Journal Club 202205

腫瘍科で行っているJournal Clubの要約を掲載いたします。内容の詳細につきましては原著論文をご参照ください。

2022.05

慢性腎臓病の猫に対する食欲刺激剤としての自家製経皮ミルタザピン軟膏の評価

Assessment of compounded transdermal mirtazapine as an appetite stimulant in cats with chronic kidney disease

Jessica M Quimby, Kellyi K Benson, Stacie C Summers et al. J Feline Med Surg. 2020 Apr;22(4):376-383. doi: 10.1177/1098612X19851303.

目的:慢性腎臓病の猫における自家製経皮ミルタザピン軟膏(CTM)の食欲刺激剤としての効果を評価すること
方法:二重盲検プラセボ対照クロスオーバー前向き研究を、CKDのIRISステージ2あるいは3かつ、食欲不振の既往をもつ猫で実施した。最初の研究では9頭の猫が無作為に3.75 mg/0.1 mlのCTMゲルまたはプラセボ剤を3週間塗布され(耳介内側、1日毎)、4日間の休薬期間の後、CTMゲル群とプラセボ群を入れ替えて同様に3週間治療された。次の研究では10頭の猫が1.88 mg/0.1mlのCTMゲルまたはプラセボ剤によって同じスケジュールで治療を実施された。治療前後に身体検査および血液検査を実施し、食欲、活動性および摂食量を飼い主が記録した。CTMゲル中のミルタザピン濃度と定常状態のミルタザピン血清濃度は、液体クロマトグラフィー/タンデム質量分析を使用して測定した。
結果:3.75 mg、1.88 mgのCTMゲルによって体重は有意に増加した(いずれもP=0.002)。食欲(それぞれP=0.01, P=0.005)および摂食量(それぞれP=0.03, P=0.008,)も有意に増加した。活動性と発声には、投与量による差は認めなかった。体重増加の中央値はCTM 3.75 mg群で0.22 kg(0.04-0.44 kg)、CTM 1.88 mg群で0.26 kg(-0.25 to 0.5 kg)であった。BCSスコアの改善はCTM 3.75 mg群の5/9頭(P=0.04)、CTM 1.88 mg群の6/10頭(P=0.004)で認められた。
結論:CTMは食欲を増加させ、CKDの猫の体重を増加させる。製品とは調合に差があるが、製品を利用できない国の猫に有用である可能性が示唆される。

コメント

食欲がない猫に内服薬を投与することは難しいため、ミルタザピン軟膏は獣医療では使い勝手の良い商品である。論文中には自作軟膏のレシピが記載されていないため、どのように作成したのかが不明である。本研究ではEODの塗布で食欲増進効果が得られている。製品であるMiratazもEODで効果が得られる可能性がある。

2022.05

犬と猫の創傷管理のための脱細胞魚皮移植片:17症例(2019-2021)

Acellular fish skin grafts for the management of wounds in dogs and cats: 17 cases (2019-2021)

Elise S Mauer, Elizabeth A Maxwell, Christina J Cocca et al. Am J Vet Res. 2021 Nov 25;83(2):188-192. doi: 10.2460/ajvr.21.09.0140.

目的:犬や猫の複雑な軟部組織創傷管理における脱細胞化魚皮移植片(FSG)の有用性を報告すること。
症例:2019年2月から2021年3月の間にFSGを用いて治療された創傷を持つ犬13頭と猫4頭。
方法:創傷の原因、場所、大きさ、管理方法、合併症、臨床転帰に関する情報について、医療記録を調査した。
結果:犬では、FSGは中央値で2回(1〜4回)使用された。FSG追加までの期間の中央値は9.5日(4日〜21日)だった。初回のFSGの適用までの期間の中央値は19日(9日〜210日)だった。初回のFSGの使用から中央値71日(26日から145日)で閉創が認められた(n = 12)。4頭の猫のうち、3頭は1-2回FSGを使用し、二期癒合により完全に上皮化した。犬1頭と猫1頭では完全な上皮化が得られなかった。FSGの使用に起因する有害事象は認められなかった。
結論:犬や猫においてもほとんどの創傷はFSGにより治癒し、FSGを使用する際に特別なトレーニング、器具および包帯材料は不要であった。

