Journal Club 202303
腫瘍科で行っているJournal Clubの要約を掲載いたします。内容の詳細につきましては原著論文をご参照ください。
2023.03
犬の抗神経成長因子モノクローナル抗体であるべジンベトマブの犬における実験室での安全性評価
Laboratory safety evaluation of bedinvetmab, a canine anti-nerve growth factor monoclonal antibody, in dogs
M Krautmann, R Walters, P Cole, et al. Vet J 2021 Oct; 276:105733. doi: 10.1016/j.tvjl.2021.105733. Epub 2021 Aug 12.
神経成長因子 (NGF) 阻害剤は、新しい鎮痛治療薬となり得る可能性がある。イヌのモノクローナル抗体 (mAb) であるべジンベトマブは、NGF に結合しトロポミオシン受容体キナーゼA (TrkA) および p75 ニューロトロフィン受容体 (p75NTR) 受容体との結合を阻害する。
今回の研究の目的は、3つの研究デザインにおいて成犬の実験用ビーグルにおけるべジンベトマブの安全性を評価することである。
評価項目は、一般状態、臨床病理学検査、毒性学検査であった。研究1では、心電図検査、神経学的検査、眼科検査、X線検査も行われた。研究2では、T細胞依存性免疫応答を評価した。研究3では、非ステロイド性抗炎症薬 (NSAIDs) であるカルプロフェンとベジンベトマブの短期同時投与の安全性を評価した。研究1と3には、病理組織学的評価が含まれた。研究デザインと方法には、文献やin virtoで述べられているNGFのシグナル伝達経路やmAbの構造的特徴に関連する潜在的な安全性の問題により誘導される形態学的および機能的評価が含まれた。スクリーニングレベルの手順では、アゴニストを標的、阻害するmAbsに関連する効果を評価した。
一般状態、神経学検査、眼科検査、関節のX線検査、免疫応答または機能における治療関連の有害な変化はなかった。短期間のNSAIDsとの同時投与の影響もなかった。治療による免疫原性は観察されなかった。
べジンベトマブ (1 mg/kgまたは3倍および10倍の用量を毎月皮下投与) は、正常な実験用ビーグルで6か月間投与、またはNSAIDsを2週間同時投与した場合、忍容性が良好だった。
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今回の論文では犬の抗NGFモノクローナル抗体であるべジンベトマブの正常犬への投与の安全性が示された。いくつかの報告では、犬の様々な腫瘍においてもNGFやNGF受容体であるTrkAが高発現していると報告されている。抗NGF抗体は、癌の疼痛緩和にも有効であると推測され臨床応用が期待される。NSAIDsが使用しにくい症例や、NSAIDsのみではコントロールが不十分な症例に使用してみたい。
2023.03
犬における脾臓腫瘤の良性・悪性の術前評価を目的とした多変量モデルおよびオンライン意思決定支援計算機の開発と検証
Development and validation of a multivariable model and online decision-support calculator to aid in preoperative discrimination of benign from malignant splenic masses in dogs.
Kristine E Burgess, Lori Lyn Price, Ryan King, et al. J Am Vet Med Assoc. 2021 June 15; 258(12): 1362–1371. doi:10.2460/javma.258.12.1362.
目的: 多変量モデルおよびオンライン意思決定支援計算機を開発し、犬における脾臓腫瘤の良性・悪性の術前判断を目的とした。
方法: 脾臓摘出術を受けた犬422頭の記録からレトロスペクティブに得た術前の臨床データを用いて多変量モデルを作成した。腹部超音波検査の画像と脾臓の組織学的スライドまたは組織学的レポートが評価可能であることが組み込み条件であった。脾臓悪性腫瘍の潜在的な予測因子と考えられる変数を分析した。最終的な多変量モデルについて多変量ROCカーブを作成し、曲線下面積(AUC)を算出した。このモデルは、個々の犬における脾臓悪性腫瘍の確率を推定するオンライン計算機の作成に使用された。
結果: 最終的な多変量モデルには、脾臓悪性腫瘍の確率を推定するために使用される8つの臨床変数が含まれていた。
脾臓悪性腫瘍確率:血清総蛋白濃度、2個以上のnRBCs/100WBCの存在、超音波で評価した脾臓腫瘤径、肝結節の数(0,1,2以上)、複数の脾臓腫瘤または結節の存在、中程度から重度の脾臓腫瘤不均質性、中程度から重度の腹水、腸間膜、大網または腹膜の結節。集団の曲線下面積は0.80であった。
結論: 本研究で開発したオンライン計算機(T-STAT.netまたはT-STAT.org)は、脾臓腫瘤の良性・悪性を推測することで、脾臓摘出術を検討する飼い主の判断材料の一つとなりうる。
コメント
日本では脾臓腫瘤は良性悪性に関わらず、確定診断および急変を回避することを目的に摘出されることが多いため、海外よりもこのモデルの有用性が低いかもしれない。また、 血管肉腫の特徴を基に作成されたモデルであるため、その他の悪性腫瘍の予測には適応しにくいのではないか。
2023.03
前頭洞癌の犬 41 頭(2001-2002)
Frontal sinus carcinoma in forty-one dogs (2001–2022)
Julia Gedon, Martin Kessler, Jarno M. Schmidt. Vet Comp Oncol. 2023 Feb 6. doi: 10.1111/vco.12880. Online ahead of print.
