Journal Club 202406

腫瘍科で行っているJournal Clubの要約を掲載いたします。内容の詳細につきましては原著論文をご参照ください。

2024.06

血液型に基づいた同種輸血と比較した、猫への犬血液異種輸血の回顧的研究:適応症、有効性、制限事項および副反応の検討

Retrospective study of canine blood xenotransfusion compared with type-matched feline blood allotransfusion to cats: indications, effectiveness, limitations and adverse effects

Maria Elkin, Noa Amichay-Menashe and Gilad Segev et al., J Feline Med Surg. 2023 July ;25(7):1098612X231183930. doi:10.1177/1098612X231183930.

異種血輸とは、ある種から別の種へと輸血する方法である。 同種血液の入手困難な場合や緊急の場合に、犬の血液を猫に輸血することが検討される。この研究の目的は、貧血の猫に対する犬の異種輸血の適応、有効性、限界、輸血関連の副作用を、クロスマッチした同種輸血と比較し、その生存率と長期的転帰を特徴づけることである。
方法:この回顧的研究(2013~2020年)では、犬の異種輸血または同種輸血を受けた猫を調査した。
結果:この研究には 311 匹の猫が含まれた (異種輸血 [X 群]、n = 105、同種輸血 [A 群]、n = 206)。異種輸血は、溶血 ( P < 0.01) や非再生性貧血 ( P < 0.001) を起こした猫よりも、出血を起こした猫の方が行われている。 金銭的な理由が、異種輸血を選択する最も一般的な理由 (49%)だった。輸血有害関連事象(TRAE) は、X群(37.1%)のよりA群(19.4%)よりも頻度が高く( P = 0.001)、遅発性溶血性輸血反応も同様だった(それぞれ85% vs 42.5%、P <0.001)。急性輸血反応(ATR)は、A群(60%)の方がX群(20%)よりも頻度が高く(P <0.001 )、X群(55%)の退院までの生存率はA群(73%)よりも低かった(P  = 0.007)。退院まで生存した猫の、30日後の生存率はそれぞれ90%と88%だった(P = 0.85)。
結論と関連性:犬から猫への異種輸血は、同種輸血が利用できない、または血液型検査が不可能な緊急事態において命を救う可能性がある。 Xグループの生存退院率はAグループよりも低かった。異種輸血を受けて退院まで生き延びた猫の長期生存率は良好だった。

コメント

異種輸血群での退院までの生存率低下の理由としては遅発性の輸血関連反応が関与している可能性がある。遅発性の溶血反応は、同種輸血の場合には多くが無症状であるが、異種輸血の場合には影響があるのかもしれない。異種輸血の適応としては、できる限り同種輸血での対応を検討した上で、同種輸血の入手が困難かつ輸血なしでは生命の危機に瀕する状況で、飼い主の同意が得られた際に選択するのが望ましい。

2024.06

経口投与されたクロフェレマーが雌犬におけるネラチニブ誘発性下痢の発生率と重症度に及ぼす影響

Effects of orally administered crofelemer on the incidence and severity of neratinib-induced diarrhea in female dogs

Michael GuyID, Andre Teixeira and Allison Shrier et al., PLoS One. 2024 Jan 24 ;19(1):e0282769. doi: 10.1371/journal.pone.0282769.

標的治療薬はがん治療に関連した下痢(CTD)の負担を増加させており、上皮成長因子受容体および受容体チロシンキナーゼを阻害するいくつかの薬剤では下痢の発生率および/または重症度が高い。ネラチニブは、乳癌治療薬として承認されている汎HERチロシンキナーゼ阻害剤であり、患者の95%以上に重度の下痢を引き起こす。クロフェレマーは、新規の腸管クロライドイオンチャネル調節薬であり、抗レトロウイルス療法を受けているHIV/AIDS患者の非感染性下痢の症状緩和のために承認された止瀉薬である。本研究の目的は、雌のビーグル犬において、ロペラミドを併用することなく、ネラチニブ誘発下痢の発生率/重症度を減少させるクロフェレマー予防の有効性を評価することであった。3頭の犬を用いたパイロット試験では、ネラチニブの1日最大耐容量が40~80mgであることが決定された。最終試験では、雌のビーグル犬24頭(8/群)にネラチニブ1日1回とプラセボカプセル(CTR)を1日4回、またはネラチニブ1日1回とクロフェレマー125mg遅延放出錠を1日2回(BID)、またはネラチニブ1日1回とクロフェレマー125mg遅延放出錠を1日4回(QID)投与した。糞便スコアは、ピュリナ糞便スコアリング(PFS)システムと呼ばれる確立された犬の便スコアリング尺度を用いて1日2回収集した。28日後、共分散分析(ANCOVA)を用いると、クロフェレマーBID群(8.71±2.2 vs. 5.96±2.2、p = 0.028)またはクロフェレマーQID群(8.70±2.2 vs. 5.74±2.2、p = 0.022)と比較した場合、CTR群の犬の週平均緩・水様便回数(PFSが6または7)は有意に多かった。また、週平均緩・水様便回数は、クロフェレマーBID投与群とQID投与群で差はなかった(p=0.84)。本研究により、クロフェレマー予防投与は、ロペラミド投与の必要なく、雌ビーグル犬におけるネラチニブ関連下痢の発生率/重症度を減少させることが示された。

コメント

クロフェレマーの作用機序が分泌性下痢の根本的な解決策である点が興味深い。2022年に論文が出た犬の移行上皮癌の治療に使用されるタイケルブはネラチニブと同世代のEGFRと HER2に対する分子標的薬であり、タイケルブの服用で便が緩くなった場合、クロフェレマーで対応できるかもしれない。