍の治療反応性やリスクの違い等、さらなる検討が必要なのではないだろうか。

2021.12

シクロホスファミド、COX-2阻害薬、トセラニブによるメトロノミック化学療法で治療された炎症性乳癌の犬の臨床転帰

Clinical outcome of dogs diagnosed with canine inflammatory mammary cancer treated with metronomic cyclophosphamide, a cyclooxygenase-2 inhibitor and toceranib phosphate

Daniel Alonso-Miguel, Guillermo Valdivia, Paula García-San Jose, et al. Vet Comp Oncol. 2021 Aug 14. DOI: 10.1111/vco.12760. Online ahead of print.

犬の炎症性乳腺癌(IMC)は、悪性度、侵襲性が高く、治療法がまだ確立していない腫瘍である。この後ろ向き研究では、二次性IMCと診断された犬におけるシクロオキシゲナーゼ-2(COX-2)阻害薬とリン酸トセラニブおよびシクロホスファミドの併用(多剤療法:MT)と、COX-2阻害薬単独使用(単剤療法:ST)の有効性を比較した。治療反応性、有害事象、全生存期間(OST)、無病生存期間(DFS)、無増悪期間(TTP)を評価した。16症例が含まれ、8症例はMTを、8症例はSTを受けた。OSTの中央値はST群よりもMT群で(96.0日vs 37.5日; p = .046)、また、非外科的IMCの症例より術後IMCの症例で有意に長かった( 86.5日対41.5日; p = .038)。さらに、TTPの中央値はMT群で有意に高かった(p = .010)。非外科的IMC の患者では、MT群の100%(n = 3)および ST群の33%(n = 1)で臨床的利益(CB)が得られた。MT群の場合、奏功期間が大幅に長くなった(p = .026)。治療開始から30日間疾患の進行が見られなかったことは、OST、DFS、およびTTPの延長と有意に関連していた(p = .018、p = .002、およびp <.001)。有害事象は、ST群と比較してMT群ででより頻繁に発生した(p = .026)。MT群は、主に軽度から中等度の有害事象を示したが、これは支持療法で改善した。したがって、薬物の併用はほとんどの患者によって十分に許容されたと言える。トセラニブ、COX-2阻害薬、およびシクロホスファミドの併用は、IMCの犬に治療効果をもたらすプロトコルである可能性がある。

コメント

MTによりややMSTが延長しているが、予後が悪い腫瘍には変わりないという印象を受ける。過去の報告ではCOX-2阻害剤や放射線の治療の結果として、QOLの改善が明らかであったと記載があるが、今回のMTの症例でどの程度QOLが維持されたのか不明である。MT群では全頭で有害事象が認められ、5/8頭で一時的な休薬や投薬中止となっている。MST 96日の中で、これらの期間は大きなデメリットであると感じる。
この報告では外科手術を受けた症例でMSTが延長しているため、外科治療の有用性の検証が進むと良いと思う。しかし、外科適応となるIMCがより早期に診断されていたり、比較的悪性度が低い可能性も考えられる。
金銭的に現実的ではないかもしれないが、HER2阻害薬を取り入れたMTがより有効である可能性はないだろうか。