コメント

FSGを使用しても創傷治癒にはそれなりの時間を要している。傷のサイズの詳細が記載されておらず、FSGの使用により傷が早く治るのかの比較ができない。しかし、これまでの方法で治癒を期待できなかった症例で良い結果が得られていることが感じられる。コラーゲン以外の成分が含まれているため、広範囲の創傷、栄養状態や一般状態の悪い症例には特に有用なのではないか。FSGの上に一般的なドレッシング材の使用が必要であるため、巻き直しの手間は変わらないが、これまでの商品は最終的に植皮することを前提としているが、FSGではほとんどの症例で植皮が必要ない点が利点であり、上皮化を促す作用があると考えられる。

2022.05

肝胆管癌の臨床的、診断的、病理学的特徴と外科的転帰:14症例(2009-2021)

Clinical, diagnostic, and pathologic features and surgical outcomes of combined hepatocellular-cholangiocarcinoma in dogs: 14 cases (2009-2021)

Kazuyuki Terai, Kumiko Ishigaki, Yumiko Kagawa et al. J Am Vet Med Assoc. 2022 Apr 27;1-7. doi: 10.2460/javma.21.12.0514. Online ahead of print

目的:犬の肝胆管癌(cHCC-CCA)の臨床的、診断的、病理学的特徴と術後予後の検討
研究デザイン:多施設後ろ向きコホート研究。シグナルメント、臨床症状、尿検査、CT検査、術中所見、病理組織診断を遡及的に調査した。
症例:外科的治療を受けたcHCC-CCAの犬14症例
結果:肝臓腫瘤の外科的切除を受けた306頭の犬のうち、14頭の犬(4.6%)が病理学的にcHCC-CCAと診断された。これらの症例の年齢の中央値は11.3歳、体重は7.3kgであった。cHCC-CCAに特定の臨床病理学的所見はなかった。CT検査ではすべての犬に巨大な肝臓腫瘤があり、13頭の犬の腫瘤内に嚢胞様病変が存在した。手術時には2頭の犬(14.3 %)で肝内転移が認められた。残りの12頭のうち、1頭は術後に転移を示唆する肝内結節を形成し、1頭は肝臓、肺、皮膚に転移を示唆する腫瘤を形成した。cHCC-CCA患者の生存期間の中央値は700日(10〜869日)であった。
結論:これは犬のcHCC-CCAの臨床的、診断的、病理学的特徴と術後予後を明らかにした最初の研究である。犬のcHCC-CCAの臨床的および診断的特徴は、CCAの特徴よりもHCCの特徴に類似している可能性があるが、HCCとcHCC-CCAを術前に診断することは困難であった。我々の研究は、cHCC-CCAの犬の患者の術後予後もHCCの犬に類似していることを示唆している。

コメント

cHCC-CCAはHCC(肝細胞癌)とCCA(胆管癌)の両方の組織病理学的特徴を伴う原発性肝腫瘍である。犬における報告は少なく、診断や予後についての情報が乏しい。今回の研究では、ほとんどの症例が腫瘤内に嚢胞を形成し、半数は動脈相で造影増強を示し、3割の症例で石灰化領域が認められた。術前の病理診断は不可能であるが、これらの所見が認められた際にはcHCC-CCAの可能性を検討しても良いかもしれない。術後の予後はHCCに類似するとのことだが、肝内転移を起こした症例が低分化型cHCC-CCAであったことや、人のcHCC-CCAは胆管癌に近い経過を示すことが報告されていることから、今後の症例数の蓄積が必要と思われる。