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日時 | 2011年4月24日(日) 15時~17時 | |
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会場 | 岐阜大学応用生物科学部1階 ・多目的セミナー室 交通案内はこちら | |
講演内容 | 教育講演 | 免疫介在性疾患に対する臨床アプローチ |
症例検討【1】 | ネコにおいて多発性骨髄腫と診断した一例 | |
症例検討【2】 | 犬の生殖器腫瘍50例におけるRetrospective Study | |
協賛企業 | 株式会社インターズー |
講師 前田 貞俊(内科)
正常な個体においては、自己の免疫系が自身の組織を攻撃しない、あるいは外来抗原であっても過剰な免疫反応が生じないような調節機能が備わっている。この調節機構が破綻すると組織破壊を引き起こす炎症反応が生じ、傷害を受けている組織に応じて様々な臨床症状を発現することになる。理論上、生体の構成物はすべて自己抗原になり得るが、内分泌腺、神経組織、眼、血液細胞、血管、皮膚、関節および筋組織に対する自己免疫反応が問題となることが多く、標的組織によっては致死的な転機をたどることもある。また、腸管や皮膚など外界との境界面にある組織では、通常では免疫原としては働かないような外来抗原に対する過剰な免疫反応が誘導され、それに伴う炎症が組織の機能不全を引き起こしてしまう場合がある。このような場合、生体における免疫反応を抑制させ、炎症反応を速やかに沈静化させる処置が必要になってくる。今回のセミナーでは、小動物臨床において代表的な免疫介在性疾患に対する免疫抑制剤の使用法を中心にその臨床的対応法について解説する。
講師 高島 諭(内科)
多発性骨髄腫は骨髄における形質細胞の腫瘍性増殖であるが、ネコにおいては報告が少ないため、その病態の特徴については不明な点が多い。今回、多発性骨髄腫と診断した症例を経験したので、その概要を報告する。症例ネコは雑種、雄、11歳11ヵ月で、食欲低下と嘔吐を主訴に岐阜大学動物病院に来院した。重度の脱水と削痩が認められた。血液検査では、軽度の貧血(Hct21%)と高タンパク質血症(TP16 g/dl)が認められた。血漿アルブミン値が2.9g/dlであったため高グロブリン血症と判断した。ウイルス等の感染症を疑う所見はみられなかったため、免疫グロブリン異常を疑い血清タンパク分画をセルロースアセテート膜電気泳動により測定したが、γ-グロブリン分画が単クローン性に鋭く高い(71.1%)泳動パターンを認めた。そこで単クローン性免疫グロブリン(Mタンパク質)の出現する疾患を疑い、以下の検査に進んだ。M蛋白の一つにベンスジョーンズ蛋白(BJP)があるが、症例の尿および血清のSDS-PAGEでは分子量20~25kDa付近にバンドを認め(BJPの分子量23~45kDa)、また尿BJP定性試験(56℃で白濁沈殿して100℃で再び溶解)でも陽性を示した。全身のX線検査では、左後肢橈骨皮質骨の一部に欠損部位(パンチアウト像)が発見された。さらに、骨髄生検を上腕骨骨頭および皮質骨欠損部位から実施したが、骨髄における形質細胞の比率が2~8割と著しく多く、形質細胞性骨髄腫と病理診断された。以上より、本症例を多発性骨髄腫と診断した。現在、ネコにおける多発性骨髄腫の診断はイヌの診断基準がそのまま適用されている。ネコにおける症例数の少なさは、臨床病理検査により正しく診断されていない可能性を示す。ネコにおける多発性骨髄腫についても症例データの集積が必要である。
講師 柴橋 彩美(腫瘍科)
犬の生殖器腫瘍は雌であれば卵巣腫瘍、雄であれば精巣腫瘍が大部分を占める。近年早期の不妊手術が一般化するに従い、目にする機会が減ってきている腫瘍ではあるが、加齢に伴う発生率の上昇が示唆されており、高齢の未避妊雌、未去勢雄においては罹患率が高いと考えられている。基本的には外科的手術により治癒することが多いが、中には腹腔内に大腫瘤が形成される症例もあり、手術が困難になることも少なくない。そこで2005年から2010年の過去6年間に岐阜大学動物病院において外科摘出された生殖器腫瘍50例について回顧的検討を行った。発生年齢、発生割合、組織学的分類や臨床病期、予後などについて統計学的に分析し、さらに化学療法、放射線療法を行った症例について考察する。
株式会社インターズー様のご協力により、教育講演の内容を、J-VET誌 2011年3月号 65~72ページに掲載しています。今後も、臨床セミナーの教育講演の要旨がJ-Vet誌に事前(1ヶ月前)に掲載されます。