過去のセミナーの資料をご覧いただけます。
日時 | 2007年4月26日(木)21時~23時 | |
---|---|---|
会場 | 岐阜大学応用生物科学部1階 ・ 第101講義室 | |
講演内容 | 教育講演 | がんの治療にとって最良の治療とは?---診断手順と治療戦略を考える--- |
症例検討【1】 | 肺好酸球性肉芽腫が疑われた犬の1例 | |
症例検討【2】 | 頚部椎間板突出症に対する髄核融解療法 |
講師 丸尾 幸嗣(腫瘍診療科・分子病態額教室・教授)
日常よく診察する機会が多いがん症例の診断と治療の進め方について解説する。特に診断においては、腫瘍か非腫瘍か、良性か悪性か、転移の有無に注目して各種検査を実施する。そして生検により確定診断を下し、その腫瘍の種類と病巣の局在を詳細に検討して、さらに動物の全身状態等を加味して治療の方針を立てる。まずは動物にとって最良の診断と治療を思考し、飼い主さまに提示することが伴侶動物医療の原点である。今日診断治療機器の進歩は目覚ましく、それらを有効に活用することはもちろんであるが、診断治療に関する情報も日々蓄積されている。これらについて実際の症例を交えて、がんの動物にとって最良の診療とは何かを考えたい。
講師 大谷 紗智子(上林動物病院・獣医師)
犬の好酸球性肉芽腫は稀な疾患であり、特に呼吸器に発症した好酸球性肉芽腫の報告はあまりなく、その原因として、寄生虫感染の関与が示唆されている。
症例:ポメラニアン(雌 2歳7ヶ月 体重2.4 kg、フィラリア予防と混合ワクチン済)が以前から時々咳をしていたが、2週間前からひどくなり、他院を受診したが、日に日に悪化してきたので本院を受診した。最初の診察日の血液検査では特に異常は認められなかった。レントゲン検査では、気管虚脱像を認めたため、抗生物質とアミノフィリンを投与したが改善しなかった。その後、咳がひどくなり、食欲も減少したことから、再度血液検査を行い、好酸球数増加がみられた。また、再度のレントゲン検査で結節状陰影を認めたことから肺好酸球性肉芽腫を疑い、プレドニゾロン投与を開始した。その結果、咳はみられなくなり、食欲も改善したため、現在は、プレドニゾロンの漸減中である。なお、本犬での寄生虫検査では虫卵(-)であり、犬糸状虫抗原も陰性であった。
猫の好酸球性肉芽腫の要因としては、ノミや昆虫のアレルギー、食物過敏症、アトピーや遺伝性が考えられるが、犬の場合は、寄生虫の関与も示唆されているが良くわかっていない。今回の症例に関しても原因は不明である。
講師 上野 博史(放射線診療科・獣医臨床放射線学教室・準教授)
犬の椎間板突出症の治療法の一つとして髄核融解療法があげられる。通常、胸腰部椎間板突出症に対して、本方法はX線透視下にて椎間板内に注射器を刺入して経皮的に髄核融解酵素を注入する。しかしながら、頚部では脊髄動脈や神経の走行と注射針の刺入点が重なるため、解剖学的に経皮的な酵素剤の投与は困難である。
そこで腹側正中切開術により頚部椎間板にアプローチし、可視下にて酵素剤を注射する方法を用いた。さらに酵素剤として安全性の高いコンドロイチナーゼABC(C-ABC)を用いた。
これまでに本法を適用した症例では、いずれも適用前と比較して臨床症状は改善し、再発も認められていない。
本方法には(1)高度に変性した髄核には不適用な点、(2)費用的問題、(3)試薬を使用する点、(4)観血的アプローチを要する点といった適用上の制約、問題点があり、全ての症例に適用できる方法ではない。しかしながら、本方法は観血的なアプローチを必要とするものの、従来の方法と比較して(1)手術時間の短縮、(2)外科的侵襲および疼痛の軽減、(3)多発性病変への応用の可能性といった利点を有しており、特に頚部におけるハンセンII型多発性病変に対しては有用な方法であると考えている。