Journal Club 202203

腫瘍科で行っているJournal Clubの要約を掲載いたします。内容の詳細につきましては原著論文をご参照ください。

2022.03

猫の癌性胸膜炎の治療のためのカルボプラチン胸腔内投与の評価:8症例後ろ向き研究

Evaluation of intracavitary carboplatin chemotherapy for treatment of pleural carcinomatosis in cats: a retrospective study of eight cases

Franck Floch, Laurie Boissy, Didier Lanore et al. J. Feline Med. Surg. 2020;22(2):84-90.doi: 10.1177/1098612X19826401

目的:癌性胸水を有する猫におけるカルボプラチンの胸腔内投与の利点を評価すること。
方法:2013年1月から2018年6月の間に3つの紹介機関において、上皮性悪性腫瘍による胸水と細胞学的診断を受け、カルボプラチンの胸腔内投与で治療された猫について、シグナルメント、病歴、臨床症状、胸水の性状、画像診断所見、化学療法プロトコール、治療反応性、転帰、原発腫瘍の情報を収集した。
結果:8頭の猫が選択基準を満たした。内3頭は腫瘍の手術歴を持ち、それぞれ原発性の肺の未分化癌、子宮腺癌、および乳腺腫であった。主な臨床症状は、頻呼吸・呼吸困難、食欲不振および体重減少であった。胸部X線検査にて全例で両側性の胸水貯留を認め、これは悪性上皮細胞を伴う変性漏出液であった。全頭で、200〜240mg/㎡のカルボプラチンの胸腔内投与1回のみが行われた。化学療法後4〜15日以内に7/8匹の猫で胸水の再貯留が認められ、全身状態悪化のため、5〜16日以内に全例が死亡(安楽死を含む)した。原発腫瘍は肺腫瘍が4頭、乳腺腫瘍が2頭、膵臓腫瘍が1頭であり、残りの猫においては不明であった。
結論:この研究では、胸腔内カルボプラチン投与は、猫の上皮由来腫瘍性胸水を管理するために効果が認められなかった。癌性胸水貯留の猫のQOLや生存率を改善するために、他の抗がん剤や投与方法を検討する必要がある。

コメント

全ての猫が16日以内に死亡あるいは安楽死を選択されており、観察期間が非常に短い。胸水が消失するまでの効果はなくとも、抜去が必要な間隔の延長等の治療反応性の評価や、副作用(人においてはシスプラチンの胸腔内投与で脳血管の空気塞栓の報告あり)の評価も必要ではないか。効果を高めるため、胸膜内の薬剤活性を長く維持する工夫や、薬剤温度の調整も重要なのかもしれない。

2022.03

猫の鼻腔副鼻腔癌に対する周期的な寡分割放射線治療(QUAD shot)の使用

Use of a cyclical hypofractionated radiotherapy regime (‘QUAD shot’) for the treatment of feline sinonasal carcinomas

Petros S Frezoulis, Aaron Harper, Sarah L Mason. J Feline Med Surg. 2022;1098612X211070737.doi:10.1177/1098612X211070737.Online ahead of print.

目的:猫の鼻腔副鼻腔癌に対する治療法として放射線治療が選択される。様々なプロトコルが報告されているが、最適なプロトコルに関する明確なコンセンサスは得られていない。本研究の目的は、猫に対する周期的な寡分割放射線治療の忍容性、有効性、および予後について述べることである。
方法:組織学的に鼻腔副鼻腔癌と診断された猫を、単一施設において回顧的に検索した。全ての症例で周期的な寡分割放射線治療(QUAD shot)が行われた。48時間以内に一回線量4Gyを4回照射し、各照射は最低6時間の間隔を空けて行われた。これを3-4週ごとに繰り返して、3サイクルで合計48Gyの照射を行った。
結果:7匹の猫が組み入れ基準を満たした。鼻汁とくしゃみが主訴として最も多く確認された。全ての猫がCT検査で進行した病期を呈した。(Adams修正病期分類でstageⅢが3例、stageⅣが4例) 臨床症状の改善は6例で認められた。5例がフォローアップのCT検査を受け、1例が完全奏功、2例が部分奏功、1例が維持病変、1例が進行病変であった。本論文を執筆時点で2例が生存していたが、4例が腫瘍による原因で安楽死された。全生存期間中央値は460日であった。1年生存率は80%で、2年生存率は0%であった。重篤な急性障害、晩期障害は認めなかった。
結論:本研究は、進行した鼻腔副鼻腔癌の猫において、生存期間延長をもたらす周期的な寡分割放射線治療を行った、獣医療では初めての報告である。長期入院がQOLに悪影響を及ぼす一方で、治療に効果的な総線量での放射線治療を行う必要がある症例において使用を検討する必要がある。

コメント

人医療においても、通常分割照射が適応にならない症例に対する最適な緩和照射のプロトコールは研究段階である。本研究で行われたQUAD shotは、これまでの方法よりも有効性を高め、有害事象を軽減する可能性のあるプロトコールとして調査されている。本研究では、進行したステージの鼻腔副鼻腔癌の猫に対してQOAD shotを実施し、過去の報告と同程度の生存期間が得られた。重篤な放射線障害は認められず、症例のQOLは維持された。通院の頻度が少なく入院期間が短いプロトコールは、飼い主と症例への負担が最小限であるため、一般的な週に1回の通院と同様にご提示しても良いのかもしれない。今回の研究では統計学的な予後の比較が行えていないため、より有効性を示すためには今後の検討が必要となる。