犬の前頭洞癌(FSC)に関する報告は少ない。このFSCを持つ41頭の犬のレトロスペクティブ研究(2001-2022)は、犬のFSCの疫学的および臨床的特徴を説明し、10頭におけるトセラニブ(TOC)とメロキシカムの併用療法の臨床経過と全生存期間を報告する。診断時の年齢中央値は10.6歳(6.5〜15.4歳)であった。雄と雌の比率は2.4:1であった。最も一般的な品種は、ジャックラッセルテリア(JRT)(n = 7; 17.1%)とロットワイラー(n = 3, 7.3%)であった。中頭種(70.6%)に発生が多く、短頭種(8.8%)には少なかった。多く認められた臨床症状には、顔面変形(87.5%)、痛み(40.0%)、眼脂、流涙(22.5%)、鼻汁(17.5%)および眼球突出(17.5%)が含まれていた。診断までに症状を呈した期間は、数日から9ヶ月まで様々だった。ほとんどの犬(69.4%)で篩板の融解が認められたにも関わらず、初診時には神経症状は認められなかった。11.5%では、転移または原発性肺腫瘍を示唆する肺病変が存在した。腫瘍の種類には、扁平上皮癌(58.5%)、上皮性悪性腫瘍(29.3%)、腺癌(9.8%)が含まれていた。10頭がTOC(中央値2.8mg / kg EODまたは週に3回)とメロキシカム(0.1mg / kg、EOD)(TOC-M)で治療され、8/10頭(80.0%)の患者で顔面変形の主観的な改善が得られた。TOC-Mの生存期間中央値は183.5日(範囲:120〜434日)であった。FSCは通常、篩板の融解を引き起こすが、明らかな神経症状は認められなかった。雄犬とJRTに発生が多い可能性がある。FSCでのTOC-Mの使用は有望であり、さらなる前向き研究が必要である。
コメント
客観的にフォローアップができている症例が少なく、正確な治療効果や予後が不明である。扁平上皮癌は骨に沿って浸潤することが多いため、CTによる骨融解のモニタリングや、MRIによる炎症の波及の確認が重要なのではないだろうか。前頭洞の腫瘍は鼻腔内腫瘍としてまとめられることが多い印象だが、扁平上皮癌が多いため、腺癌が多い鼻腔内腫瘍に倣った治療では効果が不十分であると感じる。IMRTや通常分割照射、加速照射によって予後を改善できるかも今後の課題である。
2023.03
精巣鞘膜と頬粘膜を用いた食道再建術:雑種犬における実験的研究
Reconstruction of a partial esophageal defect using tunica vaginalis and buccal mucosa autograft: an experimental study in mongrel dogs
Mohamed A Hashem, Elsayed Metwally, Yasmina K Mahmoud, et al. J Vet Med Sci. 2023 Mar 13;85(3):344-357. doi: 10.1292/jvms.22-0319. Epub 2023 Jan 30.
動物病院では、多くの臨床場面で食道再建が不可欠である。本研究では、犬の半周性の頸部食道欠損を再建するために、精巣鞘膜tunica vaginalis(TV)と頬粘膜buccal mucosa(BM)という2つの自家移植を提案した。
目的:この2つの移植片が食道欠損をうまく補修できるかどうかを検証することを目的とした。
材料と方法:雑種犬の雄12頭を2群(TV群6頭、BM群6頭)に分けた。頸部食道形成術の後、欠損部にTVまたはBMグラフトを移植した。2つの移植片を評価するために、内視鏡検査、血液検査、病理組織学的検査などが行われた。
結果:試験期間中(120日間)、観察された術後合併症は軽度であった。移植した部分の内腔は粘膜で覆われており、わずかに傷跡の後退が見られた。本来の食道と比較して、平均相対内腔径は有意に減少していなかった。重要なことは、14日後に測定されたコルチゾールと炎症マーカーのレベルが術前のレベルに戻ったことである。組織学的検査では、どちらの移植片も食道欠損を完全に再上皮化して修復したが、BM移植片は本来の食道と同様の組織構造を示した。
考察:両グラフトとも食道欠損を効果的に修復し、合併症も軽微であったことから、これらは犬における頸部食道形成術のための低コストで有望な臨床的選択肢として推奨される。
コメント
食道外科はリーク、癒合不全、食道狭窄等の術後合併症率の高い手術である。過去には筋肉、胃壁、空腸や結腸が自家移植に使用されてきた。本研究で使用されたTV、BM移植片は合併症が少なく、特にBMは本来の食道と同様の組織構造を示し、雌でも利用できるという利点がある。本研究の症例は食道の欠損部位が小さく観察期間も短いため、今後も症例数の蓄積とともに、欠損領域の大きさや長期的な合併症に関する更なる研究が求められる。