Journal Club 202410

腫瘍科で行っているJournal Clubの要約を掲載いたします。内容の詳細につきましては原著論文をご参照ください。

2024.10

APB-F1(ネコ血清アルブミンに特異的なキメラFabであるFL335を利用して作成した長時間作用型ネコ顆粒球コロニー刺激因子融合タンパク質)

APB-F1, a long-acting feline granulocyte colony-stimulating factor fusion protein, created by exploiting FL335, a chimeric Fab specific for feline serum albumin

Hyun-jin Chi, Mihyun Park, Jae-kyu Han et al., Vet Immunol Immunopathol. 2021 Oct:240:110322. doi:10.1016/j.vetimm.2021.110322.

好中球減少症の犬や猫の治療において、ヒト顆粒球コロニー刺激因子(hG-CSF)の適応外使用が許可されている。しかし、hG-CSFを繰り返し投与すると抗薬物抗体 (ADA) 反応が誘導されることや、投与頻度、通院回数、コストの問題において、動物の治療薬として長時間作用型の動物由来 G-CSF 製剤が必要である。
そこで、猫の好中球減少症治療として、長期作用型治fG-CSFを開発するという最終目標に向けて、猫血清アルブミン (FSA) に特異的なキメラFabであるFL335と、猫G-CSF(fG-CSF)を遺伝子的に組み合わせ、FL335-fG-CSF融合タンパク質(APB-F1)を生成した。in vitro 実験では、APB-F1は高親和性(KD = 400 pM)にFSAに結合することや、他のG-CSF製剤同等の生物活性を有する機能性を証明した。健康な猫を用いた薬物動態(PK)および薬力学(PD)研究により、APB-F1 の血清半減期(t1/2)がfG-CSFと比較して、5倍延長されたことが明らかになった(t1/2 = 13.3時間 vs 2.7時間)。さらに、APB-F1は、白血球 (WBC) および実際の好中球数 (ANC) の大幅かつ持続的な増加を最大 10 日間誘導した。これはフィルグラスチム(Neupogen™)やペグフィルグラスチム(Neulasta™)を含む他のG-CSF製剤よりもはるかに優れていた。
結論として、FL335を使用することで強力な生体内生物活性を持つ長時間作用型fG-CSFの作成に成功した。本研究により、非常に効果的で長時間作用する治療用生物学的製剤を手頃な価格で生み出すことに達成し、動物と飼い主の両方に多大な利益をもたらすことができると考えられる。

コメント

犬や猫は、人間とは異なり病気が進行するまで症状を隠す傾向があり、それが重篤な状態につながることがある。悪性腫瘍の治療における化学療法の副作用として問題となるのは、骨髄抑制の結果として生じる発熱性好中球減少症(FN)で、リンパ腫の治療導入時のFNによる死亡率は8.5%にも及ぶ。好中球減少症の治療薬として、hG-CSF製剤を臨床で使用しているが、上記当論文序論で述べられている問題点がいくつか存在する。
種特異的かつ長期作用型G-CSF製剤は、動物と飼い主様両方にメリットをもたらす可能性があり、早急な臨床応用が望まれる。また、人間で一部の癌の化学療法の際、長期作用型G-CSF製剤を予防的に使用しているが、動物でも同じように予防的な使用が可能であれば、化学療法剤の用量を増やすことができ、薬剤強度の増強に繋がるかもしれない。