診療術前準備・検査

麻酔計画

麻酔を実施する前に、麻酔中に起こりうる有害事象やその対処法を予測し、準備しておくことがとても重要となります。
以下のようなことを念頭に置き、ワークシートを使用して麻酔計画書を作成します。

麻酔薬の選択

動物の状態から、使用する麻酔薬、麻酔方法を選択します。

  • 肝機能に問題がある動物では、肝臓で代謝される薬剤を回避
  • 脳外科手術ではプロポフォールの持続点滴を行い、吸入麻酔を補助的に使用

など

鎮痛薬の選択

手術内容から疼痛の程度を予測し、動物の状態、手術部位、手術時間、入院期間などを考慮して鎮痛薬や鎮痛法を選択します。

  • 鎮痛効果の強い麻薬性オピオイドを使用
  • 神経ブロック、硬膜外麻酔など局所麻酔の選択

など

昇圧剤の準備

抗コリン薬やアドレナリン作動薬をあらかじめ準備しておきます。

  • 昇圧剤のボーラス投与で間に合わない場合、昇圧剤の持続点滴を実施
  • 腎機能や心機能に問題がある場合、麻酔開始前から昇圧剤を投与

など

その他

  • 抗生剤の選択
  • 制吐剤、制酸剤などの使用
  • 輸血の準備
  • 症例ごとに必要な薬剤(抗てんかん薬・蛍光造影剤など)の準備
  • 緊急薬の確認

など

岐阜大学動物病院で使用している
ワークシート

想定される反応、もしもの際の対応まで考えて麻酔計画を立てます。

術前検査

ご来院後、担当獣医師から説明があり、お預かりとなります。
各種検査を実施し、ワークシートのような項目を評価し、総合的に判断して麻酔リスクを評価します。

岐阜大学動物病院で使用している
ワークシート

身体検査

触診

実際に動物を触り、体格、大腿動脈圧、開口の可否などを調べます。

聴診

心臓から雑音が聴取されれば超音波検査、呼吸音の異常を認めればレントゲンやCTなど、より詳しい検査を追加します。

視診

毛細血管再充満時間(CRT)や粘膜色などを観察します。

聴診

血液検査

血球計数検査

赤血球、白血球および血小板の数を計測し、貧血の有無や感染症の可能性などを調べます。

血液生化学検査

肝数値や腎数値、アルブミンなど、必要な項目を検査し、麻酔および手術の可否を判断し、麻酔時の注意点を洗い出します。

血液凝固検査

出血した際の血の固まりやすさを検査し、手術に備えます。

血液ガス測定

血液中の酸素分圧、二酸化炭素分圧、pH、重炭酸イオンなど(その他多数の項目)を測定し、適切な輸液剤を選択します。

血液ガス測定装置
輸液ポンプ/輸液シリンジ
共に点滴のための機器です。輸液シリンジは、より小さな流量での投与、より細かい流量の調節が可能となります。

麻酔リスク分類:
ASA-PS( American Society of Anesthesiologists physical status )分類

ASA-PS分類とは、動物の全身状態と麻酔のリスクを合わせた評価分類であり、麻酔におけるリスクを予測し、リスクを避けることを目的とします。当院では、身体検査や血液検査、レントゲン検査などの検査や診察から得られた情報に基づき、ASA-PS分類を実施しています。

数字が高くなるにつれ、リスクは高くなります。

PS1 全く健康もしくは局所的疾患で、全身状態は極めて良好な動物
PS2

局所的疾患で全身状態は良好、もしくは軽度の全身疾患のある動物

※極度の肥満・削痩、高齢、新生子、短頭種のいずれかに該当する場合は、PS1ならばPS2a、PS2aならばPS2bとして段階を上げて分類します(このPS2の段階を分ける評価法は、当診療科独自のものとなります)。

PS3 中程度〜重度の全身疾患があり、活動低下が認められる動物
PS4 生命にかかわる重度の全身疾患で、活動ができない動物
PS5 極めて重篤な状態にあり、手術の有無に関わらず24時間以内の生存が期待できない動物

※肥満は麻酔リスクを高めますが、急激なダイエットは動物への過度な負担となります。手術のために急なダイエットをはじめるようなことはせず、まずは担当獣医師とご相談ください。

麻酔関連死について

残念ながら、どんなに熟練した獣医師が麻酔にあたっても100%安全な麻酔というものはありません。フランスのある調査では、麻酔に関連した死亡率は健康的な犬と猫(PS1〜PS2に分類された犬と猫)でも合わせて0.12%(1000頭に1-2頭)と言われています。以下は、その報告におけるPS分類ごとの麻酔関連死亡率です。

PS1: 0.0%、PS2: 0.12%、PS3: 4.77%、PS4: 7.58%、PS5: 17.33%