脳腫瘍は中高齢の犬と猫において一般的な疾患で、原発性と転移性の脳腫瘍に分けられます。原発性の脳腫瘍は、脳そのものにできる脳実質内腫瘍と脳を覆う髄膜にできる髄膜腫瘍に分けられます。転移性脳腫瘍は、他の臓器の悪性腫瘍が脳に転移した結果発生します。脳腫瘍には良性と悪性がありますが、動物に発生する脳腫瘍の多くは悪性の挙動を示すため、早期診断と早期治療が最も重要です。
脳腫瘍の最も多い症状は痙攣(けいれん)です。動物が若い場合は、てんかん(特発性てんかん)や脳炎などの可能性が高いですが、中高齢の動物で痙攣が繰り返し起きる場合は、脳腫瘍の可能性があります。その他の症状は腫瘍が発生した部位により大きく異なり、視力障害、歩行障害、性格の変化、意識状態の低下など様々です。
脳腫瘍を疑うきっかけになるのは、上記のような神経症状です。これらの症状が中高齢の動物に見られ、身体検査や神経学的検査によって脳の疾患が強く疑われたら、CTやMRIによる精密検査が必要になります(血液検査やレントゲン検査では脳腫瘍は診断できません)。多くの場合、精密検査で脳腫瘍は診断可能ですが、脳腫瘍とはっきりと区別できない疾患もあります。その場合は、一定の時間をあけてから再検査が必要になることもあります。
MRI検査により診断された犬の脳腫瘍
左:手術前。矢印で示した部分が造影剤により染まっている脳腫瘍。
右:手術後。病理診断は退形成性グリオーマ。
脳外科手術の様子
手術用顕微鏡を用いることにより手術の精度は格段に上がっている。また小さい切開で腫瘍を切除できるため、動物に対する負担も最小限にすることが可能になった。
脳炎の原因は感染性と非感染性に分けられます。感染性脳炎は細菌やウイルスによって起きますが、犬では感染性の脳炎は稀で、ほとんどは非感染性脳炎です。猫では猫伝染性腹膜炎ウイルス(FIP)によって脳炎が起きることがあります。犬の非感染性脳炎の原因は不明ですが、自己の免疫異常が関係していると考えられています。診断には脳のMRI検査、脳脊髄液検査、血液中の抗原または抗体検査等が必要になります。治療は疑われる原因により異なりますが、非感染性脳炎であればステロイド剤や免疫抑制剤などを使用します。痙攣がある場合には、抗てんかん薬も使用します。
先天性脳疾患とは、生まれつき脳に形態的または機能的な異常があることで、様々な疾患が含まれます。治療が可能かどうか、または治療が必要かどうかは症状の重さや疾患のタイプによって異なります。以下に最も一般的な先天性脳疾患である水頭症について解説します。
水頭症は脳室と呼ばれるスペースに過剰な液体(脳脊髄液)がたまり、脳に異常な圧がかかる疾患です。先天性水頭症は猫よりも犬で多く、脳脊髄液の通路が塞がったり、狭くなったりするために、脳室が拡大します。通常、症状は生後半年から1年くらいの間に出てきます。元気がなくなる、ぼーっとしていることが多い、寝る時間が長い、といった症状が一般的です。痙攣(けいれん)を起こす犬もいます。進行すると歩行障害や視力障害が出てきます。
先天性水頭症の犬は頭部が大きく、両目がやや外側に向いているのが特徴的で、その外貌が診断のきっかけになることがあります。確定診断にはCTやMRI検査を利用します。初期治療には利尿剤やステロイド剤を使いますが、症状が重度であったり進行性の場合は、手術を行います。水頭症の外科治療は、人の水頭症と同様に、脳からお腹に余分な脳脊髄液を流すための脳室腹腔シャント術(VPシャント術)が一般的です。