Journal Club 202404

腫瘍科で行っているJournal Clubの要約を掲載いたします。内容の詳細につきましては原著論文をご参照ください。

2024.04

猫の中程度から高悪性度の消化管リンパ腫の治療:
VAPC多剤併用療法で治療された55頭の猫のレトロスペクティブ研究(2017-2021)

Treatment of feline intermediate to high-grade alimentarylymphoma: A retrospective evaluation of 55 cats treated withthe VAPC combination chemotherapy protocol (2017–2021)

Toshimi Sugimoto, Yozo Okuda, Ayaka Shima et al. Biochem Biophys Rep.2022 Sep 5:32:101332. doi:10.1016/j.bbrep.2022.101332.eCollection 2022 Dec.

猫のリンパ腫の治療において最も一般的なプロトコールは、ビンクリスチン、シクロホスファミド、プレドニゾンによる多剤併用療法である。それに加え、L-アスパラギナーゼやドキソルビシン等が使用されることがある。本研究ではプレドニゾロン、L-アスパラギナーゼ、ドキソルビシン、ビンクリスチンの代わりにビンブラスチン、高用量のシクロホスファミドと経口プロカルバジンを使用した、新しい多剤併用療法(VAPCプロトコール)で治療されたリンパ腫の猫55頭の医療記録を評価した。評価項目は、治療反応性、毒性、無増悪生存(PFS)であった。グレード3または4の好中球減少症は、治療に関連した抗がん剤の投与量調整の最も一般的な理由であり、ビンブラスチンを投与された52頭の猫のうち8頭、シクロホスファミドを投与された55頭の猫のうち7頭、ドキソルビシンを投与された40頭の猫のうち1頭で発生したが、発熱性好中球減少症は2頭の猫でのみ確認された。測定可能な病変に対して化学療法を受けている38頭の猫のうち、26頭(68.4%)が完全寛解(CR)を達成した。3頭の猫が部分寛解(PR)を達成し、9頭の猫は寛解を達成できなかった。猫がCRを達成する可能性に影響を与える要因は特定されなかった。全55頭の猫(化学療法と手術を受けている猫を含む)において、PFSの中央値は184日で、1、2年、3年の生存率はそれぞれ35.4%、26.5%、26.5%であった。多変量解析では、CRを達成した40頭の猫の生存期間中央値は341日(PRで78日、NRで45日)であった。 PFSの期間は、リンパ球L:単球M比(> 3.4 = 700日 vs ≤3.4 = 126日)およびB細胞性かT細胞性か(それぞれ220日 vs 42日)によっても有意に影響を受けた。

コメント

生存期間はこれまでの報告とあまり変わらないが、CRを達成した場合の1年、2年生存率は高く、長期生存が期待できる。しかし、予後が長くなると思われる中間悪性度のリンパ腫の症例が半分程度含まれていることが、予後を延長している可能性があるのではないか。プロカルバジンのカプセルは消化器症状を呈する猫には不向きであり、プロトコール通りに治療するには、カプセルの内服を開始する11週目までに状態が改善し、食欲が戻っている必要があるかもしれない。

2024.04

犬のLGL65頭

Large granular lymphocyte lymphoma in 65 dogs (2005–2023)

Andrew D. Yale, Asia L Crawford, Irina Gramer et al., Vet Comp Oncol. 2024 Mar;22(1):115-124. doi: 10.1111/vco.12959. Epub 2023 Dec 29.

大顆粒リンパ球リンパ腫(LGLL)は犬ではまれなリンパ腫である。臨床症状、治療反応、および転帰に関する情報は限られている。この単一施設による後方視的研究の目的は、LGLLを発症した犬の臨床的予後、生物学的挙動、転帰、および予後因子の特徴を明らかにすることであった。65頭の犬が対象となった。最も一般的な犬種はラブラドール・レトリーバー(29.2%)で、最も一般的な徴候は嗜眠(60.0%)と食欲低下(55.4%)であった。最も多かった原発性病型は肝脾性(32.8%)と消化管性(20.7%)であった。20頭(30.8%)に末梢血または骨髄病変がみられた。32頭の犬が最大耐用量の化学療法(MTDC)で治療され、74.1%の犬に奏効が認められた。7歳以上の犬、診断時に好中球減少症または血小板減少症があった犬では、治療が奏効する可能性が低かった。MTDC治療を受けた犬の無増悪生存期間(PFI)中央値は17日(範囲、0-481)、全生存期間(OST)中央値は28日(範囲、3-421)、6ヵ月生存率は9.4%、1年生存率は3.1%であった。多変量解析では、単球症と末梢血病変はPFIとOSTの短縮と有意に関連していた。長期生存率(≧100日)は、細胞診でのリンパ球の大きさが中程度であることと有意に関連していた。LGLLの犬は化学療法に対して中等度の奏効率を示すが、全生存率は不良である。予後因子をさらに評価し、最適な治療を推奨するためには、さらなる研究が必要である。

コメント

本研究の結果から、犬のLGLの挙動などは明らかとなったが、化学療法のプロトコルは様々であり、各種プロトコル間での奏効率や生存期間は比較されていない。最適な治療に関しては未だ不明な点が多く、今後さらなる研究が必要と思われる。