Journal Club 202206

腫瘍科で行っているJournal Clubの要約を掲載いたします。内容の詳細につきましては原著論文をご参照ください。

2022.06

ボルテゾニブはプロテアソームを阻害し、ネコ注射部位肉腫(FISS)細胞株にアポトーシスを誘導する

Bortezomib inhibits the proteasome, leading to cell death via apoptosis in feline injection site sarcoma cells in vitro

Travis Laver, Benjamin M Lee, Robert M Gogal. Am J Vet Res. 2022 May 8;83(6):ajvr.21.09.0152. doi: 10.2460/ajvr.21.09.0152.

目的:ネコ注射部位肉腫(FISS)細胞株におけるプロテアソーム阻害剤ボルテゾミブの in vitro 効果を明らかにすること。
細胞株:FISS細胞株Ela-1、Hamilton、およびKaiser
手順:細胞にボルテゾミブまたはジメチルスルホキシドを単独で処理用量によって群設定し、アデノシン三リン酸濃度測定法による細胞生存率、市販のプロテアソーム測定法によるプロテアソーム活性、ウェスタンブロット法によるユビキチン化蛋白の蓄積、フローサイトメトリーによるアポトーシスについて評価した。
結果:3 つの細胞株はすべてボルテゾミブに感受性があり、48 時間処理後の 50%阻害濃度は、Ela-1で17.46 nM(95% CI、15.47~19.72 nM)、Hamiltonで 19.48 nM(95% CI、16.52~23.00 nM)、Kaiserで21.38 nM(95% CI、19.24~23.78 nM)であった。20S プロテアソーム活性は、ボルテゾミブ20nM処理群において、Ela-1 細胞株で90.9%減少、Kaiser 細胞株で70%減少した。ボルテゾミブ(25および40nM)処理群では生存細胞が有意に減少し、アポトーシス細胞が有意に増加した。
臨床的意義:切除不能 FISS に対する治療選択肢は、現在非常に限られている。これらの結果は、このような症例におけるボルテゾミブ単独または他の治療法との併用をさらに検討することを支持するものである。

コメント

猫の注射部位肉腫は悪性度が高い腫瘍である。十分なマージンを確保して切除ができない場合には化学療法や放射線治療を選択するが、効果は限定的である。本研究ではボルテゾミブがプロテアーゼを阻害し、Ubタンパクを細胞内に蓄積させることでFISSのアポトーシスを誘導したことが示された。猫での薬物動態が不明であるが、臨床応用に向けた更なる研究が期待される。

2022.06

猫の非注射部位軟部組織肉腫:術後放射線療法の転帰

Non-injection-site soft tissue sarcoma in cats: outcome following adjuvant radiotherapy

Alenka Lavra Zajc, Aaron Harper, Jerome Benoit et al. J Feline Med Surg. 2022 May 31;1098612X221098961.doi: 10.1177/1098612X221098961.Online ahead of print.

目的:猫の非注射部位軟部組織肉腫(nFISS)の生物学的挙動と治療選択肢は、犬のSTSと比べ報告が限られている。この後ろ向き研究の目的は、補助放射線療法による治療後のnFISSの猫の転帰を評価すること。
方法:発生部位と組織学的所見から、注射部位肉腫と関連がないと示唆された軟部組織肉腫の猫の医療記録を調査した。全ての猫は顕微鏡的病変に対して、低分割照射(総線量32-36Gy(8-9Gy/回))または通常分割照射(総線量48-54Gy(3Gy/回))のいずれかで補助放射線療法を行った。
結果:合計18匹の猫が対象となり、17匹は四肢nFISSで、1匹は頭部に発生していた。9例は1回の手術後に、残り9例は再発による複数回の手術後に放射線療法を実施した。8例は低分割プロトコル、10例は通常分割プロトコルで治療された。追跡期間の中央値は540日(範囲51〜3317日)で、低分割プロトコルの3例(37.5%)と、通常分割プロトコルの5例(50%)の合計8例(44.4%)ので放射線治療後の再発が認められた。プロトコルに基づいてPFIを検討した場合、低分割プロトコルと通常分割プロトコルのPFI中央値はそれぞれ164日と2748日であった。統計的に、2つのプロトコル間に有意差は認められなかった(P = 0.636)。
結論と関連性:術後放射線療法は、nFISSの12/18頭の猫で良好な長期腫瘍制御をもたらした。腫瘍制御に対する線量と分割回数の重要性、結果に対する放射線療法開始前の手術回数の影響を評価するには、より多くの症例での更なる研究が必要である。

コメント

術後放射線療法は猫のnFISSの長期制御に寄与する可能性が示唆された。しかし、本研究では放射線治療後に44 %で再発が認められている。犬のSTSと比較して再発率が高く、猫は放射線障害が生じにくいことから、放射線量を再検討しても良いのではないだろうか。プロトコル間で再発までの期間に有意差がないという結果であったが、症例数を蓄積し、手術回数等の条件を揃えて評価する必要がある。

2022.06

根治的治療を受けた限局性原発性肺組織球性肉腫の犬の転帰

Outcome in dogs with curative-intent treatment of localized primary pulmonary histiocytic sarcoma

Caroline A. Murray, Jennifer L. Willcox, Carlos H. De Mello Souza et al. Vet Comp Oncol. 2022 Jun;20(2):458-464.doi: 10.1111/vco.12791.

