Journal Club 202409

腫瘍科で行っているJournal Clubの要約を掲載いたします。内容の詳細につきましては原著論文をご参照ください。

2024.09

犬口腔内メラノーマに対するオンセプトを用いた集学的治療

Multimodality treatment including ONCEPT for canine oral melanoma : A retrospective analysis of 131 dogs

Michelle Turek, Tracy LaDue, Jayme Looper et al. Vet Radiol Ultrasound, 2020:61:471-480. doi: 10.1111/vru.12860

犬口腔内メラノーマは、高い転移率を示す進行性の腫瘍性疾患である。外科的治療および放射線照射は効果的な局所治療法であるが、多くの犬は遠隔転移により死亡する。免疫療法は、免疫原性の腫瘍に対する効果的な治療法である。本研究の目的は、オンセプトメラノーマワクチンで治療された口腔内メラノーマの犬の臨床転帰を検討することである。ほとんどの犬は外科的治療や放射線照射(8Gy×4回)も受けていた。遠隔転移している症例および、オンセプトと同時に化学療法を受けた症例は除外された。131頭のオンセプト治療された症例が対象となった。うち62頭では適切な局所制御を受けており(完全な外科的切除または微小病変に対し放射線照射が実施された症例)、15頭では微小病変が認められ(不完全切除後に放射線照射が実施されていない症例)、54頭では肉眼病変が認められた。腫瘍増大までの期間の中央値(TTP)、無増悪生存期間中央値(PFS)、腫瘍特異的生存期間中央値(tumor-specific OS)はそれぞれ304日、260日、および510日であった。多変量解析において、肉眼病変の有無はすべての臨床転帰の指標と負の相関を示した。その他の予後不良因子は、原発腫瘍の大きさが2㎝以上であること、高い臨床ステージ(ステージ2または3)、リンパ節転移の有無、口腔内の尾側に病変が存在することであった。また、放射線治療が腫瘍の進行を抑制する効果を示す可能性が考えられた。本研究は、現在までのオンセプトで治療された口腔内メラノーマの犬に関する報告としては最大の報告であり、以前に報告された予後因子が確認された。

コメント

本研究において、オンセプトの使用により生存期間延長の可能性が示唆された。全身治療として局所治療と併用しつつやってみる価値があるかもしれない。また、オンセプトの適用対象は局所病巣が切除または放射線治療により十分に管理されたステージ2または3の症例とされているが、今回肉眼病変に対し効果があった点が興味深いと思った。オンセプトが局所治療の一助となるか否かを調べるには、肉眼病変のある症例を用いたさらなる研究が必要である。

2024.09

放射線治療のための頻回麻酔を受けた犬に対する麻酔プロトコル変更後の肺炎リスクの減少

Reduced risk of pneumonia after changes in anesthetic procedures for dogs receiving repeated anesthesia for radiation treatment

Courtney Baetge, Kevin J. Cummings, Michael Deveau et al., Veterinary Radiology & Ultrasound, 2019 Mar;60(2):241-245 doi: 10.1111/vru.12693. Epub

放射線治療は、肺炎に代表されるような麻酔合併症リスクが高い症例に対し、頻回麻酔を必要する。本研究は、放射線のための頻回麻酔として従来の麻酔プロトコルを受けた146頭の犬と新たな麻酔プロトコルを受けた149頭の犬を比較したレトロスペクティブ研究である。プロトコル変更がこれらの症例に対して肺炎リスクを減少させうるかどうか検証した。具体的な変更点としては、抗コリン薬やμオピオイド作動薬の使用量減少、挿管および覚醒時の体勢変更、悪心に対する対応、カフの膨張と縮小のタイミング、挿管器具の無菌的使用が挙げられる。プロトコル変更、神経腫瘍の有無、呼吸器疾患の有無、巨大食道症の有無、完了した放射線分割数といった項目が肺炎発生に有意な関連性を示した。一方で、年齢、体重、性別は肺炎の発生には関与しなかった。上記3つの併発疾患と完了した放射線分割数を考慮した多変量ロジスティック回帰モデルでは、従来の麻酔プロトコルでの肺炎の診断リスクが約10倍高かった(オッズ比=9.9、95%信頼区間=2.0-48.7、P値=0.05)。

コメント

腫瘍科で行われる放射線治療は、高齢かつ基礎疾患を有する症例に対して頻回麻酔を必要とする。特に神経腫瘍、呼吸器疾患、巨大食道症といった基礎疾患が存在する場合、さらに麻酔合併症のリスクが上がることは当然である。本報告は、そのような潜在的な麻酔リスクが高い症例についても、麻酔プロトコル変更により肺炎リスクが顕著に軽減されたことを示した。複数の変更がなされているため、どの変更点が最も結果に寄与したかは不明だが、いずれも比較的実行しやすい変更点なので今後の放射線治療時に積極的に取り入れたい。