2022.03

猫の口腔内肥満細胞腫の2報告

1.猫の口腔内肥満細胞腫の診断と治療
Diagnosis and treatment of a feline oral mast cell tumor

Zachary M. Wright, John D. Chretin. J. Feline Med. Surg. (2006) 8, 285-289. doi:10.1016/j.jfms.2006.01.007

9歳去勢雄(mix)。歯周病治療のための歯科処置にて舌根部右側に 1 cmの有茎状白色腫瘤を確認。切除生検を実施したところ、「肥満細胞腫:周囲の粘膜下組織への中程度の浸潤」との診断であった。CCNU 50 mg/m2(10mg /head)、メチルプレドニゾロン 20 mg/scを実施し、28日後に肉眼的病変の消失を認めた。CCNU7.5 mg/m2とメチルプレドニゾロン20 mg/kg q28日 で6クール継続し、寛解が維持されていたため休薬。以降9ヶ月間寛解を維持している。

2.猫の舌肥満細胞腫
Lingual mast cell tumor in a cat

Breann C Sommer, Brian K Flesner, Shannon Dehghanpir, et al.
Vet. Rec. Case Rep.2016;4:e000345. doi:10.1136/vetreccr-2016-000345

12歳去勢雄(mix)。歯科処置中に3 mmの潰瘍性舌下腫瘤を認め、切除生検を実施したところ、「肥満細胞腫(不完全切除)、下顎リンパ節転移あり」との診断であった。クロラムブシル(02 mg/kg EOD)、プレドニゾロン(1 mg/kg SID)、プレシオセラピー(100 Gy 90 Sr)を実施。2ヶ月で寛解し、再発性尿道閉塞を理由に治療を中止した。原発病変は11ヶ月間寛解を維持しており、両側下顎リンパ節には肥満細胞が存在するものの、肝臓脾臓への転移は認められていない。

コメント

猫の肥満細胞腫は皮膚、内臓、全身に発生するが、50 %以上が皮膚に、その内50 %が頭頸部に腫瘤を形成する。猫の口腔内に発生する肥満細胞腫はまだ報告が少なく、予後や治療反応性が明らかになっていない。しかし、この2報告を確認する限りは犬と異なり良好な予後を辿る可能性がある。現時点での論文数は少ないものの、国内のデータでは猫の口腔内腫瘍の2%(24/1143検体)を占めているため(Vet. Oncol. No.8 2015)、今後の報告が期待される。

2022.03

化学療法中の犬におけるオリゴフコイダンの使用:二重盲検試験

The Use of Oligo Fucoidan in Cancer Bearing Dogs Undergoing Chemotherapy: A Double-Blinded Study

Gerald S. Post, Jonathan Lustgarten. Top Companion Anim Med. Jan-Feb 2022;46:100616.doi:10.1016/j.tcam.2021.100616

化学療法を受けている担がん犬に対する褐藻類由来のオリゴフコイダン(Laminina Japonica)がQOL(生活の質)に及ぼす影響を二重盲検比較試験で評価した。この前向き研究では、がんと診断され、化学療法を受けている犬100頭が対象となった。犬はオリゴフコイダンを投与する群(投与群;n=68)とプラセボを投与する群(プラセボ群;n=32)にランダムに割り付けられた。犬は3ヶ月間、2-3週間ごとに、病歴、身体検査、完全血球計算(CBC)と血清生化学検査を評価された。本研究に登録された犬の飼い主は、診療時に担がん犬用に特別にデザインされたQOLアンケートに回答することが要求された。また、飼い主はオリゴフコイダンとプラセボのどちらを投与されているかを知らされなかった。治療群とプラセボ群のCBC値、血清生化学値に有意差はなかった。QOLの中央値は2群間で有意差がなかったが、それぞれのQOL指標を評価すると、23指標中6指標は有意に改善しており、QOL指標もプラセボ群に比べオリゴフコイダン群で低下しなかった。QOLが改善した犬は、すべてオリゴフコイダンを投与された犬であった。オリゴフコイダンを投与することによる副作用はほとんど認められなかった。オリゴフコイダンの投与は安全であり、化学療法を受けている担がん犬のQOLを向上させた。

コメント

化学療法には副作用(骨髄毒性、消化器毒性など)が伴うため、治療中の症例のQOLの維持は重要な課題である。特に動物のがん治療では、予後の延長以上にQOLの改善が求められることが多いため、従来の化学療法のイメージから化学療法には消極的な飼い主様も多い。化学療法中のQOL低下を防ぐことができれば、治療として化学療法を選択し易くなり、継続できる可能性も高まる。今回の研究ではフコダインが化学療法中の症例のQOLを向上させたと結論付けられているものの、全体のQOLスコアには治療前後の変化、2群間の数値に有意差が認められず、グラフを確認するとフコダイン群でもQOLが低下した症例が存在している。現時点ではフコダインの有効性は定かでないが、人において炎症性サイトカインを減少させる効果が報告されているため、腫瘍に伴う炎症を抑制し、QOLを改善させた可能性が考えられる。動物のQOLにさらなる関心を持ち、抗腫瘍効果のみならず、QOL向上・維持を目的とした研究報告にも常にアンテナを張っておくべきである。