背景:原発性肺組織球性肉腫(PHS)は、肺実質内に発生する樹状細胞またはマクロファージ由来の稀な腫瘍である。外科的切除と補助化学療法からなる根治的な治療を受けているPHSの犬の予後を調査している文献は限られている。
目的:標準化された局所および全身療法で治療された限局性PHSの犬の転帰を報告すること。
この集団の予後因子を特定すること。
症例:多施設後ろ向き研究が実施され、外科手術内容および組織病理診断を含む医療記録が遡及的に調査された。限局性PHSであることが確認され、原発腫瘍および腫大した気管気管支リンパ節の切除による根治目的の手術を受け、アジュバント療法としてCCNU単剤による治療を実施した犬を対象とした。
結果:2008年から2019年に治療を受けた計11施設の27匹の犬が対象となった。全体的な生存期間の中央値は432日であった。CCNUの投与量が66.6mg/㎡以上であることは、単変量分析に於いて生存に悪影響を与えるとされたが、多変量モデルにおいては有意な関連性を認めなかった。単変量解析で生存に関連することが見出されなかった因子には、体重、品種、診断時の臨床徴候、低アルブミン血症、腫瘍サイズ、病変を認めた肺葉、リンパ節転移、外科的切除マージン、およびCCNUの減量が含まれた。
結論:この研究は、根治的手術とアジュバンド化学療(CCNU)で治療された局所PHS犬の良好な予後を支持し、集学的治療が予後を延長する可能性があることを示唆している。

コメント

胸腔内転移があるPHSの症例でも、集学的治療により長期生存が可能であることが示唆された。本研究では症状の有無や血液検査の異常値等を含め、予後因子は特定されなかった。しかし、全ての症例で外科手術が選択されていることから、手術に臨める場所での発生であることが予後の延長に関連しているかもしれない。大規模な前向き研究による、さらなる情報の集積が望まれる。

2022.06

犬の副腎腫瘍における7段階CTグレーディングシステムを用いた血管浸潤の予測

Prediction of vascular invasion using a 7-point scale computed tomography grading system in adrenal tumors in dogs

Pascaline Pey, Swan Specchi, Federica Rossi. Et al. J Vet Intern Med. 2022 Mar;36(2):713-725.doi: 10.1111/jvim.16371.

背景:副腎腫瘍(AT)によるCT検査の精度を評価する先行研究では、後大静脈(CVC)浸潤の検出における二値化された基準のみを使用しており、その他の血管については評価されていない。
目的:血管浸潤を予測する際の精度と画像診断医間の再現性について、7段階CTグレーディングシステムを利用した。CT基準に基づいて決定木を構築し、腫瘍の種類を予測することを目的とした。
方法:レトロスペクティブ観察的横断的研究。血管浸潤を評価するための7段階CTグレーディングシステムを使用して3人の画像診断医が腹部CT画像を分析し、1人の画像診断医が副腎腫瘍の特徴を分析した。
動物:副腎腫瘍の摘出手術を受け、造影前後のCT画像を持つ犬
結果:91頭の犬; 副腎皮質癌45頭(50%)、褐色細胞腫36頭(40%)、副腎皮質腺腫9頭(10%)および未診断の腫瘍1頭。癌腫と褐色細胞腫は、造影前後のCT値、対側副腎の大きさ、腫瘍栓の短径と長径、腫瘍と腫瘍栓の石灰化領域の点で違いがあった。これらの違いに基づいて決定木が構築された。腺腫と悪性腫瘍は辺縁不整の点で異なっていた。血管浸潤の確率はCTグレーディングシステムに依存したが、スコア3〜6間は曖昧であり、血管侵襲の検出精度が低下した。画像診断医間の血管浸潤の評価一致率はCVCにおいては非常に優れており、他の血管では良好から中程度であった。造影CT検査の品質は、画像診断医のパフォーマンスと分析結果の一致率に影響した。
結論と臨床的重要性:CT検査の特徴は、画像診断医が副腎腫瘍の種類を予測し、血管浸潤に関する確率的情報を提供するのに役立つ可能性がある。

コメント

副腎腫瘍は生検リスクが高く、術前の診断が難しい場合がある。臨床所見、身体検査、血液検査、内分泌検査、尿検査等の情報を踏まえて総合的に判断するが、本研究で提案されている決定木や各腫瘍の特徴は、診断の補助に有用であると感じる。