Journal Club 202301

腫瘍科で行っているJournal Clubの要約を掲載いたします。内容の詳細につきましては原著論文をご参照ください。

2023.01

急速蒸発イオン化質量分析法を用いたリピドミクスによる犬の乳腺病変の同定

Rapid Evaporative Ionization Mass Spectrometry-Based Lipidomics for Identification of Canine Mammary Pathology

Domenica Mangraviti, Jessica Maria Abbate, Carmelo Iaria et al. Int J Mol Sci. 2022 Sep 12;23(18):10562. doi: 10.3390/ijms231810562.

本研究では、犬の乳腺組織をそのままの形で質量分析(MS)プロファイリングし、予測的な統計モデルを構築するための高速分析プラットフォームの利用を提案する。これはヒトの腫瘍学で既に検証されているように、獣医外科手術中の切除マージンを改善するために、様々な細胞変異をリアルタイムで同定するための新しい診断ツールとして使用される可能性がある。具体的には、急速蒸発イオン化質量分析法Rapid Evaporative Ionization Mass Spectrometry (REIMS) と外科用電気メス (intelligent knife-iKnife) を組み合わせて、組織学的に分類した乳腺サンプル (正常、過形成/異形成、炎症、腫瘍) からMSデータを収集した。脂質組成の違いにより、90%以上の精度で組織の識別が可能となった。未分類の乳腺サンプルに対してREIMSの認識能力をテストしたところ、98-100%の正答率で全てのサンプルを正しく識別することができた。健康な乳腺組織ではトリグリセリドの同定率が高く、変化した組織では細胞膜の形態的機能的変化を反映してリン脂質の多さが観察され、酸化物も暫定的に識別可能な特徴として同定された。得られたリピドミクスプロファイルは、そのサンプルに固有の特徴であり、iKnife 技術は、細胞代謝の化学変化に伴う乳腺組織の鑑別に有用であることが示唆された。

コメント

REIMSは組織の同定に有用な代謝物をリアルタイムで検出する技術である。ヒトの腫瘍学では一部の組織で腫瘍と正常組織の鑑別に成功しており、手術中のマージンコントロールに貢献している。本研究の結果を見るとiKnife 技術の精度は高く、獣医療においても局所再発のリスクを低下させ、再手術や術後放射線治療等の負担を軽減できるかもしれない。今後は更にデータが蓄積され、病態を識別するバイオマーカーの研究等が進むことに期待したい。

2023.01

犬の肝細胞癌に対する経皮的超音波ガイド下マイクロ波アブレーション治療:4例(2019-2020)

Percutaneous ultrasound-guided microwave ablation for treatment of hepatocellular carcinomas in dogs: four cases (2019-2020)

A Locatelli, E Treggiari, M Innocenti et al. J Small Anim Pract. 2022 Dec;63(12):897-903. doi: 10.1111/jsap.13546.

目的:原発性・転移性肝細胞癌に対する低侵襲治療法としての超音波ガイド下マイクロ波アブレーションを説明すること。
方法:4頭の家庭犬が、細胞診/病理組織診で診断された3つの原発性肝細胞癌と1つの転移性肝細胞癌に対して経皮的超音波ガイド下マイクロ波アブレーションを受けた。いずれの症例も、30~35W、10~40分間で複数の超音波ガイド下焼灼領域が形成された。10MHzの診断用超音波トランスデューサを用い、リアルタイムでモニタリングが行われた。処置は合併症なく行われ、直後にCTスキャンまたは腹部超音波検査が繰り返された。患者は当日または24時間後に経口鎮痛剤を処方されて退院した。
結果:肝細胞癌の焼灼に成功し、一部の症例では臨床症状や臨床検査値の改善がみられた。患者は39日から649日の間経過観察され、病態の進行は認められなかった。4頭の患者のうち3頭は、本論文執筆時点でまだ生存している。
臨床的意義:これら4頭の患者において、低侵襲の超音波ガイド下マイクロ波アブレーションは実行可能であり、直ちに合併症を引き起こすことはなかった。処置後、定期的に画像でフォローアップすることが推奨され、肝細胞癌の犬におけるマイクロ波ブレーションの有効性を確立するために、さらなる研究が必要であると思われる。

コメント

犬の肝細胞癌は無症状で進行し、発見時に既に手術不適応であることも多い。マイクロ波アブレーションはこのような症例に利用できるかもしれない。また、処置中に病変部の状態を観察して対応できるのは、超音波ガイド下でアブレーションを行う利点である。今回の4例で合併症は発生しなかったが、ヒトでは死亡を含む合併症が報告されているため、今後の研究で注意深く確認する必要がある。